32・悪代官ゴッコ
結局 アグネスを昼食に招いた日の翌日から
僕とシャルロットは 毎日教会に通っていた。
言うまでもなく信心からなんて物ではなくて アグネスに会うためだった。
だった…って言ったのは
いまでは教会孤児院の子供達と遊ぶことの方が
メインになってきてしまっているからだ。
アグネスの仕事の孤児のお世話を
僕らが 手伝っているうち子供達とも仲良くなってしまって
『シャルロットお姉ちゃん明日も来る?』って言われてるのを
横から見てた僕が 断り切れなかった……
そんな感じだ。
だって、この子達 ……
シャルロットのことをハーフエルフだからって全く関係なく接してくるわ、
甘えて来るわで 教会に居る間中付いて来るんだから。
もちろん最初はハーフエルフに近づくと感じる違和感のせいで
泣き出す小さな子供も多かったし
その時は子供に泣かれたシャルロットまで
一緒に泣き出してしまう場面もあった。
泣き出す子供達、
落ち込むシャルロット、
その双方をなだめるアグネス……
ちなみにこの時ばかりは完璧超人イザベルも役立たずで
オロオロしているだけだった。
けど……なんだかそれも可愛かったけど
ただそんなことも最初のうちだけだった。
教会の普段の教育の成果と
孤児の中にもハーフエルフの子が居るってことが大きな要因なんだと思う。
最近ではアグネスも
普段よりお世話係が 2人も増えて 大助かりみたいで
『シャルロット、明日も来る?』って子供達とおなじく縋る様な目で言うもんだから……
これで断れるヤツいないでしょ?
おかげで僕の店の方はここんとこ午後2時で閉店して
【御用の方はダイソン教会アグネスまでご連絡下さい】って貼り紙が店番になっている。
気がつけばもう明日が
アグネスの実姉の次期聖女クララ様のトリノ支部訪問日となっていた。
イザベルも ほとんど毎日教会に顔を出していたので
僕ら4人はすっかり打ち解ける事ができた。
シャルロットもみんなのコトを『様』付けでなく名前で呼んでくれる……
努力はしてくれている……みたいだった。
今日もこの4人で孤児院の子供達と遊んでいる真っ最中だ。
『貴様、ハーフエルフ風情が どなたに向かって口をきいておるのか 分かっているのか⁉︎
こちらにおわすお方は 次期聖女クララ様の妹君アグネス様じゃ!』
イザベルが アグネスの傍らで口上を述べる前で
シャルロットが小さな子供を抱えて跪いている。
「それは充分承知致しております!ですが なにぶん訳も分からぬ子供のことです!
私は如何様にもお咎めは覚悟致しております!
なにとぞ子供達にはご寛大な御処置を!
どうぞ、イザベル様からもお口添え お願い致します‼︎」
シャルロットが アグネスの傍らに控えるイザベルに慈悲を訴える。
なんかここ数日で随分台詞が 流暢になってる。
これは 僕がふざけてイザベルと日本の悪代官ゴッコをしている様子が
なぜか子供達に『カッコイイ』って大受けして
それからほぼ毎日やっている寸劇ゴッコだ。
劇のストーリーの最後に酷い事をしていた悪役が
最後は正義の味方(勝手に聖女クララ様って事になってる)に
やっつけられる爽快感は 異世界でも通用するコンテンツらしい。
毎回 悪役の設定は変わって
【悪い貴族令嬢】
【姉の権力をかさにきた聖女候補】
【悪魔法使いのハーフエルフ】
【悪い呉服屋】とバリエーションは豊富にした。
これは どんな身分の人でも悪い事をすると
『聖女様に懲らしめられる』という
僕なりに教会に気を使ったシナリオだった。
なぜか最近では 悪役の方の配役に人気が出てきている。
いばったり謝ったりと大袈裟な演技が多いのが理由らしかった。
そして芝居は
今日の悪役アグネスの台詞へと続く
『ふん、ハーフエルフや孤児なぞが 聖女クララ様の妹である私に 無礼である!
イザベル!この者達を牢屋に入れてしまいなさあい!」
『ははー!アグネス様!
さあ立てお前たち!牢屋にいれてやるぞう!』
ココでクライマックス、聖女クララ様役の登場……って? え?
「「「「「アグネス‼︎ あなた何をやってるんですか‼︎」」」」」」
「「「「「イザベルまで一緒になって‼︎ 」」」・
突然 部屋の入口から入って来た若い女の子が鬼の様な顔で叫んでいた。
「…あ、………クララお姉?様、……」
アグネスが反応した。
え? サプライズで 本物の次期聖女クララ様が 本人役⁈
訪問日は 明日のはずじゃなかったの⁈
さすがに姉妹だけあってアグネスに良く似ている。
アグネスを そのまま大人っぽくして
聖女感五割増しにした感じの……って
でもなぜか今は スッゴイ怒り顔の……演技?……デスヨネ?
『『『わークララ様!ホントにクララ様だー!悪いアグネスを懲らしめてくださーい‼︎
悪い貴族令嬢もやっつけてくださーい‼︎ 』』』
もう子供達もこのサプライズに大喜びで大声で台詞を叫んでいる。
アグネスが 実姉の次期聖女クララ様に頼んで
仕込んどいたんだろうけど
おっとりキャラに見えてこんなサプライズ仕掛けて来るなんてチョット意外だった。
「「「「アグネス‼︎ イザベルも‼︎ 性根を叩き直してあげます‼︎
こんな情け無いこと!生まれて初めてです‼︎
私の名前まで持ち出して子供達に威張りちらすなんて‼︎」」」
次期聖女のクララ様、かなりノリノリの迫真の演技だし……
事前に練習までしてくれたんだろうか?
あれ?………クララ様……怒った顔が泣いて…る?
アグネスとイザベルの首根っこ掴んでドアから出てっちゃったけど……?
えー……でもこの場で悪人を懲らしめるってシナリオなんだけど……
それもサプライズ用に変更?…されちゃってるのかな?
そして 3人は 帰ってこなかった。
しばらくしてクララ様が ヒョコッと部屋の入口から顔だけのぞかせた。
「カルバン! カルバン、チョットいらっしゃい…」
イタズラ好きと定評の男の子を名指ししてチョイチョイって手招きしている。
「は〜い! クララさま〜!」
カルバンは 素直にクララ様の呼びかけに応じて嬉しそうに部屋を出て行った。
その10分後くらいに 疲れ切った顔のアグネス、イザベル、そしてクララ様が戻って来た。
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「鏡よ、鏡、この世で最も聖女に相応わしい者は誰じゃ?」
クララ様が 鏡に向かって問いかけていた。
「はい、それはあなたの妹君アグネス様でございます」
後ろで隠れていたシャルロットが 答える。
ガシャアーン‼︎
「う、うるさいですう!次の聖女さまは 私です〜!
妹のアグネスを森にすててきなさあ〜い!」
この棒読みセリフは次期聖女クララ様である。
自分の勘違いから
アグネスとイザベルにマジ説教を喰らわしてしまったクララ様が
その罪滅ぼしとして 今度は劇の悪役をやらされていた。
ご存知 『白雪姫』の継母役をアレンジしたシナリオだった。




