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プロローグ




 校庭から賑やかな笑い声が響く。


 その声の持ち主は見るまでもなく解った。学校で一番顔が良いと言われてる鈴原隼人(すずはらはやと)。低いけれど決して耳障りでは無い声で、他とは違う独特の雰囲気があるから直ぐに解ってしまうのだ。



 サッカーボールを勢い良く蹴り飛ばし華麗にゴールを決めると、周りからピンク色の歓声が上がる。照れたような笑顔でその声を受けると、隣に居た男子とハイタッチを交わして、爽やかに走り出した。


「…………アホくさ」


 俺は教室の窓から鈴原の様子を伺っていたが、溜め息をひとつついてからその場を離れる事にする。酷く気分が悪い。


 二重でくっきりとした目元。涼しげな印象と共に青年特有の幼さの残る顔は確かに女性にはモテるかもしれない。「子宮が水蒸気爆発を起こしちゃう」とか「お父さんのパン一は死ねば良いけど、鈴原君のパン一なら鼻血だして喜べる」とか、実際の女子の評価も高い。でも、幾らそんなことを考えたって俺がそうなれる訳ではないのだ。まるで絵に描いたように不細工な俺は、部屋の隅でオ○ニーにでも勤しんでおけ、という事である。


 簡単に言うとモテない男の嫉妬だ。


 あんなイケメンだったらクラスの女子のパンツの匂いを嗅ぎ歩いても何の反論もされずに、あわよくばその秘部を晒してくれるかもしれない。そこに男のポッキーを入れちゃっても何だったら嬌声だって上がるかもしれない。


 全く不平等なものだ。


 俺なんてそんなことをした暁には、肉棒をシュレッダーにかけられるかも。もう女の子になっちゃう。いやん。



 俺は自分の席に腰を下ろして、ノートを広げた。

 こうして此処で色んな事を妄想するのが俺の幸せ。教室で談笑する女子を見て、俺がハーレムになる未来を考えたり、催眠で女子を思い通りに出来るようになったり。


 現実では決して有り得ない妄想を密かに楽しんでは、生き甲斐になっている。


「勿論本当に起こる訳じゃ無いけど、これくらい良いよな」


 昼休みは残り何分かな、と時計に目をやってから俺は騒がしい教室の中で、一人静かに妄想していくのであった。




 ****



 放課後、俺は同じクラスの兵藤さんと一緒に帰っていた。兵藤さんはふわふわの茶髪を風に靡かせながらイケメン野郎の鈴原と並んで歩いている。


 何で俺が居るかって?


 理由は簡単。兵藤さんの後をつけるのが俺の日課だからだ。決してストーカーじゃない。鈴原が変なことしないように見張っているだけだ。



 まあこんな閑静な住宅街でナニをしようなんて、そこまで醜悪な精神は持ち合わせてないと思うけれど、やっぱり兵藤さんみたいな美少女には危険が付き物だからな。仕方なく俺は護衛してやってるのさ。


 黄色い家の前に二人は辿り着く。

 その家は鈴原の家だ。そう。この男、彼氏の癖に彼女の家まで送ってやらない。最近の若いもんはけしからん。まあ俺、二月生まれだから鈴原より年下だろうけど。


「じゃあ、また明日な」

「うん。またね」


 爽やかな笑顔で鈴原が手を振れば、可愛らしい笑顔で兵藤さんも手を振る。美男美女。畜生、羨ましいぜ。妬かせてくれるねマイハニー。


 そして鈴原の家から更に真っ直ぐに兵藤さんは歩いていった。俺ものんびりと後を続く。後ろを歩いてるとシャンプーの匂いが堪能できるのが良いところだよね。甘いお菓子のような兵藤さんらしいシャンプーだった。この匂いの為に生きているようなものだ、と俺は思う。鈴原が「子宮を水蒸気爆発起こさせる男」だとしたら、兵藤さんは「精巣とマグナムを過活動させる女神」だ。どうだ、こっちの方がカッコいいだろう。鈴原は兵藤さんとは不釣り合いなんだよーっだ。


