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断絶夢幻のプロメテウス  作者: セトゥルルソン
第1章 夢と春のあいだ
8/8

河川敷にて

1-⑧b


 3月も残りわずか、それにしても寒かった。

 河川敷に吹く風が、容赦なく体温をさらっていく。

なんとなく考えを整理したくて河川敷に来た。

 遠くから声が聞こえる。

「ファイオッファイオッファイオッ」

 向こう岸を走る中学生の列、俺と逆方向へ走っていく。

 河川敷には変わらず、黒煙が漂っていた。むしろ増えているかもしれない。

 香織ちゃんの望みは聞いてあげたいけど、ティラノサウルス型甲体を倒せる気はしない。困った。

「なーに黄昏てるの?中学生がする表情じゃないぞ」

 ぴょこっと、顔を覗いてきたのは、サヤカ先生だった。

 冷たい風にサヤカ先生の匂いが混じって鼻をくすぐった。

「別に先生に関係ないでしょ」

 サヤカ先生がいる。うれしいけど、偶然?

「私は先生なんだよ関係アリアリだよ。生徒が困っていたら助けてあげたいな。それとも青野クンは先生がいたら邪魔?」

 邪魔なわけがない。本当いてくれるだけで嬉しいよ。でも何を話していいのかわからなくなるから困る。

「まあまあ邪魔ですよ、先生と一緒にいる理由なんてないし。変な噂が立つかもしれないじゃないですか」

 うわ、俺何言ってんだ。わけわかんない事言ってる。

「変な噂って、例えば?」

「いや、えっと、ほらなんていうか。男女の仲的な奴ですよ。PTAがどうこう騒ぐ訳で」

 ふふふ、とサヤカ先生は笑う。

「そうねえ、どうなのかしらね。先生の理想は高いわよ。私より身長が高い人がいいな。それで優しくてさっぱりとした顔立ちのイケメンで細身、英語とか喋れたらかっこいいわね。お金持ちもいいわね」

 クリアしてるのは身長くらい、か。

「ハイハイ、理想高すぎ。そんなんじゃいつまでたっても結婚できないって」

「あくまでも理想より理想。でも、そうね。良い人が現れなかったらしい、その時は青野クンにお願いしようかなっ?」

「ど、どどうしてそ、そうなるんですか!」

サヤカ先生とならいつだったて良いよ。

「冗談よ」




「――どうして河川敷に来たの?」

 さきほどとは打って変わって冷たい声だった。

「青野クン、先生はここに来ちゃダメだって言ったよね」

 そう言ってサヤカ先生は両手にはめた手袋を脱いだ。両手には水色の幾何学模様が浮いていた。

「この前見たでしょ黒いバケモノを先生たちが不思議な力を使って倒すところ」

「甲体っていうんでしょ」

 思い違いだったらよかったのに。

 サヤカ先生の顔を見れなかった。

「近づいたら、死んじゃうよって言ったよね。青野クンこっちを見なさい」

 頭を捕まれ強引に目を合わせられた。

「黒煙の近くには黒いバケモノ、甲体が現れるの。甲体のエサは、こういう力を使う人間」

 サヤカ先生の両手は水色に光り、水のようなオーラを纏った。

「あなたもエサになりうるのよ。でも今ならまだ間に合う。まだ力に目覚めきっていない貴方なら甲体に狙われなくて済むの。だから死にたくないならこのまま家に帰って卒業式までじっとしていなさい」

