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断絶夢幻のプロメテウス  作者: セトゥルルソン
第1章 夢と春のあいだ
4/8

夢の境目

1-④b


3/11

 痛みで目が覚めた。

『またえらく中途半端な時間にきたのね。和樹』

 いつ寝たんだ?思い出せない。なんか衝撃的な事があった気がする。でも思い出さないほうが良い気がする。

やたら顔が痛い。

『今日もがんばろー!』

 引くわぁ、こっちの気分を見抜けない彼女に。元気だなあ。頑張りたくないなあ。このゲーム201面もあるんでしょ。

『ふふふ、心配しないで大丈夫。抜け道用意してるから。あと2面クリアすればオッケーだから』

『そうなの!いやホント昨日はやる気なくしちゃったからね』

 だってさ、勝手に人の夢に入って、強制的にゲームクリアしてなんて言われて従ってるけど、こっちにはメリットなんてないわけだしさ。あと2つクリアだったら、まあ協力してもいいよ。

『次は高原ステージのはず。エントランスから始まるわ』

 真っ白な空間は、ヒビ割れ砕け別の空間へ移行していった。

俺一人だけを連れて新たなステージが現れた。

『ところでこのゲーム2人でやれば楽なんじゃない?』

『1人用だから』


 エントランスは広い、そこらのデパートの売り場よりも広い気がする。

『エントランスは甲体が3体出るわ』

 中央から黒煙が揺らいでいた。濃密な雰囲気の中心からイノシシ型甲体が3体現れた。

 俺は急いで瑠璃色水晶を発現させる、セットするのは

【射出】【射程中】【刀剣】。そのまま両手に3本ずつナイフを発現させた。

『いけっ』

 ナイフを射出した。操作技術が上がってる気がする。勢い良く飛んだナイフは、イノシシ型甲体2体へ命中した。

『ブバアア』

 2体は砕け散った。よしっ、幸先良いな。

 素早くセットを切り替える。新たにセットした【突進】【爪】【硬化小】。

 来たか、突進してきたイノシシ型残り1体に爪を構える。【突進】のスキルはイノシシ型から手に入れたものだ、だが俺はスキルを工夫する知恵がある。

 突進してきたイノシシ型甲体、タイミングを合わせて斜め右前方へ【突進】を発動した。

 突進を躱せた。それにイノシシの後ろをとれた。ここで素早く【突進】を発動、爪で切り裂く。

『これで勝ちだ』

 突進を生かした爪の一撃で、イノシシ型甲体は真っ二つになった。

『イエエエェイ!勝ちパターン発見』

 エントランスに甲体の姿はない。

『やるじゃない和樹。スキルもうまく使えてるね』

 そうだね。イメージ通りうまく使えた。

『そろそろミックスアップを試してみない?』

 そういえばリングが全て埋まっている。【刀剣】、【状態変化】、【射程中】、【射出】、【睡眠耐性】、【牙】、【爪】、【突進】、【硬化小】、【炸裂】これらをどう組み合わせるか。

 【炸裂】なんてあったっけ?今の戦いで手に入れたのかな。まあいいか。あ、良い事思いついた。

『組み合わせは決まった?』

『うん。どうやればいいの?』

『組み合わせたいリングを抜いて、同じ指に嵌めればいいわ』

 【射程中】、【射出】、【炸裂】、【状態変化】を同じ指にはめた。するとリングは1つに重なった。

 【ショット:オーラの弾丸を高速で撃ち放つ。射程40メートル】

 よし、出来た。

 試しに1発撃ってみよう。エントランスの柱を狙うか。

 サーキットに【ショット】をセットする。オーラは集束しゴルフボールくらいの弾丸が形成された、右手をピストルの形に模して俺は弾丸を発射した。

 バンッッ、強い反動が腕にかかった。以前、【射程中】、【射出】、【状態変化】で撃った時と比べて速く強い一発だ。

 弾丸は柱へ中ほどまで食い込んだ。

『きちんとオーラは回収しなよ。瑠璃色水晶の代償を忘れてないよね?』

『了解』

 なんとなしに回収を念じると玉はオーラになって俺の中に戻ってきた。このゲーム中で記憶を代償にするってどういう事なんだろう?

