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モンスターズ・バトル&ゲーム  作者: まるいもの
3章 タクティクス編
36/36

五年前+リッジ=へタレ?

第二試合【獣陣】VS【ビクトリー】


『ああっと、【ナイト】のリッジ戦闘者が三人に囲まれてしまった! これは絶体絶命だ! 三位一体の攻撃を防ぎきる事ができずリタイアしてしまったーっ、そしてここでタイムアップ。【獣陣】十六ポイント対【ビクトリー】七ポイントで【獣陣】が勝ちました!』



第三試合【スカイ・ハイ】VS【ビクトリー】


『第三戦も【ビクトリー】は劣勢に立たされています。このゲームを落としてしまうとBクラス進出が難しくなってしまいます。なんとか勝ちたいところですねー』


ポイントは十二対六、時間はあと五分しかない。

マジックストーンから得られるポイントで逆転はもう不可能。ならばマジックストーンから三ポイント、そして相手チームを四ポイント分撃破するか、【キング】のズーを倒すしかない。

しかし、相手は全て高空を飛んでおり、流石のミフィーもそこまでは矢が届かない。

唯一の空を飛べるミカエラも四対一では勝ち目がなく、そのままゲームセット。

チーム【ビクトリー】はとうとう三連敗を喫してしまった。



        ◆ ◆ ◆ ◆



ブリーフィングルーム―――


「あそこでリッジが突っ込むからだめだったのじゃ!」


「マリアの指示が遅く意味が分からないのがいけないんだろっ!」


いまブリーフィングルームはマリアとリッジのどちらが悪いかの擦り付け合いが始まっていた。

ちらりとベアーチェさんを見るがどうも収拾を図るつもりはないらしい。


《なぁ二人とももう少し落ち着けよ。これじゃぁ話し合いじゃなくて罵り合いにしかなってないぞ》


「シュンは黙るのじゃ! 今日こそ決着をつけるのじゃー!」


「ちっ、やってられるか」


椅子を乱暴に引き、ブリーフィングルームを出て行くリッジ。


「にょわ~、逃げるのかや! リッジのおたんこなすーー!!」


むきぃぃぃと言って髪を掻き毟り部屋へと走り去るマリア。


《ふぅ……あの二人どうにかならないのか?》


「んー難しいわね、どちらも意地っ張りだから。でも本当になんとかしないともう後がないわね」


俺とミフィーがうんうん唸っているとマナナがすいっと前にでて一言、


「わんちゃん、私マリアちゃんとお話してくるね~」


《おっおい、マナナ大丈夫なのか?》


なぜかマリアとマナナは中が悪い。


「大丈夫~、ちょっとマリアちゃんとお話するだけだから~」


《ん~分かった、それじゃぁマリアのこと頼むな》


「うん~まかせて~」


にこにこ笑いながらブリーフィングルームを出て行く。マナナなら何とかしてくれる……といいなー。


「マリアさんのことはマナナさんに任せるとして、リッジさんの方にも何かアクションを起こしたほうがよさそうですね~」


《アクションっていったってどうすればいいんだ?》


そうミカエラに聞き返すと、え? と思うような事を言い出した。

……俺の命日は近いかもしれない。




        ◆ ◆ ◆ ◆



「マリアちゃ~んはいっていいかな~」


「だめじゃっ、今は誰も入るでない」


「おじゃましま~す」


「入るなと言うておろうが!」


「へ~マリアちゃんのお部屋ってすごいね~」


天蓋つきのベッドに古めかしいが気品のあるアンティーク調の家具。

花の形をしたフラワーランプが薄い緋色の光を漏らしている。


「にょわ~、貴様はごそごそと部屋を漁るでない! 何の用じゃ!」


「えへへ~マリアちゃんとお話がしたくて~」


「わらわはしたくない、ってベッドに上がってくるでない!」


