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飼育員さんの1日 (2)

アスカさんのお家はドラグニアの街の外れにあります。

ティーアはアスカさんにお買い物を頼まれるとドラグニアの街まで行って買い物をします。

ドラグニアは街中はとても栄えてますが外れまで来ると自然豊かな風景が広がっています。

ティーアはこの風景が大好きです。

ここで見習いとしてやっていけるのがとても嬉しいです。


「ふん。ふ、ふーん。」


思わず鼻唄も出てしまいます。

因みに今日みたいな重いものを買いに行くときには女の私でも持ち運び出来るように台車を引っ張りながら行きます。

この方が圧倒的に楽なんです。

街の中まではだいたい10分くらいで着きます。

街中は毎日とても賑わっています。


「おっ、ティーアちゃん。今日も元気そうだね!」

「こんにちは!おじさん。」


野菜の露店のおじさんです。

よく買い物をしに行くので顔馴染みになってしまいました。

たまにお野菜をサービスしてくれます。

優しい方です。


「ティーアちゃん、おはよう!今日はどう?」

「いや、今日はうちだよな。」

「ごめんなさい。今日はアスカさんの言い付けでドラゴンのご飯を買いに行くんです。」

「「なんだよー。」」


今のはお肉屋さんとお魚屋さんです。

いつも何かケンカをしてますが、何だかんだ仲良しの二人です。

そんな露店街を抜けた所に目的のお店があります。


「おはようございます。」

「おう。ティーアちゃん。今日はなんか用かい?」


ここが目的のお店であるドラゴン専用の飼料が売っているお店です。

さすがにドラグニアのお店だけあって品揃えは圧倒的に多いです。

アスカさんも見習いのころからお世話になっているというドラゴンの飼育員にはなくてはならないお店です。


「今日はアスカさんに言われて新しい飼料を買いに来たんです。」

「おう。新しい飼料か?さすがは金等級の飼育員だ。色々考えてるんだな。どれ、何をご所望だい?」

「うーんとこれです。」


お店の店主であるガイドさんも昔からアスカさんを知っていてその弟子であるティーアにも良くしてくれます。

ティーアは間違いの無いようにアスカさんから貰った紙を渡しました。

ガイドさんは紙をじーっと眺めて奥の方から飼料の入った袋を持ってきてくれました。


「これと、これだね。しかしまあ、流石はアスカだよ。」

「えっ?何がですか?」


ガイドさんが飼料を持ってきながら感心していました。

何ででしょう?