 ま、いっか。


 エントランス正面扉が開いた。

『あ、じゃあ和樹。正面扉じゃなくて後ろの方のエレベータに入って。それが抜け道だから』


 さっきまでが嘘のように気が楽だった、むしろ楽しいかもしれん。

 このままチャチャッとクリアして悪夢から抜け出してやる。

 エレベーターはゴウンゴウンとやけに大きな音を立てながら下っていく。

『言いにくいんだけど、次のステージは今までの比じゃない最難関のステージなの』

 今の俺ならいくらでもどんと来いだ。クリアする未来は、まるっと全部お見通しだぜ。

 つうか、瑠璃色水晶の対応力ハンパないね。強い甲体が来ても、そいつのスキルを入手すれば、その場で対応も可能だろう。

 ガガグゴンッ、盛大な音を立ててエレベーターは最下層へ到着した。扉の先は真っ暗闇だった。心なしか寒い。

『香織ちゃん、明かりないのかな?なんも見えないよ』

『集中して。よおく中央を見て。構えて』

 中央?暗すぎて見えないよ。でもわずかに何かがあるのは見える。


ジジジジ――

『早く逃げるよ、急いで』

 三人は必死に走る。暗闇の最下層は足元の誘導灯を頼りに進む、真ん中の最悪を避けて端をぐるぅりと回って急ぐ。ようやくたどり着いた螺旋階段。

 まだまだ長い逃亡の入り口。

 螺旋階段は見上げても終わりが見えない。

 アレの目覚めが近い気がする。

『マコトちゃん、和樹。上見て、あそこで終わりよ』

 香織ちゃんが示した先は微かに映る緑色の光点、終わりは見えても遠い。

 ズゥンズゥンドォウ、深い深い振動が肺の空気に混じる。

 階段が揺れて、手すりは震えている。

『はあはあはあ、ねえ。も、もしかして』

 ああ、もう時間切れなんだきっと。最下層に座する超巨大甲体。

 最悪が目覚めたんだ。

『走って―――!』

『グヴォバワアアアァッーーーーー』

 怒り狂う爆音が辺りに響き渡る、甲体が暴れだす。

 迸る黒煙。

 尻尾と前足が辺り構わず打ち付けられる、螺旋階段は地震ように揺れる。

 それでも走るのは止められない。

『グヴォバガガガガバッ』

 ッグッボオン、ッグッボオン、ッグッボオン、衝突音が少しずつ近づいたり遠のいたりしていた。

 奴は壁を端から端へ飛んで少しずつ上ってきていた。

ジジジジーー


『なんだ今のイメージは……』

 頭が痛い。

『大丈夫?和樹、そろそろ来るわよ』

 目が慣れてきた、中央のアレのシルエットが見えてくる。

 アレは、大きい。マンション3階くらいの大きさはある。もぞもぞと動いた。

 カッ、カッ、カッ、一斉に灯りが点灯した。

 アレは立ち上がった。

恐竜だった。

 恐竜ティラノサウルスだった。

 いくらゲームと分かっていても怖いものは怖い。

『無理ゲーだろ、恐竜倒すなんて出来ねえよ』

 どっかの観光地にある大仏くらいはありそうなティラノサウルス型甲体を前に完全に足がすくんでいた。

 さっきまでの無敵感なんて軽く消し飛んでいた。

 【爪】で切り裂いてどうなる?奴の皮膚を軽く傷つけるだけだ。


【ショット】だ、それしかない。

やつに近づくなんて怖くてできない。ゲームと分かっていても怖いんだよ。

多分弾丸はダメージを与えられる。

急げ、急ぐんだ。

