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抑止力



「兄ちゃんよぉ、持ってるもん全て出せよ。出したら大目に見てやる」


 ギョロリとした魚のような目が此方を睨んだ。俺を囲むようにして六人の男が刃物を突き立てているのだ。あまりに有り得ない光景に思わず、呼吸さえも止めてしまいそうになる。


 そもそも、どーしてこんなことになったんだっけ。


 ――遡ること二時間前。







 激しい魔力の消耗を堪えながら、俺は森の中を散策していた。ただ木々が大地から精一杯頭を伸ばしてるだけの代わり映え無い景色に遠くから聞こえる小鳥の鳴き声。穏やかと言えば聞こえは良いが、歩いてる俺からすると退屈な事この上無い。



 せめて水でもあれば良いのに、と溜め息をついた時、俺の耳が僅かに川のせせらぎをキャッチした。流石俺。耳まで万能だ。



 勝手な自画自賛に浸りつつ、俺は音の聞こえる方へと歩を進める。道は整備されてるとか言いがたく、殆ど自分で開拓してるような道だが、特に歩き辛い面も感じられず、楽々と俺は川へと目指した。


「……お、この辺かな……」


 木々の隙間に蒼い光が垣間見えた。


 その光に飛び込むようにして木々の間を潜れば、そこは広大な水の踊り場。さらさらと美しく光を反射させながら流れる水を見てると、自然と流し素麺を彷彿させるような、綺麗な川だった。


「……すげぇ、こんなの日本にはねぇぞ」


 感激のあまり言葉を失う、というのはこういうことだろう。今まで見たこと無い光景。ただ水が流れているだけなのに、これ程までに美しいのは何故なのか、と一瞬思考してしまうが、この川にそんな思考など無意味なのかもしれない。



 兵藤さんと並んで見てみたかった。


 そしたら、もしかしたら兵藤さんとお付き合い出来てたかもしれない。二人はいつまでもキラキラの水の中に視線を奪われたまま、やがてゆっくりと口付けを……。



 痛い妄想はこの辺で止めておこう。自分が虚しくなるだけだ。生前とは違う大きな掌で俺は水を掬って徐に口にする。


「この水うま!」


 何というか神聖な味が口の中に広がる。

 じんわりと疲れていた脳が回復してくような、痺れる程の癒しが身体中に拡散していくのが解った。もしかしたらここは回復スポットなのかもしれない。



 もう一口水を飲んでから俺は口許を適当に腕で拭う。実に美味しかった。これはまた飲みたいな。


「……おい」


 不意に後ろから声がした。


 見渡すとそこには山賊のような輩が不敵に笑っている。まさか、とは思うが、物は試し。


「もしかして……山賊ですか?」

「だったらどうだって言うんだよ!」

「ひいい!?」



 大声で威圧する山賊達に本能的に俺は後退。


 未だあの時の恐怖が身体に染み付いているのだ。ギラリと光る刃。それを持つ男。突き刺さる異物。一度経験すれば大概は死んでしまう可能性があるような要素が再び俺の中で騒ぎ出す。脳内では神輿を担いで神様に助けを求めている事だろう。







 ――そして今に至る訳だ。


 途方も無い出来事に嘆息を漏らしながら、俺は足りない頭をフル回転させ、現状を打破する方法を考えていた。


 相手は六人。しかも山賊だ。殺しのプロと言っても過言ではないかもしれない。ここは慎重に事を進めないと、また昔の二の舞。


 大丈夫。今の俺は強い。


 瞳に力を込めて山賊を睨み付ける。


「なんだ? やる気か?」

「ああ、そのつもりだ」


 本当は怖くて仕方ないけどな、と心の中で付け足して俺は拳を強く握り締めた。


「お前ら俺に勝ったら何でもくれてやるよ。ただ、逆に俺が勝ったらお前ら俺の子分な」

「なっ……嘗めやがって!」



 精一杯の強がりを吐き捨てると、それを合図に山賊達が一斉に飛び掛かってくる。刃が俺に向かって降り下ろされるのを目視すると、咄嗟に俺は叫んだ。


「『スピードレイズ』!」


 補助魔法を展開すると、俺の周りが蒼く輝いて、動きが身軽になる。瞬間的に刃をかわして後方へ跳ね飛んだ。そのあまりの速度に驚いた山賊達を見下ろすと、右手を彼らに向けて、スペシャリストの特殊魔法『神の咆哮』を放つ。


