08・情報操作で街に出よう!
とにかく イザベルの提案で これからの方針は決まった。
それなら 今日のうちに先手を打っておいた方がいいだろう。
「シャルロット、辛いかもしれないけどもう一回 店回りしてくれないかな?」
理由を話すまえにイザベルに噛み付かれた。
「ちょっと!トール‼︎ アンタ それどうゆう意味よ?」
シャルロットも不安そうな目で 僕を見ている…
それだけ聞いたら さっきまでの話を反故にして
『他所で働き口を探せ』って意味だと思われても仕方ないか?
「待った!感違いしないで?
僕が言ってるのは 『アリバイ作り』みたいな事だから!
もう一度 仕事探しをした街で こう言う風に聞いてもらいたいんだ。
【トールという人がやってる服屋をしりませんか?
この近くの筈なのですが 迷ってしまって いとこの店なんです】
ってね。」
イザベルもすぐ察してくれたようだった。
「ああ、ナルホド そう言う事ね…」
だけどシャルロットのほうは 理解出来ないようだ
「あの……トール様の おっしゃる事でしたら 私 やります 。
でも なんでそんなこと…?」
「ええとね、たとえば 明日にでも イザベルの計画通りに
僕が『親戚のハーフエルフのシャルロットを自分の店の手伝いに雇った』
ということを世間に 知らせようとするよね?
そうなれば 絶対数の少ないハーフエルフの話だから
シャルロットが それ以前に他のお店に仕事探しに回ってたことも
一緒に耳に入って来ると思うんだ。」
「ああ! はい、そうですよね…
あ、それだと 親戚の店で働くのが 決まってるのに
わざわざ近くの他の店で仕事探ししてたのは 変ですよね」
「うん、うちに断わられて 他を回ってたのなら 分かるけどね?
だから 君が 他を回ってたのは 「この近くにある筈の僕の店を探してた』って……
そういう風に印象づけるのが 目的なんだよ 」
「でも、わたし今までまわった店では
トール様のお店の事を尋ねたりしてませんけど…」
「そりゃあ そうだろうけど、
直接 シャルロットが訪ねた店の人はともかくとして
今までのシャルロットの行動と今日これから起こす行動が
どう世間の人達に広がるか?って考えてみるとね、
・トールの店で親戚のハーフエルフを雇ったらしい。
・ハーフエルフが このあたりの店で仕事を探してたらしい。
・ハーフエルフが このあたりで親戚のトールの店を探してたらしい。
こんな噂が 別々に聞こえて来るコトになると思うんだ。
それに 今までこの辺りにハーフエルフなんていなかった事実を組み合わせると
人の頭ってのは 勝手に納得の行くストーリーを作りあげちゃうもんなんだよ、
【遠くから 親戚のトールを頼って出て来たハーフエルフが
トールの店の場所が 分からず 聞いてまわった
それはトールの店で仕事をするためだった。】 って……こんな風にね」
続けてイザベルが 補完してくれる、
「そして それは 突然 現れたシャルロットが
不慣れな遠い場所から来たことを印象づけて
『この辺りに 隠れ住んでいたのでは?』っていう発想に蓋をしてしまうでしょうね?」
「うん、そしてその『贋の経歴』の 信憑性が 高まって この辺りに定着すれば
シャルロットを無理に連れ戻そうとすることが 難しくなる」
「うん、うん 。それに 『贋の経歴』が 真実味を帯びてくれば
本当のシャルロットの関係者も その設定に乗っかって
放っておいた方が得策だと考えてくれるかもしれないしね?」
「ただ 運良くそう流れてくれたとしても
『いつか 真実をバラされるのでは?』とか
『これをネタに強請られるのでは?』って疑念は 残るだろうけどね、その辺りを……」
「あ、あのう……」
シャルロットの申し訳なさそうな声で 僕らは我に返った。
当事者のシャルロットを置き去りにして
僕とイザベルで勝手に盛り上がってしまってた!
「ごめん、シャルロット!本人の意見も聞かずに勝手に話を進めてしまって …
つい のめり込んじゃって…」
「いいえ!とんでもありません、わたしなんかのために…
トール様が真剣に考えてくださって 勿体無いです!やらせていただきます!」
「トールだけじゃあ無くって わたしもだけどね? ……ま、いっけど?」
イザベルは 冗談のつもりなんだろうけどシャルロットには通じていない様だった。
「も、もうし訳ございません! 勿論イザベル様にも感謝しております!
貴族の方に 自分なんかのことを心配していただけるなんて 勿体無いです!」
「ちょ、ちょっと冗談だってば!もう〜
でも シャルロット ? 確かに世の中 ハーフエルフに辛く当たってるけど
少なくとも私達には 普通に接してちょうだい?」
「は、はい!申し訳ありません!」
イザベルは諦めた様に 手のひらを上にむけて両手をあげ 小首を傾げて僕を見た。
異世界でも共通のポーズらしい。
「シャルロットが 了解してくれたんなら これから出かけよう!
イザベル、馬車で来てるんだろう?乗せってってくれよ?
終わったら 帰りに みんなで 美味しいケーキ屋さんでも寄ってこうよ!
イザベル、詳しいんだろ?」
僕が 少しでも楽しそうな提案を織り交ぜてみたのは、
実行役のシャルロットに
もう一度辛い想いをさせてしまう事への後ろめたさからだったと思う。