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プロローグ その2




 暗闇に落ちていた意識がゆっくりと浮上する。その感覚は長い夢を見た後の目覚めと非常に酷似していて、まさか本当にあの光景は夢オチだったのかと思い、俺は咄嗟に起き上がった。


「……あれ?」


 先程刺された背中の傷が無い。

 それどころか身体中何処も痛くなくて、本気で戸惑う。俺は一体どうしたんだ。確かに、俺は刺された。大好きな兵藤さんを庇って死んだ。何であの時直ぐに庇う事が出来たのかは解らないけれど、あれは夢じゃない、と思う。



 周りを見渡せば、そこに周りなんて無かった。いや、あるにはあるのかもしれないが、そこらじゅう真っ白で、何処が壁で何処が床なのかも分からない、ただ、白い部屋。



 困り果てた俺はもしかして、と一つの答えに辿り着く。此処は死後の世界で、俺は死んだ。


 そう考えると全ての辻褄が合う。


 たった十七年。俺の人生はいつの間にか終わりを告げていた。


「やあ、目覚めはどうだい?」


 隣で黒猫が優雅に欠伸。悪いが猫なんかに構ってる暇はない。とりあえずそのまま立ち上がろうと……。



 ――ちょっと待て。



「今、お前、喋ったか?」

「喋っちゃ悪いかこんにゃろう」


 自分でも馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、此方を見ている黒猫に指を指して試しに話しかけてみる。すると、黒猫は蒼い目を細めて怒りを込めた返事。


 暫く時が止まっていた。気がする。

 その場を動けずに居ると、黒猫は悠々と口を開いた。


「まあ、君が驚くのも無理はないよなー」


 前足で髭を整える黒猫。ちょっと可愛い。そっと手を伸ばしたら噛みつかれた。やっぱ可愛くない。


「君、女の子庇って死んだでしょ」

「ん? ああ……やっぱりあれ、夢じゃないのか」

「夢じゃない。残念ながらね。でも最後に良いことをした。だから君には特別にもう一度だけチャンスを上げよう」


 チャンスと言われて俺は首を傾げる。

 これから何が起こるのか全く予想が出来ず、ただぼんやりと黒猫の髭を見ているしかない。もう一度生き返れるって事だろうか。



 ……っていうか俺、死んだんだよな?



 何故だろう。本当なら「俺の人生がー!」とか「まだ一度も女の子とエッチしたことないのにー!」とか、悲しい事なんて一杯ある筈なのに、全く焦っていない。悲しくもない。


 自分が自分で気持ち悪いくらいに冷静だった。


 昔から冷静なところはあったけれど、ここまで来ると逆に笑えてくる。自分が死んで、いつの間にかどっかにいて、終いには猫と喋って。


 俺って凄く図太いのかもしれない。


「チャンスというのは他でもない。異世界転生だ。君も一度くらい聞いたことあるだろう?」

「……魔法とかあるところ?」

「案外知識ないんだね……。まあそんなとこだよ」



 微妙に貶してから、黒猫は青いウィンドウみたいな物を空間に突然発動させた。ブゥン、とハエの飛行音のような音と共に現れたそれには何やら文字が書かれている。


「…………なんだこれ」


 ひとつも解読出来ない。

 意味不明な文字が並ぶウィンドウを見据えて、黒猫は沸々と笑いだした。


「君、自分にもスキルがあるって知ってるかい?」

「スキル?」

「そう。人には皆スキルが存在する」


 黒猫はそう前置きして軽く説明。

 世の中には沢山のスキルがある。例えば俺が兵藤さんを庇ったのは、俺の本能に存在するディフェンダースキルによるもの。これから俺が行く世界ではそのスキルを自由に設定してくれる、というのが黒猫の話だった。


「勿論、君が今から行く世界でも皆自分にスキルがあるなんて知らないさ。でも、君はその無意識の中に存在するスキルを操ることが出来る」


「へぇー……スキルってどんなのがあるんだ?」


「色々あるよ。

主に近接戦が得意なアタッカー、君の世界で言えば喧嘩が強い人かな?

色々な人を守るディフェンダー、君みたいに誰かを守る力がある人だね。

様々な魔法で相手を翻弄するマジシャン、占いとかにも通じてるみたいだよ。

傷を癒すヒーラー、これは心理カウンセラーの人なんかも含まれるみたい。

防御や攻撃の補助を行うエンチャンター、これは何だろう。応援が上手な人に多いのかな……。

それ以外にも色々な物事に器用になれるテクニシャン、豊富な知識を持つスコーラー。君が居た世界にもちゃんとあったスキルだよ」



 長々とありがとう。流石に一度には覚えられなかったよ。「でも」と、俺は疑問に思った事を不意に問い掛ける。


「スキルだけで、そんな強くなれるものなのか?」

「当たり前だよ。自分では気付けてないだけで、スキルがその人を決めていると言っても過言ではない。君のその用心深さも君の中にあるディフェンダースキルのおかげだもの」


 そう言われると、何だかそんな気がしてきた。図太いだけじゃなく乗せられやすいようで、感心した俺は話の節々で頷いちゃったりしてる。



「元々人間は神様から10ポイントだけ貰って、各々好きなスキルに振り分けてから生まれてくるんだ。人生で稼げるのは個人差あるけど、大体普通の世界なら1000から2000とされている。で、君には特別に10000ポイントをあげよう。このウィンドウはそのポイント操作する為のものなんだ!」



 自慢気に黒猫は笑った。

 10000ポイント、ということは人間が一生かかっても成し得ない所まで一気に極めさせてくれるってことか。ってか、俺は生まれた時にディフェンダーを選んでたって事だよなさっきの話だと。意外だなぁ……。


 ――あれ?


