4.地球は人類のゆりかごである。
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砂漠は一見、不毛の大地のように見える。
しかし歩けば歩くほどに、そこに生きる者たちの逞しさを感じる。
過酷な環境だからこそ、生き抜こうとする力は大きい。
どうやらそれは原生生物だけではないようだ。
市街地についた時、二人は思わず顔を見合わせた。
想像していたよりも近代的な建造物が、大地を覆うように広がっている。
建材は砂岩のようだが、かなり大きな建物もいくつかあった。
交通機関としては列車、車、バスのような乗り合いの大型車など、公共交通機関のような者も見受けられる。
「驚いたな……星の環境としては三世代ほど発展が遅れていてもおかしくないと思ったが……」
「こりゃもう都市じゃな。」
通路は整地されているし、商店や露店などを見ると社会も機能しているように見える。道行く人々は、頭からすっぽりとかぶるポンチョのような服を身につけ、そこについたフードをかぶっている。服の丈は様々で、腰までのものから足首の辺りまでローブのように長いものもある。その下には別に服を着ているようで、肌の色などは一見見てとれないが、フードから覗く顔は褐色だ。
見た目は直立二足歩行で、砂の舞う町中だが、ゴーグルなど眼球を保護する器具を身につけているものは少ない。
人々は皆好奇の視線を向けてくる。惑星外から人が来ることはきっと珍しいのだろう。
「とりあえずあの民族衣装を買おう。」
トウカイは視線に耐えきれず露店へと向かっていった。
ルルーが少し後についていく。色鮮やかな民族衣装が並べられている露店では、若者が小さな椅子に腰掛け店番をしている。
若者はいろいろと話しかけてくるが、それは二人にとって未知の言語であった。
「宇宙公用語は話せるか?」
トウカイが聞くが、若者の方も何を言われているか見当もつかないようで、黄色を基調にした民族衣装を手に取って、ルルーに勧めているようだ。
「私の出番じゃな」
ルルーはそう言うと、目を瞑る。
突然、その若者の頭を両手で包み込みようにしてつかむ。
若者は一瞬驚いたようだが、動かない。緊張で固まってしまったのかもしれない。
ルルーの生まれた惑星「エスペラント」は、言語惑星とも呼ばれ、公用語が無いのが特徴だ。惑星自体に大地が少なく、人口もまた少ない。惑星に点々と暮らす人々はコミュニティ毎に独自の言語を話していた。それでも「エスペラント」がコミュニケーションに困らなかったのは、彼らの種族的特性によるものだ。
頭部に触れることで、他者の使う言語を学び取る。
それがエスペラント人のもつ能力であった。
ルルーは若者から手を離すと、今度はトウカイの頭をつかみ、目を瞑る。
今度はトウカイの頭の中にはぴりぴりとした刺激が走る。
これは本来エスペラント人同士で行われる「言語交流」と言われる行動だ。
他の種族には何の効果もないが、エスペラント人同士だとお互いに扱うことのできる言語すべてをお互いに共有できる。
トウカイは地球人だが、地球人の種族的特徴である「環境適応」によって、少しの間、少しの言語を扱えるようになる。
この「環境適応」は文字通り環境に適応する能力で、地球という多くの種の気候を持つ惑星で生きるために必要な力であった。
最低気温-93.2℃、最高気温56.7℃という気温の振れ幅のある惑星は大変珍しく、そういった惑星で単一の知的生命体が殺生与奪権を強く持っているのは稀なことだ。多様な環境に適応し、自らの体を変化させて生き残る能力が彼らにはあるのだ。
彼らが特派員に選ばれたのは、このふたりの種族的特徴によるコミュニケーション適応力の高さが評価された、というのもある。未開の惑星でまず障害になるのは言語だ。この問題は通常解決に長い時間がかかるが、二人ならば数分で解決してしまう。
「なあ、あんた、この色が一番似合うよ!肌の色と合ってるしそれに……ええと、まいったなあ」
「じゃあそれをもらおうかの」
いきなり言葉が通したことに若者は驚いたが、今はそんなことよりビジネスチャンスの方が大事なようで、サイズを確認し始める。
「じゃああんたはこれだね!隣の旦那は?買ってくかい?」
「そうしたいところだが……俺たち、実は持ち合わせが無くてね」
若者は二人を見渡してから、は?と困惑の表情をした。
「それって……金がないってこと?」
「ああ。」
「じゃあダメダメダメ!こっちは生活かかってんだから!一着だってタダじゃやれない……」
見やすいように露店に広げていた服をかき集める若者に、トウカイは小さな銀色の円柱を差し出した。
「これと交換でどうだ?」
筒の上部のスイッチを押すと、赤く細い光の線が無数に飛び出し、若者の体を走り回る。少し間を置いて、円柱を左右に引くように割ると巻物のように画面が現れた。そこには若者の身長、体重、体の形状などが3Dデータとして記録されていた。
「フォルムスキャナーだ。仕立て屋なら重宝すると思うよ。宇宙公用語が使えないなら、調査船に戻った時ギニアーマの言語を表示できるようにしておく。どうだい?」
トウカイがそれを手渡すと、若者は唖然としたまま画面を見つめた。
「これ……採寸できるのか?どうなってんだ?あんたら一体……」
ルルーは若者に状況を説明した。自分たちは他の惑星から来たということ。惑星調査のこと、ここに来て間もないこと……
若者は言葉を返さず、静かに聞いていた。
「だいたい話は分かったよ。けど、これを見せてもらわなきゃ、信じなかったところだ。」
そういうと、若者はフォルムスキャナーを仕立てに使う生地で包んで、大事そうに懐にしまった。
「ここに来てそんなに経ってないんだろ?よかったら俺が町を案内しようか?」
「そりゃありがたいが……おぬし店はどうするのじゃ?」
「いいんだいいんだ、1日休んだって困らねえよ!それよか、こいつのお礼させてくれよ!俺はディエンだ。」
「よろしく、ディエン。俺はトウカイ。こっちはルルーだ。」
「トウカイにルルーな。よろしく!」
改めて自己紹介を済ませたところで、誰かの腹の虫の鳴き声が響いた。
「もう、おぬしは仕方のない男じゃのう……」
「……そういうことにしといてやるよ。」
「よし、そうと決まれば出発だ!まずは……屋台に行こうか、旅といえばまず飯だよな!」
二時間ほど歩いてきた二人は、確かな空腹感を感じていた。ディエンの意見に同意すると、三人は市場へ向かって歩き始めた。
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『宇宙船を発見しました。確かに「2175」製のようです。オーバー。』
「了解。決して目を離すなよ。」
一人の男が、砂丘の上で横たわっている。
「デザートパターン」の迷彩を身につけ、うつ伏せになった彼の腕には双眼鏡が握られている。彼の両の瞳は、市街地を歩く三人をとらえていた。
傍らには、彼の身長と同じくらい大きな「デザートパターン」の施されたスコープ付きの長距離射程ライフルが、いつでも引き金を引けるようにセッティングされている。三脚でしっかりと地面に固定されたライフルは、呻き声のようなモーター音を漏らしながら双眼鏡に映るターゲットを自動で標準する。
だが、引き金が引かれることも無く、すなわち弾丸が発射されることも無い。
いつでも対象を殺せる状態で、彼らを監視しているのだ。
「正体を暴いてやるぞ……侵略者どもめ……」
彼は小さく、しかししっかりと、ギニアーマの言葉で彼らを罵った。