【ショット】をセット、狙いを定めた。

『くらえっ!』

バンッッ!弾道は力強く、奴めがけて飛んだ。

よしっ、当たった。でも、表面が少し削れただけだった。

『グヴォバワアアアァッーーーーー』

奴の怒りをかっただけだ。

一撃じゃ倒せない、何発撃たなきゃいけない、何十発も必要だ。

 その間、ティラノサウルス型甲体の攻撃を防がなきゃいけない。どうやって?無理だろ。

 巨大な顎が目の前に迫り、俺を真っ二つにしたのは必然だった。





「はあ、はあ、はあっ、はっ」

 嘘だろ、無理だよやべえよあんなもん倒せねえよ。

 夕日が目に染みた。

 河川敷で俺は寝っ転がっていた。

 河川敷で寝るのはダメだ、やけにアゴが痛い。

 やっぱり最悪だな、あの夢は。忘れたいわ。

 今足りていないのは癒しだな。この恐怖を癒してくれるカワイイものが必要だ。

そうフワフワしてて、柔らかくて、ちっちゃくて、こう暖かい存在が。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ワフッ」

 真っ黒な子犬がいた。しっぽを必死に振ってる。ラブラドールレトリバーっぽい。

超ナイスタイミング!

 黒い毛並みはしっとりフワフワしてそうだ。

「ワフッ?」

 あたま撫でても逃げないかな?撫でちゃうよ。

「ワフッ」

 おおぅ、撫でた俺の掌をぺろぺろと舐めてくる。

 この小さい小さいワンちゃんは柔らかくて暖かい。

 だから撫でて、撫でて、撫でた。

うん、かわいい奴だ。ねだるようにじゃれついてくる。

「ワフッワフッ」

 ワンちゃんはくすぐったそうにしながら、ぬれた瞳で俺を優しく見つめてくる。このカワイイやつめ。両手でもみくちゃにするように撫でまわした。

「ハッハッ、ワフッ」

 幸せはこんなにも身近にあった。俺はこの幸せを離したりしないぞ。もう他の事なんかどっ――――でもいい。

「ワフウッ」

 ワンちゃんには首輪はない。この子犬は飼い犬じゃないのか。

 よしっ、決めた。

「なぁ、お前。俺と一緒に来るか?」

「ワンっ!」





 サイフの中身がスッカラカンになったけど、満足していた。

 首輪、リード、ドッグフード、歯ブラシ、シャンプー、トイレ。今日のところはこれくらい。というかお金が精いっぱい。予防接種なども含めた飼い方のレクチャーをショップの人に、後日聞きに行くことになってる。

 子犬はリードを付けていないのに、とことこついてくる。

「おなかすいたろ?もうちょっとしたら家につくからな」

「ワフ」

 お前の名前どうしようかな。黒い犬だからクロ、そのまますぎる。逆から読んでロクはださいな。つか、腹減ったな。

「ワッフ」

 ワッフルにしよう。

「よしっ、おまえはワッフルだ」

「ワフッ」

 嬉しそうにしっぽを振って俺の足元にすり寄ってくる。おーよしよし、カワイイやつめ。撫でまわしてやろうか。

「あっ、母さんに犬飼ってもいいか聞いてなかった」

 うちはマンションだけど小型犬なら融通が利くはずだ。




「ダメに決まってるでしょ」

 そ、そんな馬鹿な。

「こんなにカワイイのに?」

「それとこれとは別でしょ」

 いやいやいやいやいや。カワイイから飼うのだよ母さん。なあワッフル?

