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壊れ者の硝子

作者: 妄想少年

 僕のクラスに硝子という名前の女が居る。

 硝子というのはサッシの内枠に組み込まれているあの硝子だ。

 つまりは彼女は人間の硝子という事だ。

 こういう風に書くとおかしく思われるかも知れないが彼女は硝子で出来た人間なのだ。

 何度も言うが硝子というのは先ほど言ったようにサッシの中に組み込まれているあれだ。

 つまりは肌は透明で、水に沈み、彫刻で削られたような女なのだ。

 その事に真っ先に気づいたのは僕で、周りの人間はそんな事に気づいていない。

 彼女を硝子だと気づいていないのだ。

 周りのみんなに聞いたところ至って普通だと言われた。

 僕にしか見えない硝子の体をした少女。

 彼女は何者なのだろうか? そんな事を思いながらこの文を書いている。

 彼女は何故硝子なのだろうか? この文はその事を調べた研究結果である。





『壊れ者の硝子』



 


 学校に行くと硝子が居た。

 硝子は硝子の癖にガラスを拭いて学級員という職種をまっとうしているようだった。

「疑義疑義君早いね」

「硝子も早いね」

 彼女が僕の名を発音するとき口を合わせなきゃならないからいつも硝子と硝子を擦り合わせたような発音になって名前が聞こえない。

 自分の席に着くと、早速彼女を観察してみた。

 彼女は自分がおかしいと思わないのか、丁寧にガラスを拭いては身を乗り出して窓の後ろを一生懸命拭こうと懸命に体を伸ばしている。

 あのまま突き落としたらどうなるだろう?

 ここは校舎の三階で、普通の人間でも死ぬだろう。

 でも彼女はそうとは違って割れるのだろうか?

 粉々に砕け散るのだろうか? それとも人間のように脳やらなんやらが溢れて、血も無いのに血を流すのだろうか?

 少し考えて見たが、この場合落とすとしても確実に周りの人間は彼女を硝子という人間で認識されているのだから殺してしまったら僕が犯人になってしまうんじゃないか?