「え~とね、マリアちゃんはどうしてリッジちゃんと仲が悪いの~?」


「こっこやつ、全くこちらの言うことを聞く気がないのじゃ……ふんっリッジは裏切り者じゃ、じゃから仲良くなどできんのじゃ」


「ん~でも~マリアちゃんはリッジちゃんのことずっ~と目で追っているよね~?」


「ッ! なっ何を証拠に――」


いきなりマナナがメイド服を脱ぎだし、上半身をさらけ出す。その背中には醜い火傷や、虐待の跡と思える酷い傷が残っていた。


「おっお主は自己再生する変態ゾンビではなかったかや? どうしてそんな傷が……」


「えっとね~私がゾンビになっちゃう前はいらない子として育てられてたの~この傷はその時に付いたから傷ごと再生されちゃうの」


マナナの生い立ちはマリアの全く想像できない出来事で、根が素直なマリアは最後まで話を聞く前にすでに顔をぐしゃぐしゃにして泣き出していた。


「おっお主は、かっがわいぞうなやつじゃたのじゃな~~、ぐしゅ」


「毎日人の顔色を窺っていたからなんとなく分かるんだ~、その人が今どんな気持ちでいるのか、何を望んでいるのか」


マリアの泣き顔をエプロンドレスで拭う。


「マリアちゃん本当はリッジちゃんと仲直りしたいんだよね?」


「ううぅぅ、じゃがリッジのやつは、わらわが少し拒絶しただけで直ぐに逃げ出すのじゃ。リッジはわらわと仲直りなどしたくないのじゃ。ぐしゅり」


「それじゃぁリッジちゃんと、ちゃんとお話ができたら仲直りしたい?」


「うん」と呟きこくりと顔を頷かせる。


「よかった~、それじゃぁリッジちゃんをつれてくるね~」


「にょわ~、まっ待つのじゃ。そっその心の準備というものがじゃな、わらわには必要と思うのじゃ」


「そうなんだ? それじゃぁ準備ができたらお話しようね~」


最後にマリアの頭を柔らかく撫で部屋を出て行こうとするマナナ。

そのスカートを指先で掴み、


「まっ待つのじゃ、そっその……今日はわらわと一緒に居て欲しいのじゃ……」


その姿がマナナの琴線に触れてしまった。


「マリアちゃんかわいい……じゅるり」


「ぬ? なんじゃ今の寒気は」


「えへへ~それじゃぁ今日は一緒に寝ようね~大丈夫、私我慢できるから~」


いそいそと服を脱いで裸になるマナナ。


「にょわっ、何故裸になるのじゃ。それにさっきの我慢できるというのはなんなのじゃ!」


「えへへ~お部屋で寝る時は裸で寝るのがいいんだって~ミカエラちゃんがそうすればわんちゃんが喜ぶって教えてくれたの~」


「なっなんじゃと、ならばわらわも裸で寝るのじゃ」


そういって素っ裸になるマリア、引っ掛かる所が少ないので素早く脱ぐ事ができる。

そして二人してベッドに入ったとき、マリアの目の前には大きな物が二つ……


「やっぱりお主は敵なのじゃーー!」


「えへへ~マリアちゃんかわいい……オイシソウ」


「まっまて、美味しそうとはいったいなんじゃ。なっ舐めるでない、「大丈夫我慢出来るから」出来とらんわーーー!!」


桃色のような、それでいて瞬時にホラーに変わりそうな夜が過ぎようとしていた。



        ◆ ◆ ◆ ◆



夜が明ければ朝が来る。それぐらいの時間が経ち次ぎの日。

なぜか仲の悪かったマリアとマナナの仲はたった一夜でガラリと変わった。

仲睦まじく、朝食を食べるマリアをオイシソウに眺めるマナナ。俺はこの時何が美味しそうなのか聞く勇気はなかった。

食堂には俺、マリア、マナナ、ミカエラ、梟で朝食を取っている。


《それで、マリアはリッジと仲直りしたいんだよな?》


「うむ、本当はわらわも分かっていたのじゃ。五年前のあの時リッジがここを離れなければいけなかったのは。家族や一族を捨ててまでここに残れるはずは無かったのじゃ」


《あー聞いた話だとリッジ達の一族は、何処に住むか決めるのは長が決めることで、長は一族で一番強い者がなるらしいな》