 人って神様からポイントを貰うんだよな。


「なんで黒猫のお前がポイントをあげる事が出来るんだ?」

「そりゃあ僕が神様だから」

「……………………えっ?」

「いやぁ、神様も暇なんだよ? たまに世界の様子見を兼ねて散歩でも、と思ったら君刺されてるし」



 その一言に俺は思い出す。

 路地裏に入る前に、そういえば黒猫が目の前を過っていた。


「まさかお前、あの時の黒猫か……!?」

「せーいかーい」


 有り得なさすぎる事態に絶句。どうやら俺は死ぬ前から神様と遭遇していたらしい。通りで何か違和感があった訳だ。っていうか神様が黒猫って本当か。


 どうやら混乱してるらしい俺の頭は、大量に送られてくる情報に演算が追い付かない。



「まあまあ、とりあえずスキルの項目でも見てみてよ。日本語に直しておいたから」



 神様はそう言って空中に浮かんでるウィンドウを此方へ渡した。どうやって渡してるのかは神様だから、という事にしておこう。




 アタッカー

 ディフェンダー

 マジシャン

 ヒーラー

 エンチャンター

 シーフ

 サモナー

 ソウルトレーナー

 スペシャリスト




 ウィンドウに鮮やかに刻まれた文字はこれだけだった。先程説明されたものや盗賊(シーフ)召喚士(サモナー)は解るけれど、ソウルトレーナーとスペシャリストってなんだ。


「ウィンドウに直接タッチすると説明やポイントの割り振りが出来るよ。やってみたら?」


 断る理由も無いのでそれに従う事にする。機械的な音が響き渡り、画面が切り替わった。




 ソウルトレーナー 死者の魂を具現化して敵と戦って貰う能力。サモナーと違って契約をスキルを身に付けてない状態でもその場に漂っている霊なら幾らでも具現化可能。



 スペシャリスト 様々な特殊魔法や特殊能力で敵を撃退する戦闘のスペシャリスト。精神力の消耗が激しいが、攻撃では全スキルで一番特化している。




 ……ほう。スペシャリストって奴良いな。

 昔から突撃思考の俺にはピッタリだ。良く見ると説明の右側に「ポイント振り分け」という文字があった。とりあえず俺はそこを押してみると、ウィンドウがもうひとつ増えて、隣に銀行の入金みたいな感じで「何ポイント振り分けますか?」と書かれた文字。


「うーんと……」


 暫く悩んだ挙げ句、俺が割り振ったのはこんな感じ。




 アタッカー 500

 ディフェンダー 500

 マジシャン 1500

 ヒーラー 1500

 エンチャンター 500

 シーフ 500

 サモナー 500

 ソウルトレーナー 1000

 スペシャリスト 3500




 これで丁度10000ポイント。意外と呆気ないし、あれもこれもと欲張る内に結構バランス良くなっちゃった。


「じゃあ最後に補助スキルをひとつだけMAXにしてあげよう」

「補助スキル?」

「さっき言ったテクニシャンとかスコーラーとかみたいな戦闘には関係無いけど一応存在するスキルの事だよ」


 補助スキル、か。

 どんなものがあるのかと思ってれば、流れ作業のようにウィンドウに映っていたスキルが補助スキルの画面に切り替わる。ちょっとビックリ。




 テクニシャン

 スコーラー

 ヒプノティシマー

 アーチャー

 


 補助スキルはどうやらこの4つだけらしい。

 テクニシャンとスコーラーはさっき説明された通り。ヒプノティシマーは他人に言うことを聞かせる事が出来る才能を強く持ってる人の事らしい。直訳すれば催眠術師。名前と見事にマッチした能力だ。アーチャーは何かに狙いを定めると捕獲率や討伐率が上がる能力。この4つの中では一番戦闘向きかもしれない。


「…………意外と難しいな」


 はっきり言って何が良いのか解らない。悩む俺を見かねたように神様がポソリと言った。


「……テクニシャンはエッチのテクニックも凄くなるよ」

「じゃあテクニシャンをお願いします」


 即答した俺に苦笑しながら神様は「解った」と頷く。俺だってちょっぴり恥ずかしい。そんなに笑わないで頂きたい。


「まあ何はともあれこれで転生の儀式は終了だ」

「これ儀式だったんだ」

「今から君は異世界に行く。準備は良いかい?」

「あ、スルーされた」


 自分勝手な神様は俺の今の言葉を、何をトチ狂ったのか了解の返事だと聞こえたようで「じゃあいっくよーん」と愉快な笑い声と共に俺をふわりと宙に浮かせた。そのまま加速を続ける飛行に声にならない声を上げていたのは此処だけの秘密だよ♡


「じゃあね、三ヶ峰銀人(さがみねぎんと)君! 君にはもうひとつだけプレゼントを贈っておくよ!」



 遠くの方で神様がそう叫んでいた。

 こうして、俺、三ヶ峰銀人の異世界転生は幕を開けた。

長くなってすみません……。

読みづらかったり、誤字脱字があったら教えてくれると幸いです。

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