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断絶夢幻のプロメテウス  作者: セトゥルルソン
第1章 夢と春のあいだ
2/8

なぜなに断絶のプロメテウス

1-②b


3/4

『はあ、ちょっと今日は、もうやる気でないわぁ』

 昨日も一昨日も、いざこれからってところで、死んでるんだよ。普通さ、敵キャラも説明する時間くらい待つよね。

 あとさ、寝る前に判明したんだけど。少し前にクラスメートがみんなで集まってバーベキューしたらしいんだ。俺だけ呼ばれなかった。

 元生徒会長の黒崎のお家はかなりのお金持ち。クラスメートみんなが集まれる程広いお庭でバーベキューを楽しんだようだ。それだけじゃなくてジャグリングやら音楽の生演奏やらがあったらしい。

 嫌われてるのか。

『まあまあ元気出して和樹。バーベキューは誰でも出来るけど、このヴァーチャル・リアリティー・ゲームをプレイ出来るのは和樹一人だよ』

 俺は誰でも体験できることすら出来なかったんだよ。今のところ、ここには死ぬ為に来てるだけじゃないか。まあいいけどね。

ここだとそこまで痛くないしね。というか俺、痛みに強いんだよね。痛みに拒否感が無いっていうか、麻痺してるっていうか。何でかわからないけど。

そんなこんなで1面の研究室に立っています。

『香織ちゃん、水晶ないけど。どうしたらいいの?』

『もう和樹の心臓にターミナルが形成されているはず。昨日みたいに心臓に意識を集中してみて』

服を脱いでみるとよく分かる。胸には、中心の宝玉とそこから広がる5重の円が光っていた。

『青と緑の中間の色で光ってる。何色なのかな?』

『瑠璃色よ。じゃあ心臓から溢れる力を右手に集中させて』

りょーかい。

『痛って』

 5重の円の一番外側から幾何学模様が描かれた。それは数本のラインとなって右手へ向かって伸びていく。

静電気にも似た痛みと共に、右手の甲にまでラインが広がっていた。

 光る煙が溢れていた。

『それがあれだから、オーラだから。うん。そいつを使ってイイ感じに倒して。ほら早く早く!』

『ブオオオォ』

 はい、来ましたー。甲体の突撃に吹っ飛ばされた。

『うああ』

今回もこれでゲームオーバーか。

 ......あれ?

死んでない。

『それは力を得たからよ。心臓に水晶が入って入ったでしょ。それによって心臓にターミナルが作られたの。ターミナルから作られたオーラがね――』

 説明してくれてるのはうれしいんだけど。

『ブオオオォ』

 絶賛甲体に襲われ中です。必死に避けてるんですよ。

『オーラによって和樹の身体能力とか各種ステータスがアップするの』

 もう避けるの限界が近い。さっきぶつかった時にも右手が折れてブランブランになってるもんね。

『胸に描かれた5重の円を見て。その中心に小さな球があるでしょ?それがね――』

『ブオオオォ』

『グフッ』

はい、アウト―。イノシシ型甲体の4度目のアタックで今回は死にました。





3/5

『なぜなに断絶のプロメテウスー!』

 目が覚めて、見えてきたのはウサギの着ぐるみを着た香織ちゃんの姿だった。うわぁ面倒くさい。

『今日は和樹のために香織先生が【断絶のプロメテウス】の戦闘システム、ターミナルエフェクトについてレクチャーするよ』

『わーい』

 とりあえず体育座りした。

『胸に形成された5重の円と中心の宝玉がターミナル。それはオーラを作り出し、貯蔵する器官だよ。オーラを身に纏うことでステータスがパワーアップするんだ』

 だから甲体の突撃に耐えられたのか。

『ターミナルの一番外側の円から幾何学模様が広がっているでしょ。それがサーキット。オーラを放出するところだからね』

 胸のターミナルから幾何学模様が両腕まで広がっている。漂うオーラは瑠璃色だった。

『ターミナルを見れば自分のステータスが分かっちゃうからね。円のどこかに球が見えないかな?』

胸のターミナルに8つの小さな球があった。そのうち5つの球は5重の円の中心にある。2つは1番内側の円にあった。1つだけ一番外側にある。

『その球の位置によってどれだけステータスがパワーアップしているかわかるんだ。外側にあるほど強いんだ』

『ふーん。ステータスはどういうのがあるのかな?』

『ステータスの内訳は、円の一番上にあるのが力、そこから時計回りに体力・機敏さ速さ・防御力・エフェクト強度・操作性・最大オーラ量・回復力を表してるんだよ。5重の円を時計回りに球が配置されてるの』

