表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

はじまりの銃声(イラストあり)

挿絵(By みてみん)

 地下へと続く階段は薄暗く、侵入者である俺たちを拒むように闇が満ちていた。どこかに地下水脈の滝でもあるのだろうか、ザーという音が間断なく続いている。

 生温かい闇と、水が滂沱と流れる音。そんな状況下で俺は、思い出さずにはいられなかった――プリシアとはじめて出会ったときのことを。


 そう、たしかあのとき、闇が満ちた洞穴の外では、針のように細い雨が降り続いていた。いつあがるともわからない灰色の幕をにらみながら、俺はふと気になったものだ。

 俺が守るべき宝物は、いったいなんなのだろう――と。


「ウォーロック?」

「!」


 プリシアの呼びかけに、俺はハッと顔をあげた。

 いつのまにか歩みをとめていた俺に、プリシアは鳶色の瞳を細め、いぶかしげな視線を向けていた。微風が流れているのだろう、金髪のツインテールの先が、かすかになびいていた。


「どうしたのよ、ぼうっとして」


 大声でなくても洞窟内に残響するような、子供特有の甲高い声だった。正確な年は知らないが、おそらく一〇代前半といったところだろう。


「どうもしていないから、ぼうっとしていただけだ」

「ゴーレムのあんたが、なに人間みたいなこといってるの。人間と同じなのは、外見だけにしてちょうだい」


 フンと鼻を鳴らし、プリシアはあごで階段の先を示す。


「ほら、最深部につくわよ」


 階段を降りると、そこには妙に整備された石畳が広がっていた。床だけではない。壁も、天井も、パズルのピースのように、きっちりと石の板がはめ込まれていた。

 足元はほのかに光が灯っている。地下であるにもかかわらず明るいのは、石板に密生するヒカリゴケによるものだ。最深部特有の光景は、にわかに俺たちの気分を高揚させた。


 はやる気持ちを抑え、慎重に歩みを進めていく。


「……あ」


 ふと、プリシアが吐息をもらした。その視線の先には祭壇があった。次の瞬間、弾かれたように駆けだそうとしたプリシアを、俺はすばやく手で制した。


「待て」

「……なによ」


 プリシアは不満げに俺をにらむ。差し出されたお菓子をまえに「おあずけ」を命じられた子供のようだ。もっとも、彼女はまだ子供なのだが。


「よく見ろ」


 祭壇を取り囲むように、三本の柱が設置されていた。そのうちの一本の頂には、鳥のような姿形をした魔物――ガーゴイルだ――が腕を組み、屹立していた。祭壇に向けて落とされた視線は、わずかな変化すらも見逃さないだろう。


「……気づいてたわよ、それくらい」


 口をとがらせて、プリシアは応じる。


 正直なところ、本当に気づいていたかどうかは疑わしいものだった。彼女の好奇心という名のレンズは、ときに思いがけないものを発見するのに役立つが、たいていの場合、周囲は曇っていて、頭をぶつけたり足をひっかけたりと、トラブルを導く要因になっていたからだ。


「気づいてたっていってるでしょう! ……宝の番人ってとこかしらね、あれは」

「起動条件はおそらく、祭壇への侵入だろう」


 さて、どうする――と、プリシアに目配せをする。


「どうする? どうするかって?」


 くりくりとした瞳をこれでもかというくらいに剥いて、プリシアはいう。


「決まってるでしょう、玄関のチャイムを鳴らして、真正面からお邪魔するのよ」

「玄関のチャイム?」


 見たところ、そんなものはないようだが。


「あんたって本当にユーモアがないわね。体だけじゃなくて、脳みそまでお堅いのかしら」


 プリシアはなにやら上等な冗談でも口にしたかのように、口元をゆがめる。それはいまだ少女と呼ぶべき人間の笑い方にしては、いくぶんの邪悪さも感じられるものだった。


 絹糸のような金髪のツインテールも、聡明さが見てとれる鳶色の瞳も、色づきはじめた果実のように赤い頬も、年相応のものである。

 しかしそれでもなお、彼女が年相応にも見えない理由があるとすれば、それは、全身を包む真紅のコートと、ホルスターにしまわれた銃、そして、磨き抜かれたナイフのように鋭い、眼光のせいだろう。


 プリシアはホルスターに手を伸ばし、銃を構える。


 白い牙を剥いて笑う。


「お邪魔するわよ、可愛い番鳥さん?」


 そういってプリシアは、弾倉に――正確には、弾倉の内部に装填された加工済Aランク魔宝石キャンディ・ポップに――そっと口づけた。いつどこでこんな仕草を覚えたのかは、わからない。


 まだ小さい赤子の手に触れるような繊細さで、プリシアは引き金に指を添える。


 添えて――引く。


 撃鉄が持ちあがり、また落ちる。《キャンディ・ポップ》を叩く。衝撃を弾丸に変換し撃ち出す《キャンディ・ポップ》を叩く。


 吸収(インプット)した(エネルギー)を、べつの力に換えて放出(アウトプット)する――それが、魔宝石。


「いけ!」


 撃ち出された銃弾はガーゴイル像の足元に着弾し、爆発音が洞窟内に反響した。

 なるほど、それはたしかに、派手な玄関チャイムだった。チャイムを鳴らすタイミングとしては、いささか遅すぎるようだったが。


3/5改稿。「キマイラ」を「ガーゴイル」に。


二話以降も引き続き改稿を進めていく予定ですが、明日から旅行に行くため、しばらくは二話以降では「キマイラ」のままの表記が続くと思います。すいませんが脳内で補完してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