「いやね。この2つは本来なら一緒に調合はしないんだが、恐らくはこれにグラスの実を足すんだろう。それなら良い飼料ができると思うぜ。」

「…………そうなんですか。」


考え付くアスカさんも凄いですがそれに気付くガイドさんもかなりのものだと思いますよ。

…………ティーアはここに来るまで考えてもそういう結論には至れませんでしたから。

これは後でアスカさんに聞いてみないといけませんね。

勿論、ティーアが気が付いた事にします。


「では、これがお代です。」

「はい。毎度。アスカにもたまには顔見せに来いって言っておいてくれよ。」

「分かりました。ありがとうございました。ガイドさん。」


ティーアは飼料をガイドさんに荷台に積んでもらい、お礼を言うとお家に帰ることにしました。

早く帰ってさっきのことも聞きたいですし。

でも、そういう時に限って邪魔は入ります。


「おっ、ティーアじゃないか。」

「ああ、ロックじゃない。どうしたの?こんな所で?」

「いや、俺も買い物だよ。ザハスさんに言われてさ。」


突然ティーアに声をかけてきたのはロックです。

彼は私と同じ見習いの飼育員です。

そして彼の言うザハスさんとはロックの師匠でありドラグニアの王国所属の金等級の飼育員です。

ロックもザハスさんの弟子という事で王国所属で見習いをしています。


「ふーん。そう。じゃあね。」

「ちょ、ちょっと待てよ。ティーア。」

「何?ティーアは忙しいの。」


ティーアは早く帰りたいのですがロックが通せんぼしてしまいました。

どうせこの後ロックの言うことは想像がつきます。


「聞いてくれよ。ザハスさん今月は10匹もドラグニア軍にワイバーンを送り出したんだぜ。その中には俺の世話した奴もいるんだ。凄いだろ?」

「ふーん。そう。」


…………やっぱり自慢です。

ロックはいつも会うたびにこんな感じでティーアに自慢をしてきます。

そしてこの後言うとこもだいたい決まってます。


「なあ、ティーアもあんな小さい竜舎じゃなくて一緒にザハスさんの所でやらないか?そしたら毎日沢山のドラゴンを世話出来るから早く見習い卒業して一人前になれるぜ。」


…………これです。

毎回毎回毎回毎回そうです。

耳にタコが出来るかと思うくらい毎回です。

返事は決まってます。


「…………嫌。ティーアはアスカさんの所に居たいと何度言えば分かるの?」


別にティーアだって沢山のドラゴンと一緒に触れあいたいですし、早く見習いを卒業して一人前としてやっていきたいです。

でも、ティーアは決めたのです。

アスカさんの所で一人前になると。

だから誰に何と言われようとそれは変えません。


「でもさあ…………」


それでもしつこくロックは食い下がってきます。

これは、ティーアの怒りを見せる時でしょうかと思い始めた時でした。


「あっ。」

「ん?突然暗くなった?」


ティーアとロックの周りが突然暗くなりました。

いえ、ティーア達の周りだけではありません。

辺り全体が昼間にも関わらず暗くなったのです。


「あっ、あれ!」


ロックが空を指差しました。

ティーアもそれに釣られて空を見ました。


「あれは…………クオール!」


そうです。

ティーア達の周りが暗くなったのは空にクオールがいたからなんです。

クオールとはファーブニルというドラゴンの一種でドラゴンの中でもトップクラスの大きさです。

しかも、その中でもクオールは特別です。

ドラグニアの軍に所属する最強のドラゴンと言われています。

そのクオールがティーア達の上を飛んでいたので影になり周りが暗くなったのでした。

周りにはクオールを囲むように沢山のワイバーンが一緒に飛んでいます。

軍のドラグーン部隊でしょう。

しかし、クオールとワイバーンの大きさは比較になりません。

圧倒的な存在感がクオールにはあります。


「あれがクオールか…………でっかいなあ。」


ロックが口をあんぐり開けながら空を見上げています。

なんて顔でしょう。

でもティーアも少しその気持ちは分かります。

何故ならあのクオールこそ、ティーアがドラゴンの飼育員を目指したきっかけになったドラゴンなのですから。



あれはティーアが12歳の時、今から4年前の話です。

ティーアは初めて両親にドラゴンの品評会に連れていって貰いました。

ドラゴンの品評会と言えばドラグニアでは一大イベントでほぼ全国民が見たいものです。

当然ティーアも胸を踊らせながら品評会に行きました。

それまでティーアが見たことあるドラゴンはせいぜい竜車のドラゴンや農作業を手伝うドラゴン等いわゆる庶民的なドラゴンばかりでした。

しかし、その品評会は世界が全然違いました。

見たことない特技を持つドラゴン。

宝石のように綺麗なドラゴン。

どれも見たことないドラゴンばかりでティーアはとても興奮しました。

けどあるドラゴンが出てきたときティーアは興奮を忘れるくらい引き込まれてました。

それがクオールでした。

色は真っ黒で重厚感があり体格はどのドラゴンより大きくてとても格好良かったんです。

クオールもさることながらティーアは一緒に出てきた飼育員にも目を奪われました。

ドラゴンの炎のような真っ赤な髪をなびかせとても格好良く軍服を着こなしていた女性の飼育員でした。

その飼育員の出す指示はクオールと息ぴったりでティーアだけでなく観客全員を魅了しました。

品評会は圧倒的な大差でクオールが優勝しました。

その結果クオールはドラグニア軍に入り最強のドラゴンの称号を得たのです。

ティーアはそれを見てあの女性の飼育員見たいになりたいと思いました。

ティーアはその次の年も品評会に行きました。

目的は勿論、クオールを育てた飼育員をもう一度見るためでした。

しかし、その女性の飼育員は出てきませんでした。

後で調べたらその人はクオールが優勝した後に軍を辞めていました。

ティーアはその飼育員に会いたいと思いました。

会って話がしたい。

弟子にして欲しいと思いました。

そして、半年前にやっと見つけたのです。

その飼育員はドラグニアに街外れで小さい竜舎でドラゴンを育てていました。

そう。

アスカさんです。

ティーアはアスカさんの所に押し掛けてお願いをしました。

最初は嫌がっていたアスカさんを何とか説得して了承して貰いました。

アスカさんはティーアの憧れです。

本人には言ったことはありませんが。

でもいつかアスカさんの所でアスカさんを越えるドラゴンの飼育員になるんだと決めたのです。

だから他の竜舎なんてもっての他です。

特にアスカさんの後に軍所属の金等級になった人の所なんて死んでもごめんです。

ですからこんな誘いは受けられないのです。


「じゃあね、ロック、急ぐから。」

「あっ!ティーア!」


ティーアはロックがクオールに見とれている間にさっさと逃げました。

勿論、憧れのアスカさんの元へ帰るために。

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