「……あ、あああああ!!?」


 膨大な魔力の塊に山賊達の汚ならしい悲鳴が反響する。その恐ろしい程の魔力が体内から生成されると同時に、全身の細胞が山賊に向かって流れていくような感覚が身体を走った俺は、『スピードレイズ』で上がった速度で跳んだ距離よりも多く落ちていく。


「やべ!? 飛び過ぎた……」


 暫くして2km程離れた位置に着地した俺のギリギリまで大きな爆発が広がった。思わぬ場所に飛ばされた俺は声をあげていたが、白い脅威が鼻先を掠り、あえなく遮られ、情けない悲鳴をあげつつ俺は弾き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 本日二度目の大地への衝突は高度が低かったのもあり、そこまでのダメージは無かった。でも、相手から目を離したら死ぬかもしれない。俺は咄嗟に顔を上げる。



「…………え……?」



 目の前に広がる光景に声を失った。


 ――唖然としか言いようが無かった。


 何かがあったからじゃない。何もなかったからだ。

 茫然と爆発で削られた大地を見つめる。そこにはさっき回復した木があった筈。なのに、俺自身が壊してしまった。



 俺の魔法は抑止力なのだ、と始めて理解できた気がした。無意識に流れる涙は先程まで生きていた人間が一瞬で塵になったせいか、それとも己の力を目の当たりにした衝撃か。


「なんだよこれ……」


 神様に貰ったスペシャリストの能力。

 これはもしかしたら『人殺し』の『スペシャリスト』という事なのかも知れない。


 喉がカラカラに渇いていた。


 山賊の居た場所を恐る恐る覗き込めば、五人の焼死体が転がっている。



 ――俺が殺したのだ。



 少し前に俺がやられたように、今度は俺が命を奪った。あまりにも簡単に、あまりにも軽薄に。


 自分が情けなかった。兵藤さんを守った善行は多分今ので全て消えただろう。もしかしたら神様は怒って今すぐ俺を異世界から引っ張り出すかもしれない。兵藤さんを守って死んだあの日に巻き戻して、そのまま俺は死ぬのかもしれない。


 身体が急に冷えてゆき、力が失われていく。


 どさりと音を立てて崩れた俺の側の土が蠢いていたとも知らずに。


「…………スキありぃぃ!!」

「え、ぐぶぅ!?」


 急に大柄な男が俺に向かって大地からアッパーをかましてきた。予想だにしてなかった攻撃に俺はそのまま飛ばされる。


「お前、あんな魔法使うなんてなかなか漢じゃねぇか!!」


 山賊の中の一人だった男。


 服装でそうハッキリと理解した。先程見つけた死体は五体。一人足りてなかった。なんという甘さだ。敵を殺した罪に苛まれて、現状を見失っていたようだ。



 どうやら一人だけ地面に潜って直撃を回避したようで、無傷で目の前に現れた。山賊の為か、身なりは汚いが精悍な顔付きをしているし、あの爆発を受けてもダメージを受けてない所を見るともしかしたらあの山賊のリーダー格だったのかもしれない。



「でもな、こんだけ子分が殺されちゃ示しがつかないからなぁ……命、頂くぜ」



 三ヶ峰銀人。異世界に旅立って既に絶対絶命かも、しれない。



ついに魔法が披露されました。

長々となりましたが、次回は少し踏み込んだ設定も書いていきますので宜しくお願いします!

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