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断絶夢幻のプロメテウス  作者: セトゥルルソン
第1章 夢と春のあいだ
1/8

夢の中へ

1-①


3/1

 最初に感じたのは、あぁこれは夢だなってこと。

そこは強烈な照明で照らし出されたように真っ白な空間だった。何一つとして遮るものがなかった。


『和樹、おはよ』

いつの間にか隣に女の子がいた。その女の子は、なんていうか春が来るって感じの笑顔で、桃色のワンピースが似合っていた。

 手招きするたびに黒髪のツーサイドアップが揺れている。

『お、おはようございます。えーと、夢の中だよね、ここ?』

『うん、そうだよ』

 ちなみに俺はこの女の子を知らない。

 ナチュラルに呼び捨てにしてくる女の子、嫌いじゃない。

『私は桃原香織。現実に存在するからね』

『そうなんだ?というかこれ俺の夢だよね?』

『うん、私があなたの夢の中にお邪魔してるんだ』

どうゆうこと?

『和樹はヴァーチャル・リアリティー・ゲーム知ってる?』

『仮想現実で遊ぶゲームでしょ』

 コンピュータで作り出されたサイバースペース、その中を現実の世界のように体験出来るゲームだったはず。

 たしか、ヴーチャル・リアリティー・ゲームの発売が決まった当初は、ゲームの革命が起きた、と騒がれた。けど今はもう、話題にすら上らない。

聞いた話だと、現実みたいな挙動は出来ず、あらゆる理想と現実のギャップに溢れていたようだった。その不具合はプレイヤーの日常生活に支障が出るレベルだった。あっという間にコンテンツとして成立しなくなった。

『それが、この状況と何の関係があるの?』

『夢の中で遊べるヴァーチャル・リアリティー・ゲームを作ったの』

『そんなこと出来るの?』

『出来そうだから作ってみたの』

 作れるんだ。

『ふーん、それでどうして俺の夢の中にきたの?』

『失敗しちゃった』

『失敗するとどうなるの?』

『他人の夢の中に入り込んじゃってゲームと夢から抜けられなくなったの』

 だめじゃん。

『結構うまくいってたのよ!ただ突然強制ログアウトになることが度々あるから』

『あるから?』

『周りの反対を押し切って、自分で実験したから、誰からの助けも期待できません』

『致命的だね』

『はい......』

 香織ちゃんはだいぶ落ち込んでいるようだった。

『どうして俺の夢なの?』

『わかんない。むしろあなたのせいね!でも、ごめんなさい!』

一応、反省してるようだし、人の夢に勝手に入ってきたことは、許しましょう。

『あっ、そうだ早くコレを渡さないと』

 手渡されたのは水晶だった。青と緑の中間みたいな色だ。

『何これ?』

 夢占いでもしろっていうの?

 ピシリ、真っ白な空間がヒビ割れていった。

『もう説明する時間なくなちゃった』

 ヒビ割れた空間から現れたのは、金属で囲われた部屋だ 。

香織ちゃんはいない俺1人だけ。

『1面は研究室よ。早く構えて、甲体というバケモノがくるわ』

 部屋の隅から漂う黒煙。見る見る内に溢れだしていく。そこから這い出てきたのは真っ黒なイノシシだった。

 なかなかの迫力だ。

『和樹、さっき渡した水晶を使って』

 使う?投げればいいのかな。俺は力いっぱい振りかぶって投げた。

『投げちゃダメー』

 え、ダメなの?

『使えっていうから......』

ぽこん。真っ黒なイノシシに水晶は当たった。何も起きなかった。

『ブオオオォ』

 イノシシは黒煙を棚引かせ突撃してきた。

『ちなみにこのゲームの名前は、【断絶のプロメテウス】だから』

 いや、今はその情報は必要じゃない。必要なのは救いの手だからね。

それよりマジ怖い。

そう思った時には、甲体の突進で体はポリゴンのように砕け散っていた。

これが初めてのゲームオーバーでした。

なんなんだよ!





3/2

『起きて』

 香織ちゃんの声がする。夢だ。ベッドに入って寝たのは覚えてる。

ふて寝したんだ。

『どうしたの?不機嫌な顔してる』

『別になんでもない』

 ええ、不機嫌ですとも。今日は中等部の予餞会があったんだから。ちなみに俺は中3でそろそろ卒業です。

予餞会というのは、卒業生の為のお別れ会。部活や委員会、その他行事などで作った思い出を分かち合うイベント。

 学校が用意するイベントは部活や委員会をイイ感じで過ごせた奴が優遇されるように出来ている。スクールカースト低位の人間に優しくない。

数少ない友達、っていうか幼馴染に一緒に行こうと誘われたけど行かなかった。

 だって3年間ロクな思い出が無かったんだから。

部活?委員会?入りませんでした。友達?彼女?クラスになじめてないんですけど。

というかね、中学に上がってから、数学で躓いちゃいましたから。だって何故か九九が出来なくなってたから。

なんでだ!

