飼育員さんの1日 (1)
「うっ…………うん、うん。うん?朝?」
飼育員の朝は早いのです。
朝日が登るころティーアは起きます。
「ふあ、ふあああい。」
…………正直言うと朝は得意な方ではありません。
でも、一人前になるためにはこれくらいは当然です。
ティーアは先輩であり師匠でもあるアスカさんのお家に住まわせてもらって暮らしています。
いわゆる住み込みというやつです。
それなので、朝はアスカさんより早く起きて色々する必要があるのです。
「よし。着替え完了。今日も頑張ります。」
ティーアはパジャマから着替えるとまず初めに竜舎へ向かいます。
ここは文字通りドラゴン達の普段過ごしている所です。
毎朝のティーアの仕事はまずドラゴンのご飯から始まります。
竜舎はアスカさんのお家の裏手にあって鉄と鋼で出来た立派な竜舎です。
今はここに四匹のドラゴン達が生活をしています。
「皆、おはよー。」
「グーフー。ケルケルル。」
「おっ、ミーア、今日も元気ね。」
竜舎の扉を開けるとティーアの事をドラゴン達が歓迎してくれます。
最初に出迎えてくれたのはミーアです。
この子は温厚なドラゴネットの一種でこの竜舎では一番長い子です。
ティーアに対しても一番優しくしてくれています。
「カーフークールー」
「おはよう。コクル、ご飯もう少し待ってね。」
次にいるのはコクルこの子も温厚なドラゴネットで食いしん坊なのがたまに傷ですが、育ち盛りの可愛い子です。
「ケーックワーッ」
「あら、ヤット貴方はまた、自分の寝床をこんなにして…………相変わらずね。」
3匹目はヤット。
この子はイエロというドラゴンの一種で水の中が得意な子です。
ちょっとヤンチャ過ぎて手を焼くことが多いです。
お散歩の時が一番大変です。
「クーッグーグーッ」
「コックは…………やっぱり寝てるね。ほら。起きてご飯ですよ。」
そして、最後にいるのがエクシュキュというドラゴンの一種のコック。
この子は炎の中でも元気に動けるという珍しいドラゴンなんですけど…………ちょっとグータラな性格でティーアはやっていけるのか心配してます。
「はい!じゃあ皆ご飯よー。」
ティーアは昨日の内から準備していたドラゴン達のご飯を各々に食べさせます。
みんな元気みたいでなによりです。
これでとりあえず朝一のお仕事は終了です。
「さてと…………ドラゴン達はこれでよしと。次は……」
お家に戻るとすぐに次の準備を始めます。
朝はちゃんと食べましょうというアスカさんの教えの元、ティーアは毎朝ご飯を作ります。
「今朝は…………パンとベーコンと卵。定番でいきましょうか、」
アスカさんはこの三点セットが大のお気に入りでティーアも大好きなので朝ご飯はこれになりがちです。
ここに来た当初は正直な所あまり料理は得意ではありませんでした。
でも…………この家で暮らしている内に段々上手くなってきました。
というよりは上手くならざるを得なかったのです。
「うーん。良い匂いです。」
ベーコンを焼くいい匂いがキッチンを包みます。
ティーアもお腹が空いてきました。
「よし。完成!」
お皿にそれぞれを盛り付けて完成です。
後は…………
「…………さて、行きますか。」
それからティーアはアスカさんを起こしにアスカさんの部屋に向かいます。…………向かうんですが正直これが朝にやることで一番嫌です。
だって…………アスカさんて寝起きが絶望的に悪いんですよ。
この間なんて起こしに行っても一時間くらい起きてくれなかったんです。
お陰でご飯が冷めてしまってせっかくの朝ごはんが散々でした。
そうこう言っているとアスカさんの部屋の前に着きました。
ティーアはとりあえずコンコンとドアをノックします。
「アスカさーん。起きて下さい。朝ですよ。ご飯出来ましたよー。」
「んー…………んー、ティーア?」
