49・トールさんは貴族じゃないので……
全員がなんだか気まずい雰囲気の中で
最初にそれに耐え切れ無くなったのは 僕でした……
もう すっかり体調も意識も戻って
当然 イザベルの膝枕からも離れていた。
「こ、これ、さっき使った身体用と髪用の石鹸!
みんなの分、用意しといたから!つ、使って⁉︎ 」
事前に小瓶に移し替えて準備しておいた物をテーブルの上に並べた。
クララさん、アグネスとイザベルの3人分、
毎日使ったとしても3週間くらいなら持つくらいしか入っていない。
「ゴメン、今 手持ちのを分けるとそのくらいしかなくって……
また近いうちに仕入れられると思うから それまではそれで勘弁してもらえる?
それとタオルとバスローブは今使った物はプレゼントするから
よかったら一緒に持って帰って……」
僕とシャルロットの分を含めて5等分にすると
思ったより少ない量になってしまった。
「ううん!とんでもない!ありがとう! 」
「ありがとう!トール、大事に使うから!悪いけど次も絶対お願い⁉︎」
「ホントにこれなら討伐遠征もチョット楽しみなくらい!
お風呂付きの宿舎でほんと良かったわ!
このバスローブとタオルも持って行こうっと!」
3人とも少ない量でもスゴく喜んでくれた様だったのでホッとしたけれど……
「あの〜クララさん? その、最後になんておっしゃいました?」
「え?……バスローブとタオルも持って行こう……って……
え?……持って行っちゃいけなかった?」
「いえいえ、もうそれはみんなに差し上げた物なんで
好きに使ってくれていいんですけど……
それの前に なんて言いました?」
「……?……………お風呂付きの宿舎で…良かった……?…」
やっぱり聞き間違いじゃない?
そもそも今日のお風呂作戦は 今度の討伐遠征で
現代日本人の僕が風呂なし行程に耐えられそうに無いと思っての事だった。
同行の教会遠征隊にも影響力がある次期聖女クララさんを
お風呂無しでは耐えられない様にして
宿舎を風呂付きにしてもらえるように誘導するのが目的だ。
「あの〜クララさん、今回の討伐遠征って…お風呂付きの宿舎?なんですか?」
「ええ、そうですよ? だからこの石鹸もタオルも持っていきますね!」
「それって……次期聖女様だから…? クララさんだけ…ですよね?」
「?、いいえ?さすがにお風呂付きの個室って訳じゃありませんけど
宿舎には宿泊客共用のお風呂が ある所が選ばれてる筈ですよ?
あ、もちろん男女は別々ですけど…?」
え?そうだったの?
討伐遠征ってほぼ軍事行動みたいな事だと思いこんで…
テントでの野営も覚悟してたくらいだったのに?
「……ああ、…聖騎士の方たちも私達も
聖属性魔力持ちってほとんど貴族なんですよ…
そのせいもあって以前から遠征や出張では割と優遇されてるんです ……」
なんだか優遇されているのが申し訳ないようにクララさんが説明してくれる…
けど 一応は危険な任務なんだし
それくらいの待遇されたからって後ろめたく感じる事は無いのに…
でもクララさんにしたら信者さんの寄付から賄ってると思ったら
そういう風には 割り切れないんだろうか?
だからそんな申し訳なさそうな顔で……?……いや……?ひょっとして……
「あの〜、クララさん、僕、貴族じゃないじゃないですか? 」
「はい、トールさんは そうですよね、知ってますよ 」
「ひょっとして貴族じゃない僕だけ野営とかないですよね……?」
身分制度の残るこの異世界だから
宿舎が風呂付きって聞いたって全員がそうとは限らない。
さっきのクララさんの申し訳なさそうな顔は 信者さん達にじゃなくって
僕に向けられたモノかもしれない訳で……
「え?……何言ってるんですか?
トールさんの部屋だけは 当然別ですよ⁉︎ 当たり前じゃないですかっ!」
ああ、そうですか……これが 超えられない壁、
身分制度ってヤツなんですね……
でも それは仕方がない事だとしても
あのクララさんが こんな言い方をするとは思わなかった。
確かに生まれた時から染み付いたこの世界の価値観からすれば
至極当たり前の反応なんだと頭では理解しても……
偏見を持たれているハーフエルフのシャルロットのことでは
あんなに憤慨してくれていたクララさんの事を思うと
やはり寂しい気持ちになってしまった。
というコトは 同じく貴族のイザベルやアグネスにしても同じなんだろうか?
そう考えるとつい視線がイザベルの方に向いてしまう。
「そうよ!そうよ!トールは貴族でもないし
ましてやこのガーゼット王国の人間でさえないんだから!
部屋くらい別なのは当たり前よね!」
あ、目が合ったイザベルも同じ考えだったようだけど
そんなに勢い込んで言わなくても……
そうだ、でもシャルロットは?せめてシャルロットだけは……
「クララさん、僕はともかくシャルロットは?
シャルロットだけはみんなと同じ部屋にしてくれませか?」
シャルロットは貴族でもないし
しかもこの世界では偏見を持たれているハーフエルフだ、
僕よりさらに悪い待遇も考えられた。
「ごめんなさい、シャルロットは
トールさんの付き添いっていう立場でしか認めてもらえなくって…
イザベルとアグネスと同室の3人部屋になっちゃうの……」
はい?シャルロットが 貴族のイザベル、アグネスと同室?
「わ、私が イザベル様やアグネス様とおんなじ部屋でいいんですか⁉︎」
シャルロットも驚いた様だった。
「うん〜、ゴメンね〜、シャルロットは………
さすがにトールさんみたいに浴室付きの個室って訳にはいかなくって……」
クララさん?今 なんて?
僕が浴室付きの個室って言いましたか?
「クララさん?僕だけ野営とかじゃなくって?浴室付き?個室?…って言いました?」
「ええ、貴族っていう責任のある立場でもなく、
しかも外国人のトールさんが
ガーゼット王国の問題に協力してもらえるっていうのに……
この程度の対応しか出来なくって ごめんなさい!」
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さっきから貴族じゃないって言ってたのって……
そうゆう意味ですか……………
『貴族という自ら行動すべき責任ある身分』でもないのに 討伐遠征に参加する……
貴族であれば義務とも言えるけど 平民の僕にはそんな義務は無い。
それなのに参加するのだから優遇されるべきだと……
「しかもトールは 混成魔法を使えるんですもん!
今回のアンデット討伐には最高戦力なのよ!全泊スイートでもいいくらいよね!」
イザベル…その気持ちは嬉しいけど
僕としては貴族様よりいい部屋って事のほうが逆に居心地が悪いんです……
お風呂入れるのはありがたいんですけどね……
あと僕の思い込みでみんなのことを一瞬でも勘違いしそうになった……
チョット考えればそんなこと無いってわかるのに……
ごめんなさい




