チートステータス
……今度あの神様に会ったら殴ってやる。
そう思ったのは何も俺が短気だからとかそういう訳じゃない。純粋にアイツが酷いからだ。現在俺は雲の上に居る。そこからかなりの速度で大地に向かって突進しているのだ。これは異世界転生直後に死んでしまうじゃないか。
「ちょ、死ぬ! いきなり死ぬやだあああ!」
迫り来る地面。あまりの恐怖にじたばたと手を振り動かして、少しでも落下速度を和らげようと試みてもどうやら全くの無駄らしい。
それからあっという間に俺の身体は大地に激突。
聴くに堪えない悲鳴を上げながら、大きくワンバウンドして転がった。
「いって…………」
よくあの高さから落ちて死ななかったものだ。一応の配慮はしてくれていたのかもしれないがやっぱり後で処すべきか。俺は全身の痛みに耐えながら身を起こして何処にも怪我がないか確認する。
――だが、何かがおかしい。
俺ってこんな細身だったっけ、と訝しげに自分の身体を見つめる。腰には黄色の布が巻かれており、ゆったりとした白のズボンを履いてた為脚は見えない。恐らく異世界に来る時に困らないよう服だけはそれなりに気を遣ってくれたんだろう。上半身は裸で、今まで自分の腹筋なんぞ、脂肪ばかりで見えた事は無かったのに綺麗に六つに割れていて、胸筋も綺麗に膨らんでいる。腕も太く、手は骨が浮き出ていて何とも男らしい。
スキルの影響なのか。
こんな綺麗な身体になれるなら万々歳だが、一体どういう基準でこうなったのかが解らない。そもそも異世界にそんなリアリティを求めてはいけないのかもしれない。
とりあえず此処は何処なんだろうか。周りを見渡すと、木ばかりで多分此処は森なんだという事が察せられた。でもそれだけである。それ以外の事は全く理解できないので、とりあえずその場に立ち上がる。
激痛。
そうだ、そう言えば空から落ちたんだった。
でも大丈夫。此処は異世界。そして俺はヒーラーのスキルを持っている。痛みを取り除ける筈だ。
「と言うわけで早く治れ~治れ~……」
ぶっちゃけ何をどうしたら良いのか知らない。
魔法が使えるのかも解らないし、少し運頼み所も有るわけで。ゆっくりと痛む部位を擦る以外に治しそうな行動は無かったのでそれに従う、が暫くやっても何も起こらない。
「…………これはどうしたものか」
身体さえ動かさなければまだギリギリ耐えられる痛みなので、何も起こらないのならば何もしたくない。どうしたらいいのか思い悩んでいると、不意に疑問が頭を過った。
「もしかして、スキル毎に覚えてる魔法とかそーゆうの確認できんじゃね?」
俺が良くやるゲームは絶対確認できている。この世界がもし俺にとってゲームのようなチート世界ならばそれが可能な筈だ。俺は何とかそういう画面を目の前に出そうと必死に方法を考える。
ゲームの確認画面。スタートボタン。ポーズ。
…………ポーズ画面!
「ポーズ!」
ゲームの確認画面と言えばスタートボタン。スタートボタンと言えばポーズ画面、つまり「ポーズ」と叫べばもしかしたらゲームの確認画面が出るのかもしれない踏んで俺は叫んだ。
予想は当たり、目の前にあの神様が使っていた青いウィンドウが現れる。なんという鬼畜ゲームだ。分からなかったら俺は即死だぞ。
ウィンドウには事細かにスキルのアビリティのような物が記されていた。
アタッカー エレメントブレイブ、正拳突き、疾風の刃、ドラゴンスレイ、攻撃力上昇+
ディフェンダー 鉄壁の構え、庇う、守りの風、守護の光、防御力上昇+
マジシャン フレイム、アイシング、ガスト、ロック、ライトニング、セイント、ダーク、フレイムバースト、アイシングブルー、ガストシュート、ロッククラッシュ、サンダスフィア、デス、ドラゴンファイア、デウスコロナ、魔力上昇+、魔法展開速度+
ヒーラー ヒリアリア、ヒリアリアオール、ヒリアリアフェニックス、デポイズン、デパラライ、アンチステータス、回復率上昇+
エンチャンター アタックレイズ、マジックレイズ、ディフェンズレイズ、スピードレイズ、デアタック、デマジック、デディフェンズ、デスピード、デウスレイズ、ハデスロー、援護持続+
シーフ スリープショット、ポイズンショット、ヒートショット、死の一撃、命中率上昇+
サモナー フェアリー、エルフ、エンジェル、アポロン、ゴーレム
ソウルトレーナー 魂の輪廻、死霊の戯れ、前世の懺悔、憎しみ、妬み、大嫌い、殺したい、魂の同化、霊圧解放+
スペシャリスト 神の咆哮、烈空斬・女神、蛇女の睨み、天昇劇・地獄の塔、悪魔の囁き、閻魔の爆裂、攻撃力魔力2倍、攻撃速度+
「うおお……なんだこのステータス……」
あまりのチート補正に正直ビビる。まさかここまで強いとは。攻撃力魔力上昇した上に2倍補正なんてどんなゲームでも見たことない気がする。
でも、これで傷を治すにはどう言えば良いかが理解できたので、痛む箇所に手を当てる。
「ヒリアリアオール!」
と、此処で誤算。
確かに暖かな光が広がったと同時に傷は治り、痛みも無くなった。けれど周りまでも光出して枯れかけた木々までも再生し始めたのだ。
「え、これって周囲の奴全員って事なの!? 全回復って意味じゃねぇの!?」
光は徐々に強くなり、やがて森を綺麗にし終えると光は消えていく。魔力の消耗が半端なかったのか頭がクラクラしてくる。急いでMPを確認しようとしたが、どうやらこの世界にMPは無いらしく、ウィンドウは無気力にスクロールを続けていた。
よくわからないものほど怖いものはない。
「……チート過ぎて怖い」
異世界なんて、こなけりゃ良かった、と既に後悔し始めた三ヶ峰銀人でした。
スキルアビリティは悩みました笑