あれ?今日は起きるのが早いようですね。
では、二度寝しない内に更にいかせてもらいます。
「アスカさん!起きて下さい!朝ですよ!」
コンコンコンとノックを連打しながら呼び掛けます。
すると、ドアがギィーとゆっくり開きました。
「あっ!アスカさん!今日は早いですね。おは…………きやっ!」
ドアがゆっくり開いてアスカさんが出てくるのかと思いきや手だけが伸びて外にいたティーアの手を掴み中に引きずりまれてしまいました。
その早業にティーアはなすすべなしでした。
「ちょっとアスカさん!やめっ…………あっ。ちょっと止めてください!」
「おはよー。ティーア。あれ?全然成長してない?」
ティーアさんは、事もあろうにその…………ティーアを部屋に引きずり込んでい、いきなりむ、胸を、ティーアの胸を揉みしだき始めたのです。
「ちょっとやめ…………そろそろ離してください!」
「あれ?おっかしーいなあ、さっきまでティーアの胸は超絶グラマーで最高の揉み心地だったのに。」
「何を寝ぼけてるんですか!さっさと離してください!」
訳の分からない事を言いながらアスカさんはティーアの胸から中々手を離してはくれませんでした。
「ごめん。ごめん。謝るから。」
「ふん。謝ってもティーアの心の傷は深いのです。」
「や、でも私もティーアの成長は確認しないといけない立場だし。ね?」
「何処で確認してるんですか!いつもいつも。」
食卓に戻ってからもティーアの怒りは治まらずアスカさんは謝りっぱなしでした。
実は胸を揉まれたのはこれが初めてではありませんでした。
何故か寝ぼけるとアスカさんはその癖があって、ティーアはそれも嫌でアスカさんを起こしたくなかったのです。
「ね?ごめんて。もう胸は揉まないから。罰として私の胸揉む?」
「いいです!第一アスカさんも揉めるくらいないじゃないですか。」
「あっ、ひどいなあ。師匠に何て事を言うんだ。」
「こういう時だけ師匠、師匠って。ずるいです。」
アスカさんて普段はあまり上下関係とか気にしないのにこういう時だけやたら言うんですよね。
「いや、師匠は師匠だし…………」
「はあ、分かりました。じゃあ、金輪際止めてくださいね。」
「わーい。ありがとう!ティーア!大好き!」
「ちょっとアスカさん!」
結局またアスカさんに抱きつかれました。
こんな感じで今日の朝は過ぎていきました。
はあ、アスカさん何とかなりませんか?
まあ、だいぶ慣れたんですけどね。
朝ご飯が終わると本格的にその日のお仕事開始です。
ここからは毎日アスカさんがティーアに仕事を指示します。
今の所、変態のレッテルしか貼られていないアスカさんですが、仕事となれば別人です。
何といってもドラグニアで一二を争う金等級の飼育員で多くの優秀なドラゴンを育てています。
「アスカさん。今日はどうしますか?」
「んー。とりあえず、買い出し行って欲しいかな?」
アスカさんも着替えを終えて準備をするとまず初めにティーアにお使いを頼みました。
「これに書いてあるもの買ってきて。」
「はい。これは……ドラゴンの飼料ですか?」
「そ。配合をちょっと変えようかなってコクルのご飯をね。」
アスカさんから渡された紙にはドラゴンの飼料、つまりご飯の中身が書いてありました。
この飼料の割合も優秀なドラゴンを育てるのに大事なんです。
「全部街で買えるからさ。よろしく。」
「はい。分かりました。では、行ってきます。」
アスカさんは別の仕事をしなくてはならないので買い物等は基本的にはティーアの仕事です。
でもこれも重要な仕事です。
ティーアは街に行く途中もその紙を読んで飼料の配合を自分でイメージをしました。
アスカさんは基本的に配合の割合を教えてくれないのでこういったヒントからティーアなりに考えているのです。
ティーアにとっては全てが勉強なのです。