「ワフーゥン」

「ほらぁワッフルも一緒に暮らしたいって言ってるよ」

「マンションで動物は飼えないの」

「ワッフルはおとなしくて賢いから誰にも迷惑かけないよ」

「というか和樹、両手に抱えたその荷物何なの?」

「ワッフルのために――」

「言わなくていいわ。返品してきなさい。今日1日だけは目を瞑るけど明日になったら返してきなさい」

 そんな殺生な。この悪鬼羅刹は血も涙もない。こんのクソババァが――

「あぁ?!!」

「はい、すいませんでした……」

「それに和樹は犬アレルギーでしょ。苦しくなっても知らないよ」

誰が犬アレルギーですか、知りません。

「覚えてないの?」

 そんな小賢しい手段で俺とワッフルを引き剥がそうなんて浅はかなり。

早急に自室へ引っ込んで作戦を練り直さなければ。

分からず屋のペチャパイママンは頑固なんだから。

「グフウッ」

 気づけば俺の肝臓をピンポイントに狙ったボディアッパーが入っていた。





 自分の部屋にベッドに腰を掛け、やはり右腹と顎が痛む。

殴らなくてもいいのに、口に出してないのに。

 しかし困ったな。このままだとワッフルと暮らせない。離れるなんて選べないよ。

「ワッワッワッワフ」

 ワッフルは楽しそうにピョンピョン飛び跳ねている。こっちの困惑に気づいたのか、首をかしげた。まるで「大丈夫?」って言ってるみたいだ。

 指をぺろぺろと舐めてくる。くすぐったい。

「そうだ忘れてた。ご飯食べたいよな」

 フードボウルにドッグフードを出した。

「さあ、お食べ」

「……ワフ?」

「遠慮しないでイイよ。食べな」

「……」

「いらないの?」

「ワフッ」

 どうやらこの子はドッグフードがお気に召さない様子。俺の指先をぺろぺろ舐めている。ドッグフードより指の方がおいしいらしい。字面だけだとスプラッタだね。

「ごめん、今日ドッグフードしか用意できないんだ」

「ワフワフ」

違うよ、と言ってるみたいに首を振ってる。まあなんて可愛らしい。

そしてまるで指差すみたいに俺の手のひらに前足を置いた。

「ワッフ」

これだよ、って聞こえてきそうだ。

若干、俺の掌からオーラが漏れていた。

「もしかしてオーラを舐めてたの?」

「ワフッ」

そうだったのかー。

もう一回、ドッグフードを差し出してみた。

「ワフワフ」

手を差し出してみた。

「ワフッ」

そーかー。かわってるなー。

仕方がない、ドッグフードは俺が食べよう。

「ワフワフ」

一生懸命首を振るワッフル。

 ちょっとだけわがままな子犬に猫をあやすみたいに首を撫でた。

「痛て」

 ちょっとだけ静電気が走った。子犬を触って静電気が起きるのは初めてだ。


「和樹―開けても大丈夫?」

 正臣の声だ。

「うん、いいよ」

 正臣は、紙袋を手にしていた。

「テレビ使ってもいい?」

「ええよ」

 手慣れた手つきで紙袋からPS2を取り出して、セットし始めた。いつものことだ。正臣はちょくちょくここにゲームをしに来る。

「ふっふふーふふー♪ときメモ3をやっちゃうぞー」

 正臣の家は、テレビが1台しか置いてないから俺の部屋にゲームをしに来るのだ。というかギャルゲなので基本的に俺がいないときでも、この部屋でゲームをしたりしてる。

「いつもそれだな」

「僕はね、3が好きなンよ。たとえば、ジブリ映画だって何度も見たくなるでしょ?それと一緒。ほら聞いて、この主題歌だけでもいいものなンよ」

 いい歌だと思う。でも聞き飽きてるんだよ。最近は飽きたを通り越して、ただの音だ。口には出さないけど。

「ところでその子犬どうしたの?」

「ふっふっふ。ワッフルちゃんだよ。 さっき河川敷で運命的な出会いをしたんだよ。ねえー」

「ワフウッ!ハッハッハッハ」

 嬉しそうにテテッテとじゃれついてくる。

 憂いやつめ。

しかも食費がかからないかもしれない。

「でもマンションはペット禁止なンよ」

「おいおいおいワッフルはペットじゃない、家族だ。マイブラザーだ」

「ふーん、和樹が犬アレルギーだからペット禁止になったのに」

 そう言ったきり正臣はゲームだけに集中した。はっ、おまえも母さんの手先か。

 でも実際どうしよう。

「お前をこの家で暮らせないんだって、どうしようか?」

 この子に行っても分からないよなあ。

「ワッフウ!」

 おお、何かを察してくれるのか。

 トテトテと俺の後ろに回り込んだ。

 シュポンッ。

 ん?