「そういうことじゃな、基本獣人族は脳筋ばっかりじゃからの」


「姫様の仰るとうりですのー。獣人族は戦闘種族ですからのー」


《それじゃぁあとはリッジとちゃんと話し合えばもう解決したようなもんだな》


「すまなかったのう、わらわが意地をはったばかりにゲームも三連敗してしまったのじゃ」


《それはいいさ、いまから五連勝すればまだBクラスにいける可能性は残っているしな》


「ですねー。私が見たところCクラスどころかBクラスでも勝ちあがれる力は【ビクトリー】にはありますよ。あとは連携しだいですね」


そうこう話しているとリッジがミフィーと一緒に食堂へ入ってきた。

マリアは真剣な表情をして席を立つ。


「リッジ、話があるのじゃ」


「マリア……昨日の事ならあたいは意見を変えないぜ」


違うとばかりに首を振るマリア。


「違うのじゃ、わらわが話したいのは五年前の事なのじゃ。五年前はリッジの事も考えずに――」


そこまでマリアが喋るといきなりリッジは、


「わーーわーーわーー!!」


と叫び耳をふさいで逃げ出してしまったじゃないか。

ぽかーんと何が起こったのか脳が理解しきれない俺たち。そしてダメだこりゃとばかりに首を振るミフィー。


「なっなんなのじゃ?」


マリアの当然の疑問にミフィーが答えをくれる。


「ごめんなさいねマリアちゃん、せっかくマリアちゃんが和解してくれようとしたのにあの子ったら怖くて逃げ出しちゃったのよ」


《怖くて?》


「ええ、リッジはね、マリアちゃんのことが妹のように可愛くて可愛くてしょうがなかったの。五年前のお別れのときあんな分かれ方をしたでしょう? 今でも口論になってはマリアちゃんに嫌いといわれてるのに五年前の事を出されて完全に拒絶されるのだけは怖くて受け入れられないのよ」


「わっわらわは仲直りがしたくて――」


「ええ、私はマリアちゃんが本当はリッジのことを嫌っていないのは分かっているの。でもリッジったら私が何度そういっても信じられないようで」


「えーとですねー、つまりリッジさんは一言で言うとへタレなので逃げ出したと?」


ミカエラが核心を突く。


「そうなるわね……」


「なっなんじゃそれはぁぁぁ!!」



それからマリアとリッジの鬼ごっこが始まった。

マリアだけではリッジを捕捉することすら難しいので俺たちも協力するのだが。

耳をふさいでわーわー逃げ出すリッジと話すらできず、いたずらに日にちだけが過ぎた。

第四戦は明後日に迫っていた。


《どうするんだ? このままいったら明後日のゲームは今までより酷い事になりそうだぞ?》


「ですねー、まさかリッジさんがここまでへタレだとは思いませんでした」


「なんなのじゃあやつは、へタレなのはシュンだけで十分なのじゃ……もしやへタレというのは伝染するのかや?」


《しねーよっ!》


「しかしこのままではいけませんね。やはりここは前に私が言った方法をとるべきですよシュンさん」


《俺に死ねというのか?》


「むむ?何かいい案があるのかや?」


「はい、リッジさんの一族もそうですが獣人族というのは自分達一族の誇りをとても大切にしています。そこで、シュンさんがリッジさんの一族を貶し勝負を吹っかけ、勝った方の言う事を何でも一つ聞くという決闘をしてはどうでしょう」


「なるほどね、それでシュンくんが勝ってリッジにマリアちゃんとキチンと話をするように言えばいいのね」


《なるほどじゃないよ、もし俺が負けたときはどうなるんだよ》


「剥製ですかねー」


「狼鍋じゃな」


「毛皮にされるんじゃないかしら。リッジは獣の皮を剥ぐの上手よ?」


《それ全部死ぬじゃん!》


「「「勝てばいい」」」

俺っていつもこんなんだよな! どうせ逃げれないんだ、腹をくくってやってやるよ!