 そうなると落とす事は出来ない。

 彼女の体がガラスなのかどうかは別として僕は自分が殺人鬼になる事を望んでは居ない。

 ではどうやって彼女の正体を見破るかである。

 水につければ沈んでこないとかそんな方法は試したが、水泳の時間、彼女はいつも休んでいるのでこれも試しようがない。

 かといって硬貨で彼女を引っ掻いたとしても僕が変な目で見られるのは困る。

 方法と目的を間違えてはいけない。

 では、どうやって彼女をガラスだと判明するか何だけど、やはり僕の手を使わずに調べるほかないだろう。

 つまりは他人の手を使って彼女の正体を暴くという事だ。

 こうなれば先立つものがいる。

 何をするにしても金は必要になってくるか……

 そう考えて二時間目の休み時間に学校を抜け出した。

 速攻で金を稼ぐには日雇いのバイトであるなら土建屋が一番だ。

 無料の求人広告に片っ端から電話をかけると、三件面接が決まった。

 近くの百円ショップで履歴書とボールペンを買って、七百円で写真を撮り、学校近くの小汚い喫茶店で履歴書を書いた。

 周りの客に変な目で見られたのはやはり昼前のこの時間に履歴書を書いている人間が珍しいからだろう。

 履歴書を三件分書いて、珈琲一杯分の金を払うと喫茶店を出た。

 時間としては一時間早かったが、親方というひとは学生服をきたまま面接にきた事がなにやら涙線に触れたらしく一発で合格してしまった。

 仕事を働くのは明日からで、服は親方が一万を渡してこれで用意してこいと言った。

 よほど貧乏だと思われているらしい。

 一万円を受け取って帰路につく途中で残り二枚の履歴書を破った。

 細切れになった履歴書が河川敷に向かって風に運ばれている。

「疑義疑義君?」

 後ろから声をかけられたと思ったら、硝子が鞄を両手にもって帰る途中だったらしい。

「何してるんだい?」

 首を傾げて聞いてくるが、ぎぎぎとガラスを曲げる音がして僕は顔を背ける。

「硝子こそなにしてんだ? 今授業中じゃないのか?」

「ん? ああ私はサボりさ」

 笑いながら聞いてくるが表情が透明だから突起で判断するしかない。

「そうか。でなんのよう?」

「何してるのかなっておもっただけさ。他に他意はないさ」

 硝子はそういうとスカートを折りたたんで河川敷の脇に座った。

「なんだよ」

「疑義疑義君はいつも私を邪険にするけど……私の事嫌いなのかい?」

「嫌いと言うよりは苦手なだけだ」

 正直早く終わらせたいというのが本心だった。

 何をするにしてもこいつが何かを話すたび、動くたびにぎぎぎと音がしてそれが僕には不快だった。

「それは非道いな」

「そうかな? 人間色々居ると思うよ」

「これでもみんなに好かれている自信はあったんだ」

「そうかい。それはよかった」

「深く傷つきそうだ。慰めてくれないか?」

「おあいにくさま」

「それはご愁傷様」

「硝子ほんとうに何の用だ?」

 座ってる彼女を見ると、彼女は自然とこちらを向いた。

「そんな怖い顔で睨まないでくれないか。私に罪は無いはずだろう。それとも私の体に疑問があるのかな?」

 少しだけ眉を潜めると硝子は、ふふと声を出して笑った。

「そうか君も判るのか。面白い構造しているだろ? 透明でガラスだ。周りの人間には見えないらしんだけどね? 縁がある物には何故かみえるらしいんだよ」

「じゃあ僕も縁があったという事か?」

「そうなるんじゃないかな」

 ふふふと妖艶に笑うガラスは少しだけうつむいて自分の手のひらを見ていた。

「なんなんだろうね? この体は。そもそも鏡にはちゃんと映るというのに自分だけがこんな体だと少し考えてしまうよ」

「なにを?」

「子供を産めるのか……とね?」

「子供を産みたいのか? その年で?」

「ああ。私は至極まっとうな生き方をしたいのさ。普通にいきて普通に死ねたらほんもうだとも」

「そんな体をしている癖にか?」

「こんな体をしているからこそ……さ」

 透明な髪が揺れて、なんだか自分の見ている物が至極おかしな物何じゃないかと思えてくる。

 でも彼女は其処にいて、壊したい相手もそこにいる。

「壊したいかい?」

 風が逆風になって透明な髪が彼女の輪郭にまとわりついている。

 それを指で押さえながら彼女は問う。

「壊したい、のかもしれない」

「そんな事だろうと思った。そんなことだから私に目を付けられたりするの……さ」

「そんなこと?」

「私はそれを望む」

 静かに彼女は言う。

「壊す事になにかがあるのなら私を壊して欲しい。」

「何故?」

「私は脆いから。砕ける」

「それは言葉のあやだろ」

「壊れると砕けるは違う……さ」

「どうちがうっていうんだよ」

「砕ける、砕け散る、砕け落ちる」

「羅列か?」

「いやその意味のままさ。人間じゃわかんないかな」

「お前は人間じゃないと?」

「こんな体をしているからね」






 一週間学校を休んで、仕事に精を出した。

 それもこれも僕が硝子を壊すためである。

 その甲斐あって一週間働くと五万六千円も頂いた。

 そうして僕は学校に居る不良と呼ばれる位置づけの人間と屋上で話す事にした。

「何の用だ?」

 睨み付けられるように上から下へと体を見られるとがたいの大きさが判る。

「とある人間を壊して欲しいんだよ」

 僕がそういうと不良であろう彼はへへっとなにやら口元をゆがめて笑う。

「はは。壊して欲しい。ちゃんちゃらおかいしな。お前が俺に命令できる立場なのかよ。優等生のお前なんかパンパンKOだぞ」

 頭の悪い人間だなと思う。

 腕力だけで世界を制覇できるのは極道とボクシングだけでそれ以外は金というものに支配されているというのに、彼は何を考えて行動しているのだろう。

「金はいらないか?五万ある。壊すだけで五万だ。場所はセッティングしよう。教師にもみつからないように努力しよう。犯すも殺すも好きにして良い。ただ……さいごは確実に何か堅い物で体を打ち付けてくれ」

 不良だと思う少年は少し面食らったのか目を大きく開けて絶句しているが、僕が封筒をだすと目の色が変わった。

「ホントだな。ホントに教師に見つからないんだな」

「努力はする」

「へへ。了解だ。じゃあ金は頂くぞ」

 封筒を出す手を引っ込める。

「おい。約束がちがうじゃねーか」

「だれも今渡すとは行ってない。でも前金として1万渡そう。成功すれば残りの4万渡そう。五万渡して実行に移さなければ持ち逃げだからな。こちらの利益は出ない」

「はっそうかい。まあいい。どうせやるんだから一緒だろ」

「そうなる」

 僕は彼に一万渡しす。

「で? 誰をやるんだ?」

「硝子だ」





 放課後、硝子を呼び出して屋上に向かう。

 踊り場まで送って僕は止まる。

「ここから屋上にいけばいいのかい?」

「ああ」

「そこで私は壊れるのかい?」

「さぁ。どうなるかは僕にもよく分からない」

「ついてはきてくれないんだね」

「ついていく必要は無いだろ」

 それもそうだねと彼女は言うと踊り場から二段飛ばしで屋上に駆け上がった。

「壊れるといいね」

 彼女はドアノブに手をかけたまま振り向かずにそういった。

 まるで他人事のようだった。

「ああ。壊れるといいな」

 バタンと扉を閉めて数十秒後に男の喘ぎが聞こえてきた。

 なんとまぁ手が早い。そうしながら僕は腕時計の時計を見始めた。

 軽一時間という所だろうか? それまで僕は眠る事にする。




「おい起きろ」

 体を揺さぶられて目が覚めると不良であったであろう少年はにやけながらそういう。

「金を渡してくれ」

「ああ。終わったのか」

「おお。あんたの言いつけどうり金属バットで最後はこわしたぜ」

「そうか」

 ポケットから金を出して彼に渡すと彼はもう用はないというように階段をおりていく。

 僕は寝ぼけ眼の目を擦り、階段を上がると制服の乱れた硝子が其処にいた。

「壊れて無いんだな」

 そう声をかけても無言だった。

「何とかいえばどうだ?」

 硝子の肩を掴むとそこからパリンと音を立てて音もなく崩れる。

「何だもう壊れてたのか」

 この体とおさらばしたわけかいいな……

 僕は自分の体を見る。僕の手も硝子だった。



−終−

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