「……にしても、こんなに遠いなら送ってやれば良いのに」


 歩くこと数十分。

 俺は心から鈴原に憎しみを抱く。イケメンは俺の敵。理由は何であれ俺にとっては害虫と一緒だからな。無理もない。ふぁ○きゅー。



 兵藤さんは時折スマホを弄りながら、無言で路地裏に入っていった。どうやら家への近道らしいが、此処の道は人通りは皆無で、日の光も当たらない。美少女(兵藤さん)が一人で歩くのには危険すぎるから、俺もちゃんとついていく。

 足を路地裏に踏み入れた瞬間。



 ――黒猫だった。



 それが俺の前を過ったのだ。碧眼の目に俺の顔が映って、何とも不気味。昔から黒猫は不幸を知らせてくれる、と言うが、まさか俺も何かあるのだろうか。有無を言わせず間に黒猫はまた飛び去っていった。

 背中に僅かに冷や汗をかく。


 ――まさか、な。


 黒猫なんてそこらじゅうに居るし、こんなのただの迷信だ。だというのに俺の不安は止まる気配を見せることなく増幅していく。


「……きゃあああ!?」

「……! 兵藤さん!?」


 俺が思考して固まっていると、そこから事態は急転。突如路地裏に甲高い悲鳴が響き渡ったのだ。その声は常日頃から喘いでる声を聞きたいな、と妄想に妄想を重ねさせて頂いていた兵藤さんの声そのもの。慌てて俺は兵藤さんの元へ向かう。50m10秒台の俺を嘗めるなよ。途中に転がっていたゴミ箱を飛び越えて、そのまま全力疾走。



 額に少しだけ汗を滲ませながら兵藤さんの元に辿り着くと、そこには兵藤さんともう一人、男が立っていた。その手にはギラリとしたナイフ。


 咄嗟に彼女を助けようとしたが、俺の身体の僅かな生存本能がそれを蝕む。兵藤さんは兵藤さんで、腰でも抜けているのかその場に座り込んだまま動かず、ただじっと鈍く光る刃を瞳孔を広げて眺めていた。


「…………あ、明日香ちゃん。さっきの男、誰」


 男が不気味に笑った。

 無精髭を生やした口元がねっとりと歪むと、大きくつり上げた目が兵藤さんを睨み付けた。


「俺という彼氏が居ながら、浮気してんじゃねえよ!」

「ひっ!?」


 突然近場にあった古新聞の束を蹴り飛ばして兵藤さんにぶつける。癇癪を起こした男はそのままナイフを上に振り上げた。


「俺のもんにならねぇなら……!」






 咄嗟に俺は走り出した。






 俺の両腕が兵藤さんを突き飛ばして、そのまま男のナイフが全力で俺に降り注ぐ。


 身体に異物が入ったのが解った。

 ブスリ、とあまりにも呆気ない音が鼓膜に流れ、あまりにも短かった命が終わってしまうのを感じて、目の前で兵藤さんが可愛らしい綺麗な顔立ちを見たこと無いくらいに歪めているのを見た。


「……ひっ!? お前、誰だよ…………」


 男が無様に声を震わせて、自分の手についた深紅の液体を呆然と見つめる。暫くして自分が何をしたのか、悟った男は大声を上げた。


 少しだけ、五月蝿い。

 せめて、こんな時くらい静かに眠らせてくれ。


「……ね、ねぇ……大丈夫? ねぇってば……」


 小さくて暖かな手が俺に触れた。



 ――ああ、良かった。生きてる。



 ねぇ、兵藤さん。早く逃げないと、この男にまた、殺されちゃうよ。俺、身体痛くないけど、でもとっても重たくて、動けないんだ。でも本当に、兵藤さんが無事で良かった。


 微かに俺は唇を動かした。



「……生きてて、良かった」




 俺の人生はそこで幕を閉じた。

初めまして。辻宮あきらです。

私が執筆させて頂いてる「復讐のケイン」の合間を縫って変態小説でも書こうかな、と思ったらこんなプロローグになっちゃいました笑

これから一話が始まる予定ですので宜しくお願い致します。

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