「ワッフルーどこ?」

 いない、いないぞ。どこにもいない。後ろにも前にもベッドの下にも、テレビの裏にも、クローゼットの中も、ゴミ箱の中も。

「どこにもいないーーーー!!」

 あああーワッフルがいなくなったーーー。一大事じゃあーー!

「ワッフル―――!!どこーーー隠れてないでどこにいるんだよおお―――!!」

 ダダダダッ、バンッ。扉を開けて入ってきたのは母さんだった。

「母さんちょうどよかった、ワッフルがいなくなったんだ一緒に探してくれ」

「うっさいわ!静かにしろ!!」

 繰り出されたロングフックは正確に俺の顎を打ち抜いた。

 もれなく俺は意識を手放した。



 


 目が覚めると、バニーガールがのぞき込んでいた。香織ちゃんだ。服装についてはもうどうでもいい。

『いつも変な時間に来るのね。さっき来たばかりじゃない』

『なんで俺寝てるの?知ってる?』

『さあ? でも、ホントに貴方は強いのね。さっきティラノ型甲体に殺されたばかりなのに』

『今日はもうゲームやりたくないんだけど』

『そうねやめといたほうがいいよ。スキルの使い方練習してみたら』

『うん。そうする』

 現状取得してるスキルを確認しよう。

 【刀剣】、【牙】、【睡眠耐性】、【ショット】、【爪】、【突進】、【硬化小】。

 そして新たに【頑丈小:防御力アップ】、【知恵:理解し思考する力】、【跳躍:高く飛び上がる】のスキルのリングがはまってる。全部埋まってる。

知恵って何?ティラノ型で入手したのか、そんなわけがない。

ならばワッフルだ。ワッフルはカワイイからなー。

 どれを組み合わせようかな。

 【爪】、【突進】、【硬化小】にしよう。この組み合わせで甲体を簡単に倒せたんだ。

 3つのリングを1つに合わせた。

 【シャープクロウ:鋭い爪と機敏さアップ】

 爪を出してみると以前よりも長く鋭い。試しに反復横飛びをやってみる。やばい早いな。この状態で運動能力測定してみたいな。新記録出ちゃうでしょ。

 いやダメだ。爪がまずい、超中二病じゃん。余計クラスメートが避けられるわ。

既に嫌われてるから関係ないかもね。へへへ。照れるぜ。

 【知恵】はなあ、使い道ないよな。別に頭は悪くないからいらないよ。

捨てるか。余計なリングをはめとくわけにはいかない。

 外したリングを捨てようとして、気まぐれで思いついた。

ペルソナに付けられないかな?

 外したリングをそのまま頭のペルソナへもっていった。どうせうまくいかないだろうと思ったら、リングは頭の輪っかへ吸い込まれていった。


「何も起きないな。そりゃそうだよね……ん」

≪あ、あああワタシ、ペ、ペルソ≫

「痛っててててて痛い痛いいいいいいいい」

 急に頭が締め付けられて痛んだ。くそおお失敗したああ。思い付きで行動するんじゃなかっったああ。超痛いい。

 知恵というスキル自体どこで手に入れたのかわからないのに、それをエフェクトを統括するスキルにミックスアップさせるなんて無茶だったんだ。

『か、香織ちゃん助けて』

 香織ちゃんは、子犬と遊んでいた。

 あっ、あいつはワッフルだ。ふざけんなよ俺だってワッフルと遊びたいのに。ずるいよ。

『あ痛たたたた』

 痛みは止まない。

『ログアウトお願いします!そしてワッフルを返せ』

『うんいいよ。あとワッフルは私がここで預かっておくよ。家で飼えないんでしょ?』

『ちょ、ちょっとまって』

≪ワタシはペルソナにななナ。起動までもうしばらくお待ちください≫





 カーテンから差し込む光が滲みる。伸びをしてから窓を開けた。

 時計は6時半2分前、いつもよりちょっと早めに目覚めた。

母さん、あの後ベッドに寝かしてくれたのか。

 夢の中、ますます行きたくなくなった。

でもワッフル夢の中にいるし。


......。

いやおかしいでしょ。

現実に存在する子犬が夢の中に入ってっちゃうって。

 でも実際に今も部屋の中にワッフルの姿が無い。 

 アラームが鳴る前に瑠璃色に光る右手で止める。 

ベッドで少しボーっとする。

まずは、ほっとした。もう考えたくない。

 寝起きなのに疲れてるのは気分が良くない。

 さてと、瑠璃色に光る右手で掛け布団をはいで、ベッドから足を出す。

体の向きを変えてもう一度伸びをする。

 うん?おかしい。いつもの朝と違う事がある。

 何がおかしい?

