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359 変なもん
2016.12 作
妻が一心に手鏡をのぞきこんでいる。
シミやシワが気になるのだろう。
ちょうどいい。
風邪をひいて、しばらく伸びっぱなしだった鼻ヒゲを切りそろえることにした。
「ちょっと、それを貸してくれんか? ヒゲを切りたいんや」
「イヤよ! 変なもんがうつるやない」
妻が手鏡を遠ざける。
「あとできれいに拭いて返すから。そうすりゃ、うつることもないやろ」
「ダメ! うつるけん」
「うつらん」
「うつるって」
「うつらんって」
妻いわく。
「うつるって、その顔が」