「でも黒崎は先生と一緒に戦っていたじゃないか。なんであいつは良くて俺はだめなんですか」

「よくないわ。黒崎クンも青野クンも。だから私たちが保護しようとしてる」

「保護なんていらない」

一緒にいてくれたらそれでいい。

「なら貴方達は死ぬわ」

「死なない、絶対に死なない。」

俺は役に立つよ、次は俺が守る

俺はサヤカ先生の側にいたい、一緒なら強くなれると思う。

「そう。わかったわ。これから黒崎クン達を強引に私たちが保護するわ。意味が分かる?」

「戦うんですか?」

「ええ、彼ら黒崎クンと桃原香織さんを無力化して強引に連れ帰るわ。甲体は一般人も殺しかねない。これいじょう甲体の襲撃に黒崎クンも耐えられないでしょうから」



「私の最優先事項は、桃原香織の保護。もし青野クンと桃原香織の保護が天秤にかけられたなら桃原香織を選ぶ。たとえあなたが殺されてしまいそうになっても」


「明日決行するわ。近づいちゃダメよ」

 そうして先生は立ち上がり、笑顔を見せることもなく去っていった。

 家までの記憶になかった。

 疲れてた。サヤカ先生が言っていたことが正しいのか悪いのかわからない。どうでもいい。

 




 自宅の扉を開けた。

 家に着いたと思ったら、気力がなくなった。

 玄関の靴が一足多い。黒のローヒールとブラウンのチャンキーヒールのパンプスが一足ずつ。

 これは母さんと美樹姉さんの靴だ。

 他に黒と緑のチェツク柄の厚底ショートブーツ、これは虎緒の靴。美樹姉さんと遊んでたのかな。まあいいや。

 ただいま。

 声に出したつもりが出なかった。

 だるいな。

 言わなくてもいいか。

 体に疲れがへばりついていた。シャワーを浴びたい。スッキリしてから何も考えずに時間が過ぎればいい。

 家のどこかしらから美樹姉さんと虎緒の声が聞こえてくる。

「やだー、虎緒ちゃんたらえっちぃ」

「えへへここはプルルンってしてるね」

 玄関から真っ直ぐ廊下の先、風呂場のドアを開ける。

 あーだるい。シャワー浴びてすっきりしたい。

 ガチャリ、と開けた扉の先はむわっとした湯気とシャンプーとボディソープの匂いがした。

 誰かお風呂に入ってたのか、ぼんやりしてた頭がようやく少し冷静になった、がすでにおそかった。

 そこには下着姿の2人がいた。

 火照り、わずかに汗の滴る肌に2人。

 白のパンツ。

 美樹姉さんは、頭一つ分大きい虎緒に、後ろから抱き抱えられようにくっつかれている。

 虎緒は、美樹姉さんのおっきい胸の谷間に片手を差し込んでいた。

 むにむにと虎緒の手は弄っている。

 その虎緒はブラジャーをつけていないものだから2人は密着しているとはいえ横乳が押し潰れるように見えていた。

 その2人の半裸姿の女性と僕の視線がぶつかった。


 ............。

 お互いに固まった目線。

 ついこの前まで男子と変わらないと思ってた虎緒。

 締っているようでぷにっとした太ももとお尻。

 ヤベ、どこ見てるんだ、目線を外しても美樹姉さんの立派過ぎるお胸が衝撃的に視界に入ってくる。

「ここここ、これははは、わざとじやないんだ」

「「!?」」

「「きゃああああああーー!」」

「ごめええええええーーん」

事態を理解した虎緒は、器用に胸を両手で隠した。

 半歩下がりつつ、腰を僅かに落とし反動をつける。

  そして次に俺の顎は虎緒の飛び膝蹴りをくらうのだった。

 「ガハアッ」

 これはいつものパターンだ、思えば俺は虎緒に何度も蹴られてきた。

 彼女のドジや俺のうっかりでエロハプニングが起きるたびに俺は蹴られた。後ろ回し蹴り、踵落とし、ブラジリアンキック、前蹴り、ソバット、受けた蹴りの数だけハプニングがあった。

 ≪派生スキルを確認しました。井上虎緒からの度重なる暴力を糧に【タイガーコンボ:左中段後ろ回し蹴り-右上段内回し蹴り-右上段回転蹴り-左踵落とし】をラーニング≫

 風呂場でシャワーを浴びることなく、消えていく意識。最後に見えたのは虎緒のパンツは白い綿パンツにプリントされた、がおーと威嚇する虎だった。


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