えーとつまり、【体力:1、防御力:1、エフェクト強度:5、その他のステータスは0】

 これはどうなんだろう。

『はい!香織先生、俺のステータスはどうですか?』

『ゴミだね』



『……』

『球が内側の円にあるほど弱いステータス、外側に配置されるほど強いステータスなの。わかった?』

『はい……』

『本当は少しづつ経験値をためてステータスをアップさせていくんだけど。今回は特別にプラス10ポイントプレゼントしちゃいます』

 ゴミに多大なる厚意ありがとうございます。

 とりあえずプレゼントされたステータスは自動的に振り分けられた。自分で振り分けられないみたいだ。

内訳はこんな感じだ。

【力:2、体力:2、機敏さ速さ:1、防御力:2、エフェクト強度:5、操作性:1、最大オーラ量:2、回復力:2】

『和樹、これだけのステータスがあればかなり良い方よ。設定上だけど、各項目で2あればそこそこって感じだから』

 そうなるとエフェクト強度:5というのが気になるな。

『エフェクト強度って何?』

『エフェクトの強さ。本当は2ぐらいの方が良いんだ』

『どうして?』

『ターミナルは使えば使うほど水晶化が進んで、最後は体が水晶になってしまうの。エフェクト強度が強いほと症状が進みやすいから』

『水晶化が進むと何がいけないの?』

『水晶になって最後は砕け散って死ぬわ』

『ふーん。でも所詮これはゲームだし。死んでもやり直せばいいよ。今回クリアすればそれで終わりだからエフェクト強度は強いほどいいさ』

『……痛くて苦しいわ』

『所詮ゲームだよ。そこまでじゃないでしょ。ゆるくいこうよ』

『うん、そうね。あとね、強いエフェクトには代償があるの』

『水晶化しやすいだけじゃなくて?』

 香織ちゃんは、無言で手鏡の様なものを取り出して、俺の首筋を見せた。赤い首輪が写っていた。

『それは代償の証。触ればイメージが伝わるはず』

 指で触った。

【記憶:瑠璃色水晶は記憶を代償に強大なエフェクトとなる】

 こういうの制限付きのやつゲームでよくあるね。

『ごめんね、和樹。本当にごめんなさい』

 ピーキーな特殊能力を使わされたくらいで、怒りはしない。

 さて、そろそろゲームスタートだな。

 真っ白な空間はヒビ割れ、研究室が現れた。

 俺は、心臓に意識を集中しオーラを体中に満たしていく。

『ふん、まあまあじゃない和樹。もうオーラを使えるのね』

 そういえば妙に簡単だな。まあいいでしょ。

 黒煙から這い出るイノシシ型甲体。真っ黒の体表から黒煙が漂っている。

 甲体が突っ込んで来たら、今度こそオーラで攻撃してやる。

 でもどうやればいいんだ?武器もないから、素手か。つうか喧嘩すらしたことないから殴り方がわからない。

『ブオオオォ』

 きた、どうしよう。思いっきり突っ込んで殴りつければ何とかなるだろ。

『やあっ』

 助走をつけて、思いっきり振った右腕はまるっきし空振りだった。それどころか助走がついた分、甲体の突撃はカウンターとなった。

 結局その後もグダグダで、甲体の突進が右横から体を砕いた。

『せめて武器とか必殺技とかあればなぁ』

『あるよ。それがエフェクトだよ』

 早く言ってよぉ。

 俺は砕かれて、死んだ。

このゲームは、難易度を見直したほうがいい。

甲体の動作チェックとかテスターで試さなかったのかよ。




〜〜天谷塁〜〜

3/5

「もしもし天谷さん?今電話大丈夫ですか?」

「はいー私、天谷です。大丈夫ですよ、深瀬さん。ちょうど公園のベンチで休んでいました」

「何やらガサガサ音がしてますけど、何してるんですか?」

「ワイシャツを脱いでます。ブラジャーの紐のところが、痒くなっちゃって〜。それでご用件は何でしょう?」

「......。桃原香織さんの件はどうですか?」

「よくないですねー。こちらとしては助けたいと思って呼びかけてるんですけど、難しいですぅ」

「そうですか、それでも桃原香織さんの件は継続して下さい」

「はーい」

「ただこのままでは計画が遅れてしまうので、別件のテストも進めて下さい」