グラーズに惨敗してから二週間と少し、勝つ為の修行はしてきた、その成果をリッジで試してやるよ、ちくしょー!



日にちがもう無い、明後日はゲームなのだから明日中には何とかしなければいけない。

俺は今日中にできるだけの用意を終わらし、明日に備えて寝る事にした。リッジと初めて会ったとき俺はほぼ一瞬で戦意を喪失してしまった。

あの時から三ヶ月、これからのためにも勝ってみせる!



        ◆ ◆ ◆ ◆



次の日、俺はリッジがいるであろう中庭に一人で移動する。

この三日間、リッジはいつも先ずは中庭に逃げ込んでいた。中庭からなら城の中にも、外にも楽に行き来できるからだ。

そして今日もリッジは中庭に逃げ込んでいた。


《ようリッジ》


「しっシュンか、何か用か?」


そういいつつ回りを見回す。マリアがいないか探しているのだろう。


《いい加減マリアと正面から話し合えよ、皆心配してるんだぞ?》


「そっそんなことはシュンに関係ないだろう」


そう虚勢を張っているが自分が皆に迷惑をかけているのは自覚しているみたいだ。

リッジも本当は逃げたらダメだとは思っているんだろうな。だったら、俺が逃げれないようにしてやるよ!


《ほんっとうに情けないよな、そんなにマリアに拒絶されるのが怖いのか?》


「ッ! お前に何が分かるんだよ!」


《さぁ? 分かりたくもないし。あーあ、長であるリッジがこの有様じゃぁワーキャットの一族もどうせたいしたこと無いんだろうな》


「……てめぇ、今なんつった!」


《ワーキャットの一族なんて、皆情けない弱小一族だろうなって言ったんだよ!》


「はははっソンナニシニタイカ。お望みどおり殺してやるよ」


うおー怖いーすごい真っ黒なオーラがー!!

俺は臨戦態勢を取りながらリッジに注文をつける。


《リッジっ俺が勝負に勝ったらマリアとキチンと話し合いをして貰うぞ!》


「ああ?なにいってんだてめぇ」


《それとも勝つ自信がないから賭けを受けれないか?》


「上等だよ、負けたら何でも言う事を聞いてやる!」


言質は取った。後は勝つだけだ!


そして俺とリッジの勝負が始まる。リッジはマリアとキチンと話し合うことを掛けて、俺は命を掛けて。

……リスク見合わなくないか!?



リッジがまさに疾風と化して襲いかかってくる。獣人族は皆、一つの格闘技を修めている。獣人の始祖と呼ばれる幻獣種の竜人が編み出し闘法。

ドラググラップル。

主に打撃、関節、投げをミックスしそこに獣独特の動作を入れた格闘技だ。

ワーキャットは素早い身ごなしと柔軟な体躯を活かした動きをする。


四足動物である魔狼の俺に対して、身を屈め地面すれすれで真正面から来る。

舐めすぎだ。俺は背中に背負っていた物を取り出す。中心に口で咥える柄があり、柄から左右に伸びるブレードが付いている独特な形の武器を口に咥える。

【魔食】に対抗する為の対策その一。名前はないのでブレードとよんでいる。

さらに【マジックソード】を書ける君で唱える(かく)

正面から突撃してくるリッジをこちらも正面から迎え撃つ。リッジの鋭い爪と【マジックソード】がぶつかり合う。

繰り出される蹴りを【ステップ】でかわし、口に咥えたブレードで胴を切り裂くように振るう。

足に鉄の脚当てをつけていて、俺のブレードとぶつかり合うたびに耳障りな金属音が響き渡る。


「はっ、少しはやるようになったじゃねーか」


《リッジがマリアから逃げ回ってる間も、中級者用ダンジョンで修行してたからな!》


「ちっ言ってくれる、だったらもう一段ギアを上げさせてもらうぜ!」


そう宣言した瞬間リッジのスピードがさらに上がる。俺はすでに【クイックアップ】を使って対抗しており、MPの都合で【身体能力アップ】が使えないためジリジリと追い詰めだされてきた。

ならば、対グリーズ対策第二段!