 右腕は、瑠璃色に光っていた。月並みだけど、頬をつねってみた。

 痛い。

 えっと、夢じゃないよね。辺りを見回してみる。ベッドに机、本棚にはマンガとプラモデル。間違いなく俺の部屋。つまり現実なんだ。

というか、ワッフルがいた時も、掌からオーラが漏れてた!

現実がやべえ。

 試しに力を込めてみる。心臓のターミナルから右腕に力を流すイメージをした。

 掌に瑠璃色に光り煙が凝縮し集約されていく。確かな感触を掌中に感じる。ナイフだ。

 夢と同じ様に、右手が光ってる。

 ちょっと待ってくれよ、なんなんだよ。寝ぼけてるのか、まだ夢の中なのか。オーケー、少し落ち着こう。

 服を脱いだ。

胸にはターミナルがあった。中心に宝玉、そこから内側から外側へだんだん大きくなる5重の円が瑠璃色に光っている。

間違いなくターミナルだ。

 胸から両腕にはサーキットが見える。

両手の指にはリングがはまっている。

もう間違いない。

現実でもエフェクトが使える。


「かーずき!起きてる?」

 部屋の外から声がする。

リビングから美樹姉さんが呼んでる。同居している叔母の美樹姉さんはいつもタイミングが悪い。

 ダダダダッ、ものすごい勢いで近づく足音。

 どうしよう、右手が光っててヤバイ。ナイフ持ってる、ヤバい。

 ドンドンドンッバンッ!ドアを叩いてこちらの返答を待たずに美樹姉さんはドアを開けた。

「ご飯だよ」

 咄嗟に右手を布団に隠してしまった。

 右手を見られちゃまずいと思ったんだ、どう説明すれば良いのかわからない。

「あ……」

 美樹姉さんの時間が固まってしまった。

「そうだよね和樹もあと少しで中学を卒業するんだもんね。オトコノコなんだから仕方ないよネ。ゴメンね、お姉ちゃん気づかなくて」

 は?何言ってるんだ、この叔母は。

 美樹姉さん(叔母だけどそう言わないと怒る)の視線は右手を隠した布団に向いていた。そして布団の中央部分は、とっさに隠した刃で微妙に膨らんでいた。

 これを見て美樹姉さんはアレと勘違いをしたのか。

「違う、勘違いし――」

「お姉ちゃん何も見てないから安心して。もう朝ごはんできてるから下に来てね」

 こちらの話も聞かず言うだけ言って、部屋を出て行った。

「おねぇちゃーん!和樹がねえ、オトコノコになっちゃったー!」

 美樹姉さん。そこそこの年なんだ落ち着いてくれ。

 それより右手だ。

 そぉっと布団の中を見る。そこにあるのは、いつも通り普通の腕だった。

 さっと布団をもう一度めくってみる。やっぱり瑠璃色にみうで光ってる。まだナイフにぎってるもんね。夢じゃない。

「……和樹」

 扉から少しだけ顔を出して、美樹姉さんは言った。

「今日は栄太さんのお墓まいりだからね。学校で卒業式の予行練習終わったら集合だよ」

「わかってるよ。着替えてるから閉めてよ美樹姉さん」

 デリカシーがないんだよなあ。


「......でもアレって布団の中から光るのかなぁ」

 去り際のつぶやきは扉を閉める音に紛れて聞こえなかった。

「ほんとにワッフルはどこに行ったんだ?」

≪……ワッフルは夢のなか≫



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