飼育員さんの1日 (5)
「…………さあ、コクル。行きましょう。」
午後になりティーアはアスカさんに言われた通りドラゴン達を散歩に順番で連れていくことにしました。
普段なら年功序列でミーアが最初ですが今日はコクルからです。
ティーアはアスカさんにはああ言われましたがやはりミーアのことで少し尾を引いていました。
「ルーフー。」
「…………コクル。」
コクルがティーアに頭を擦り付けてきました。
ドラゴンはとても頭のいい生き物です。
ティーアが落ち込んでいるのを感じ取ったのかもしれません。
でも、ティーアはドラゴンの飼育員です。
ドラゴンに励まされている場合ではありません。
「うん。大丈夫だよ。コクル。行こうか?」
「コー!フー!」
「ちょ、ちょっとコクル!」
ティーアが元気を出して安心したのかコクルは元気いっぱいでティーアを引っ張っていきました。
力ではドラゴンには敵いません。
そういう時は飼育員としてしっかり調教です。
「コクル!止まれ!」
「コー!」
「ちょっと!コクル!」
ティーアがコクルに指示を出すとコクルはますます加速していきました。
ティーアは完全に引っ張られていてもはやどちらの散歩か分かりません。
…………それにしてもおかしいです。
指示は完璧だったはずですが何故でしょうか?
散歩を任されるようになって1ヶ月まだスムーズに散歩を終えたことはありません。
ドラゴンの散歩は散歩とは言えども要はストレスを溜めないための運動です。
アスカさんがドラゴン達に覚えさせたルートを歩いた後(歩くというより走るです)はアスカさんのお家の裏手にある草原に放ちます。
コクルの後にヤット、コックと散歩をさせ三匹を草原に放ちました。
三匹はとても仲良しです。
ケンカすることもありますが三匹で一緒にいても特に問題はありません。
加えて言うならこの草原には柵は簡単な木製の柵しかありません。
アスカさんが作ったそうです。
ドラゴン達なら簡単に壊せるような代物ですが、そこはアスカさんの躾です。
壊すようなことは一切しませんし、柵の外に出るなんてもってのほかです。
時々思います。
ティーアが居なくてもみんな勝手に散歩を出来るのではないかと…………
ドラゴン達が遊んでいる間、ティーアは側の皆を見渡すことが出来る岩の上に座りお勉強です。
ここに来たときからアスカさんにドラゴンの飼育員として生きていくならお金の勉強をしなさいと言われました。
ドラゴンの飼育は実地で覚えるのが一番だけどお金のことは机で勉強してから実際に扱いなさいとのことです。
ティーアは正直言って算数は苦手です。
でも、将来的一人でドラゴンの飼育員をするためにはお金のことを知らないとやってはいけないのです。
ドラゴンが好きなだけでは出来ない仕事です。
更には手元にアスカさんが軍にいた時に使っていた本を借りているのでモチベーションは大分あげてやることが出来ています。
ただ何故でしょうかやたらとこの本には落書きが多いです。
それから約一時間ほどティーアは暖かい日差しの中、睡魔と戦いながら勉強しました。
…………決して寝てませんよ。
「さて、そろそろ皆を戻しますか。」
岩の上から見下ろすと遠くで三匹はまだ遊んでいるようでした。
本当に元気なドラゴン達です。
「コクル!ヤット!コック!帰るよ!」
ティーアの声に三匹共に直ぐに反応しました。
ドドドドという効果音が似合いそうなくらい勢い良く三匹がこちらに走りよって来ます。
本当に可愛い限りです。
ティーアの周りに三匹がちょこんと並びました。
まあ、ちょこんとといってもティーアより大きいんですけど。
そしてここからがもう一勝負です。
「さあ、どの子から帰りましょう。」
…………ティーアはたまに自分が何処から成長させていけばいいか分からない時があります。
それからどうにかして三匹のドラゴンを竜舎に戻しお水を飲ませてあげたところでお散歩は終了です。
頑張りましょう!
まず始めにコックを竜舎に戻すことにしました。
コックは今いるドラゴンの中では一番小さいです。
それでもティーアと同じ位の大きさです。
ただ比較的のんびりというか、グータラな性格なのであまり暴走することはありません。
案の定楽に竜舎まで連れてこれました。
「コック!もう少しだよ。頑張って!」
コックは帰ってくる途中から明らかに眠そうでした。
遊び疲れたのでしょう。
それでもなんとか竜舎まで戻ってきました。
「ほら、コック着いたよ。」
ティーアが竜舎を開けると中に人影がありました。
「ティーアおかえり。コック大丈夫?寝そうだね。」
「ティーアちゃんおかえりなさい。久しぶりだね。」
そこにはアスカさんとフラミーさんがいて二人でミーアの側で話をしていました。
「ただいまです。フラミーさんお久しぶりです。ほら、コック。」
ティーアはとりあえず挨拶もそこそこにコックを竜舎のコックの部屋に入れました。
今はドラゴン達を竜舎に戻さなくてはいけないので構ってる暇がないのです。
「すみません。ばたばたして。あと二匹を連れてこないといけないので一旦失礼します。」
「ええ、ティーアちゃん頑張って。」
ティーアはフラミーさんに頭を下げていそいそとコクルとヤットの所に向かいました。