07・貴族令嬢は男前?
「あらあら、あら? トール?この子泣いちゃってるけど?
アンタも ハーフエルフ いじめちゃうクチだったの?チョット意外かも?」
シャルロットの泣き顔をみてイザベルが言った。
さっきまでの僕らのやり取りを聞いてたんだし
しかもチョットおどけた口調だから 本気で言ってないことは分かった、
「トール様は!ちがいます!わたしなんかでも…ちがいます!」
だが シャルロットには 冗談だとは分からなかったようだった。
僕が 後ろから掴んでいた腕を振りほどいて
イザベルの手を取っていた。
「あ!ああ、申し訳ございません‼︎」
シャルロットは すぐにイザベルの手を離し 一歩さがって床に着くくらいに頭を下げた。
「すまない!イザベル様、これは全部自分の責任で!申し訳ございません」
僕もすぐにイザベルとシャルロットの間に入って頭を下げた。
「もう!やめてって言ってるでしょ?わたしどんな悪役なのよー?
もーふたりとも一旦座ろ?ね?」
イザベルの言葉でさっきまでの食後の皿とかがそのままのテーブルに3人で座った。
「とにかくひととおり話聞かせてちょうだい?
わたしは トールの味方よ?友達だと思ってるのよ?」
イザベルも15歳だったと思う、1年くらい前からの顧客だった。
うちの店の服は 現代日本では 比較的ベーシックなデザインのものを
こっちの世界風に多少アレンジして展開している。
だが 向こうではベーシックでも
こちらではかなりアバンギャルドな部類になってしまう。
自然とお客は チョット斜に構えた裕福な若者中心で
イザベルも貴族令嬢としては変わり者という評価をうけている。
今日もウチの店で仕立てたケーブルニットのジャケットを着てくれている。
オフホワイトのかなりローゲージ、
赤い髪とのコントラストが 明るい彼女の性格も表したようでよく似合っている。
まあ、綺麗な子が 着ると服も良く見えちゃうんだよね。
そんな彼女が『友達』と言ってくれた言葉を信じて
シャルロットの話を全て話した。
ぼくらの話を聞き終えたイザベルは しばらく黙って考え込んでいたが
何かを思いついた様だった。
「分かったわ!だったら話は簡単よ!
誰だか知らないけど 彼女を連れ戻しに来る前に
大々的にアピールしちゃいなさい!
『トールの親戚のハーフエルフの女の子が お店の手伝いで働き出しました』ってね!」
イザベルの提案を聞いて僕も理解した。
そうだ、シャルロットを隠したいのは 『屋敷』側 であってけっして僕らじゃない。
シャルロットの偽の経歴を堂々と世間に公開してしまえば
『屋敷』側は 沈黙せざるを得ない。
『ハーフエルフのシャルロットは 『屋敷』側の所縁の者です 』とは言えないからだ。
何故ならそれこそが 彼等の最も隠したい真実だから
「さすが イザベル!それイケるよ!
やっぱり 貴族だけあって ヤラシイ事考え付くもんだなあ」
「トール?褒められてる気が全くしないんですけど…」
最大級の賛辞のつもりだったが 貴族令嬢は お気に召さなかった様だった。
「でも トール様、そしたらトール様が…
お店のお客様も来なくなってしまいます…」
シャルロットの心配もその通りだとは 思うけど
その程度の事は 最初から覚悟してる。
「シャルロット、大丈夫 !多少お客さんが 減ったって
なんとかなる 手段が 僕にはあるんだ。
それにそんな客なんかに買ってもらわなくったって結構だよ!」
そりゃ チョットだけ強がりも入ってるけど これが正直な気持ちだった。
「トール!よくいったわ!
でもね アンタの服を買いに来てる私達を見くびらないでよ!
こんなとんでもない服をわざわざ買いに来てる私達が
世間が そうだからって寄り付かなくなるとでも思ってるの⁈
アンタがやろうとしてる事は 正しい事なの!
『世間が何と言おうと自分の信じた道を行く‼︎』
それこそトールの創った服を着てる私達のポリシーそのものでしょ!
もしそれで足が遠のく奴がいたら そんな格好だけのニセモノなんて
私だって金輪際付き合わなくって結構だわ!」
イザベルの演説に 当事者の僕とシャルロットの方が引き込まれてしまう。
パンクだ。男前だった。僕が 女なら惚れてるレベルに!
「ありがとう!イザベル!イザベルが友達だってことが 誇らしいよ!
僕が貴族だったら 2~3回 結婚申し込んでるよ!美人で頭がキレて男前⁈
何なんだよ⁈ それ‼︎ 魔王だって倒せるんじゃないの?とにかくサイコーだよ‼︎」
つい 気持ちが 盛り上がって勢いで色々言ってしまったけど
これも また貴族令嬢は微妙な表情だった。
どうやら 僕には 残念なことに人を褒める才能が 無いらしい。
でもイザベルには 言われたくない、
さっき ウチの商品を『とんでもない服』呼ばわりしてたよね?
元の世界じゃお上品な部類なんですけど…