「わかりました。それでは深瀬さんの指示通り一般の中学生でテキトーに選んでお願いしてきます」

「はい、お願いします。増殖した甲体が正しく動いてくれるか試してください」



~~???~~


放課後、いつものゲーセン。

俺らみたいな騒がしくてトラブルを引き寄せる輩に近づいてくる奴はいない。

「白石の奴、もうここからいなくなるらしいぜ」

「はあ?なんで?」

「引っ越しするんだと、場所は知らね」

「じゃあいなくなる前にあいつから金もらっときゃなきゃな」

「だな。可愛がってやった恩を忘れて引っ越しって許されねえな」

「お前の存在意義はサイフっつーことを忘れてもらっちゃ困るよな」

ハハハハハハ、こんな会話が鉄板だった。

自分たちがつまらない奴らだというのは薄々自覚してる。

「あのー、もし良かったらアルバイトしませんか?」

背の高い女が声をかけてきた。OLみたいな女だった。髪が長くて、少しいい匂いがした。

金もなかった、つまらないことばかりだったから、アルバイトをすることにした。

たぶん、いい匂いのしたキレイな女の人からのお願いだったせいもある。

「ありがとうございます。いやーイケメンでクールで優しい少年達にお会いできてラッキーでした」

少し照れた。

「私、天谷と申します。それじゃあこれから行きましょう」

車に乗った後、いつの間にか寝てた。


気がつくと、見知らぬ場所だった。

「それでは少年達、ゲームテスターへのご協力ありがとうございます」

アルバイトの内容はヴァーチャル・リアリティ・ゲームのテスター。

「これから敵が出てくるので、逃げてください。たぶん倒せないので」

突然だった。

黒い犬がいた。犬と言っても、大人がまたがれるぐらいにデカい犬だ。

周囲には黒煙がなびいていた。まるで逃げ場を塞ぐ様だった。

誰からともなく逃げ出した。

「おっうあお」

「なにやってんだよ安藤、早く立てよ」

 ぽーん、とボールが転がってきた。


安藤が転んだ。

でもそれはボールじゃなくて加藤の頭だった。

「え?加藤の顔がある、おい加藤お前どこいるの」

「ナニコレ、ゲームだよな?意味わかんなくね?おい、天谷さん!」

 加藤が、次の言葉は発する事はなかった。黒い犬の前足で首が吹き飛ばされていた。

 そして最後に残されたのは俺だった。

「おいこのゲーム止めろよ!いくらゲームでも最悪すぎるだろ!」

逃げた。

「ふふふ、ダメです。最期まで頑張って下さい」

「ふざけんな!」

悪態をつき続けないと走れなくなる、後ろからはアスファルトとコンクリ壁をガリガリと削られている。

「ゲームだから死ぬはずがない死ぬはずない」

怖かった。

 後ろは振り向けない。

「はぁはぁはぁはぁ......っはぁはぁ」

誰でもいいから助けて、いや叫んでも誰にも助けに来てくれない。

「っざけんなよっっ!クソがッ!」

 ッんだよ!どうして逃げなきゃなんでーなよ、あんなバケモノに追われなきゃなんねーんだよ。

 後を追ってくる音が大きくなってる。

 あと数秒もしないうちに息が切れて走れなくなる。

息切れまで再現している、このゲームはクソゲーだ。

 視界がグルグルと回った。

 転んだのか。

立ち上がろうと左手を地面につこうとしたら、またうまく手を地面にに付けない。

繰り返してもダメだ、早くしないと。

 変だと思った。焦っていても、転んで、手を地面について、体を起こし立ち上がる、そんな動作は園児でも出来る。

「なんで立てねーんだよ!ああっ!?」

 それが出来ないのは、左手が肘から先がないからだ。

左手が、ない。

「............い。いたい」

 左手が肘から先がズタズタで血、ちがぴゅるぴゅるでてる。ひだりてさがさなきゃひだりて。

「ヴオオオオォォォア!!!」

「いいいいいたタイチアヤダヤダヤダヤダヤダヤダ嫌ダーーーーー!」

 加藤が死んで、安藤も死んで。俺も。


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