1/1
/simulate〈1〉
『始まりはいつも突然だ』と言うけれども、『事実は小説より奇なり』と言うけれども。それでもこんなのは間違いだって叫びたくなる。これは夢なんだろって、この頭が勝手に考えたただの妄想だろって叫びたくなる。
今、俺の目の前には竜がいる。ファンタジーRPGに出てきそうなやつだ。二階建てのビル程度の大きさのトカゲに、絵で描かれる悪魔の様な膜翼を背中に着けた見た目の、きっと百人いたら半分くらいは思い描くであろう竜の形をした、まさに王道と呼べる竜だ。
そいつは、その王道と呼べるシンプルな竜は今まさに俺を食べようとゆっくりと口を開き始めたところだった。
ゆっくりとした動きに感じたのはきっと、俺がもう食べられて死ぬのを理解しているからで、俗に言う走馬灯を眺めるときは自分だけが速くなる感じがする、というのと同じ原理なのだろう。と、いうことは俺にもそろそろ走馬灯とやらがくるのかな、などと考えていると、頭の奥の方からつい数時間前の記憶が舞い戻ってきた。どうやら、走馬灯をみる、というのは本当のようだ。