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夢より惑いしその現

 ふたたび視界に飛び込んできた景色は、なんとなく、違和感があった。


 自分と世界とのあいだに薄いフィルターが一枚挟まれたような、自分と世界とのあいだに一歩分の距離が生まれたような、そんな違和感。だが一方で、それが自分と世界の適正な関係だという確信もあった。

 もっとも、そんな奇妙な感覚も、一瞬で晴れることになる。


「目覚めたわね、ユウリ」


 その声は、新しい朝の到来を告げる小鳥のさえずりのように、体に染みいってきた。天空で鳴る鐘の音のように透き通ったその声は、覚醒したばかりで定まらない体の芯をしっかりと固定し、ついでにぴんと伸ばすかのようだった。


「どう? 気分は」


 悪くはなかった。むしろ、自らを縛っていた拘束から解き放たれたかのような、そんな気持ちだった。


「ウォーロック! ウォーロック!?」


 なにやら、少女が叫んでいた。金髪に鳶色の瞳をした、可愛げな少女だ。しかしその表情は、まるで大事なものを奪われたかのように、鬼気迫るものだった。


 ウォーロック……誰かの名前だろうか。聞き覚えがあるが、思いだせない。


「気にする必要ないわ、ユウリ」


 ユウリ。それも、聞き覚えがあるものだった。


「そう、あなたの名前よ。……わたしはエーテリア。あなたの使役者」


 名前? だがゴーレムである俺に、名前なんてものは必要ないはずだが。


「ええ、そうよ……でも、もうじき、名前が必要になるの。……ああ、わたしのユウリ」


 目のまえの女性は、目尻に涙を浮かべながら、いう。


「ちがうわ、ウォーロック! あなたはウォーロック、ユウリなんかじゃない!」


 金髪の少女が叫ぶ。

 ウォーロック……聞き覚えのあるその名は、俺の名前だったのか? しかし、俺の名前はユウリではないのか?


 そういえば、目のまえの女性と叫んでいる少女とは、どこか似ているようだった。輝く金髪も、端整な顔立ちも。ひとつちがうのがあるとすれば、それは瞳の色だった。

 親子、だろうか。だが、もしそうだとすれば、違和感もあった。そう、それは、母親と思しき女性は、あのくらいの少女を娘に持つとすれば、いくぶん若すぎるようだった。


「うるさいわね、あなた」


 体のすぐ近くを飛ぶ羽虫をはたくような自然さで、女性はいう。


「最後の魔宝石の錬成には、しばらく時間がかかる」


 ニンマリと浮かべたその笑みは、特上の獲物をまえにしたときの、極上の笑いだった。


「命令するわ、ユウリ。あのうるさい小娘を、黙らせなさい。……そしてそのあいだに、わたしは最後の作業を行う。それでおしまい」


 わかった。


 いやだ。


 その相反する感情を胸に抱きながら、体が自ずと動いた。


 なぜなら、俺はゴーレムだから。


 ゴーレムである俺の使命はひとつ――使役者の命令を、順守することだから。


次回は明日2月21日夜22時更新予定です。

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