九九を覚えていないポンコツは勉強だけじゃなくて、体育でもやらかした。跳び箱と逆上がりのやり方がわからなくなった。

自尊心という言葉を覚えたのは、自尊心が砕けた跡だった。

 そんなこんなで予餞会なんて楽しくない。

ああ、でもひとつだけ後悔してる。

中等部卒業まであと数日、数少ない一宮サヤカ先生と会える機会を逃した。

行ったところで話せるとも限らないのだけれど。

イライラしてる時に心を癒してくれるペットが居てくれたらいいのにな。

だから家に着いて、ふて寝した。

『ふーん、いいけどね。さあ、気持ち切り替えて【断絶のプロメテウス】のクリアに向けて頑張ろー!』

『おー』

 ヤケクソ気味だった。というか、なし崩し的にゲームに参加することになった。

『【断絶のプロメテウス】はヴァーチャル・リアリティー・ゲームです。寝ている間に夢の世界に入り込んで遊ぶことが出来るゲームなの』

うん。

『ジャンルは、アクション・ロールプレイング・ゲーム。特殊な力を駆使して、身ひとつで敵を倒していってね。まだまだ開発段階だから用意できてる敵は4種類だけなの』

『少ないね』

『ごめんね』

『うん』

『でね、甲体というバケモノが出てくるから倒して』

『どうやればいいの?』

『ひとまず昨日渡した水晶を拾ってきて。水晶が無いと甲体を倒せないから』

『わかった』

『もうそろそろ始まるよ。ごめんね、あんまり説明できなくて』

 香織ちゃんが言うや否や、真っ白な空間は砕け散って、研究室が現れた。

 研究室には俺一人。

 部屋の隅から黒煙が漂っていた。あそこから湧いて来る甲体に突撃されて昨日は死んだわけだ。

『ブオオォ』

 真っ黒なイノシシが、のそりと湧いた。

『水晶は部屋の右隅にあるわ』

 ええと、どこだ。

 あった。

『取ったよ香織ちゃん。この後はどうす――』

『ブオオオオォ』

『あ、和樹逃げ――』

 腰から突き上げられる衝撃を感じて、またしても砕け散った。

またかよ、マジでなんなんだよ!





3/3

『寝たはずなのに夢で起きるとはおかしくない?』

『それがこのゲームの良いところなの』

 3日目、今日はここのゲームの良いところついて聞きたいと思う。俺は今の所このゲームに良いところを何一つ見いだせてない。

『ゲームの抱える永遠の課題。それは母親からの「ゲームばっかりやってないで勉強しなさい!」』

『あるね。それで俺らは大概「あと30分だけ」って返事して1時間やり続けちゃったりするんだよね』

『そうなの。それを見た母親が「まだやってるの!」って怒るのよねえ。その果てにゲーム禁止という事態が起こるの』

 誰もが通る道だなあ。

『そして経験を積んだ子供はやがて大人になる。大人になれば誰の目も気にすることなくゲームができる。でもね、新たな問題が発生するの』

『大人になればお金もあるし、問題ないでしょ』

『あるの。時間が無いの。日々仕事に追われ、家に帰ってきたら既に午前0時、後は寝るだけ。休日なら自由だと思うでしょ?休日出勤があるの』

『大人になっても自由になれないのか』

『でもね。それを解決する手段があるの』

『それは?』

『寝てる時間なら自由でしょ。夢の中ならいくらでもゲームができる』

『確かに、それなら……』

『ヴァーチャル・リアリティー・ゲームにゲーム好きの未来があるのよ』

 だからといって見ず知らずの他人を巻き込まないでほしい。

 再び空間はヒビ割れ、研究室にきてしまった。

水晶はこの前拾ったからなのか、手元にあった。

『じゃあ水晶の使い方をレクチャーするわ。水晶を胸の中心、心臓のあたりに当ててみて』

言われた通り水晶を当てると、体の中に沈み込んでいった。

『おお!』

すると、胸の中心が光りだした。水晶と同じ瑠璃色だ。

『心臓に意識を集中して』

胸に手を当てて深呼吸する。

力が溢れてくるのが分かる。

『和樹、服を脱いでみて』

 疑問はあるけど、とりあえず従う。俺の胸には、宝玉を中心に5重の円が描かれていた。

『おお!なかなかキレイじゃん』

『じゃあ使い方を説明す――』

『ブオオオォ』

『うあああぁ』

空中に突き飛ばされながら、体は砕けていった。

 俺はまた死んだ。

もうヤダ!全然優しくない、ゲーム嫌い!

彼女はこのゲームに囚われ、俺の夢に迷い込んだ。

ゲームをクリアしないことには抜け出せないと言う。

でもクリアできる気が全くしないんだ。

やる気が起きないんだ。

すぐ死ぬからね。

もうちょっと考えて作ってよ!



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