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お局様とうつ病

作者: CH3COOH

お局様と出会ったのは入社して2年目。

初めてシステム開発の現場に出たときのことだった。

最初の印象は「自分に甘く、他人に厳しく」だった。

朝、出社してこないのは日常茶飯事。

仕事も雑談してばかりで仕事もあまりしていなかったが、

他人には注意してばかりだった。


やれスケジュール管理が甘いだの、

メールの書き方がなっていないだの、

資料の作り方がダメだの。


ただ、誤解しないでいただきたいのは

そのお局様が言っていることは何一つ間違っていない。

入社2年目だった若造が基礎の基礎もできていないというだけであった。


しかし、その時の私は「言っていることは正しい。けれど朝、仕事も来ないような人間に言われたくない。」だった。

結果として私はそのお局様のいう事をそんなに真面目に聞かなかった。

朝仕事に来ないが口うるさいお局様vsいう事をあまり聞かない生意気なガキという構造が出来上がった。

そんな時に転機が訪れた。

現場が引っ越しになった。現場が変わったのではなく、現場が入居していたビルを引っ越すことになったのである。


2012年春のことだった。

2011年の震災の影響でビルにひびが入り、建て替えの計画が出てきたためだった。

そしてあたらしく入居した場所がビルの20階だった。

最初は景色もいいし、不満は何もなかった。

だが、引っ越しが終わり、仕事が再開した直後、身体に異変が起こった。

PCの画面を30分も見ていられなくなったのである。

30分ほど画面を眺めると強烈な頭痛と吐き気に襲われ、仕事にならなかった。

どうやら頭痛はドライアイから、吐き気はビル酔いからくるものらしい。

ビル酔いというのは、車酔いと似たようなもので、

耐震性を高める為、ビル自体が揺れるように設計されている為、

風の影響でゆっくり少しだけ揺れているのである。


地方出身の私にはそんな経験は無く、1発KOの状態だった。


お局様はというと結果的に出社場所がかなり近くなった為、

朝も真面目に来るようになった。


私はというと通勤時間が1時間20分。前の現場が30分だったので、結果的に50分増えた計算である。

その頃から朝、起きることができなくなったのである。


この時が精神的に一番病んでいた。

朝、起きることができず、寝坊する毎日。

目覚ましを4個鳴らしていても目が覚めなかった。

出社をすれば頭痛と吐き気に襲われ仕事が手に着かない。

その役立たずっぷりは目に余るほどでたびたび30分から1時間ほどお局様に叱られる。


なにもできない自分に腹が立ち、しかし物にあたることもできない。

その結果、私は左腕を爪でひっかき続けた。

肉を引きちぎってしまうほど…

日に日に左腕がかさぶたまみれになったがあまり気にならなかった。

むしろ傷だらけになっていく左腕を見ていると落ち着いた。


しかしそんな自分がアブナイ状態だというのもなんとなく理解していた。

なのでその辺りでようやく病院に行った。

中度のうつ病と診断された。


薬を飲みつつ仕事を頑張って両立する毎日。

ただお局様との関係はあまり好転することはなかった。


病院に通い始めて1年。

お局様と出会って3年。

私は上司に、現場を変えてほしいと申し出た。

朝は前よりはマシになったが1週間に1回は寝坊する。

左腕はまぁまぁきれいにはなったが跡が残った。

ドライアイはPC用メガネで何とかなった。

精神的に限界だった。


お医者さん曰く、「環境を変えるのが一番いい」とのことだった。

なので色々と調整をして家を引っ越した。

通勤時間は1時間減った。

会社を休むのが1週間に1回から2週間に1回に減った。

薬の量も減った。

左腕の傷の減った。


そうしてその半年後、

現場が移動になり、お局様と仕事をすることは無くなった。


もうお局様とは会っていないかというとそういうわけでもなかった。

なんだかんだ言って2、3か月に1回は他の先輩方と飲みに行っている。

確かにお局様との仕事は2度と御免である。


しかし、それを抜きにすると仕事の内容としては尊敬できるものであるし、

仕事で馬が合わないからと言って、それをプライベートに持ち込むことはないのである。


そういった仕事とプライベートを分けるという考え方は

お局様の教育の賜物なのかもしれない


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