俺の脇に吊っている数本のナイフ、それには書ける君と同じルーン文字が彫ってある。

俺は一本のナイフを念動で取り出しリッジめがけて文字を書く。

書く文字は日本語の十、縦と横のナイフの斬撃がリッジを襲う。


「味なまねを!」


さらに二本、三本と抜きさり投げナイフのように飛ばしては大きくVの字やX字を書く。

ややこしい字を書いてしまうとナイフが前に進まず、空中に留まってそのまま文字を書いてしまうので単純な文字でしか用を成さないが、かなり使い勝手がいい。

さらに数分の攻防、そこでリッジが気づく。


「てめぇ、ペンは何処にやった?」


《さて、どこかな?》


さっと左右を見回すがそんな所には無い。ペンは俺と丁度対角線上、つまりリッジの真後ろにある。

スピード重視の【ウインド】を五連発。かすかにもれる風の音を聞き素早く横に避けるが二発がリッジの腕を切り刻む。


「くっ」


《後ろばかりに気を取られると痛い目にあうぜ?》


横に跳んだリッジを追いかけ俺のブレードと【マジックソード】がリッジに襲い掛かる。

リッジの後方を常に位置取る書ける君、前からは口に咥えたブレードと【マジックソード】を振り回す俺、そしてたまに飛んで来る投げナイフ。

じりじりとリッジを追い詰める、がそれだけでは倒す事ができない。クラスCのワーキャットの中でも一番の使い手なのだ、リッジは。


「ははははっ、正直舐めてたよ強いじゃねーかシュン。だったらあたいも本気で行くぜ! 獣化!!」


リッジの瞳孔が縦長になり、顔全体が山猫のような獰猛な顔に変わっていく。獣人三体とほぼ互角に戦うことができたリッジの奥の手。

【獣陣】相手には三対一で最後には敗れたが、それまでは互角の勝負を繰り広げていたのだ。


『フシャーーー!』


ドンッと地面が蹴り足で爆ぜる。今までの倍近くのスピードで襲い掛かってくる。

速く、力強い攻撃が俺の反撃を許さない。

今度は俺がじりじりと追い詰められていく。もうナイフやペンを操る余裕がない。

だが、ここまでは予定通りだ。リッジの獣化を引き出してからが本当の勝負。

俺はブレードをリッジめがけて投げ飛ばし、一瞬の隙を突いて後ろに大きく跳び、体勢を整える。

リッジを本当に負かすのならば、獣化を使わせてから勝つしかない。そうしてから勝つことが完全勝利になるのだ。

【マジックソード】の時間が切れ、丸腰になった俺を仕留めるチャンスだと判断したのだろう。

一気に距離を詰めてくるリッジ。それに俺は仕掛けておいたある魔方陣を起動させる。

対グラーズ対策その三、魔法を全て消し飛ばすグラーズ用に仕掛けた魔法だ。


リッジは罠に気づいてすぐさま横に飛ぶが、そこはまだ効果範囲だ。

城を揺るがすほどの轟音と衝撃波が中庭の木々や建築物をなぎ倒す、リッジも俺も派手に吹き飛ばされた。

威力がでかすぎる、俺まで吹き飛んだのは計算違いだ。

本格的に試したのはこれが初めてだが、ある二つの魔法の組み合わせならならグラーズの【魔食】にかき消される事も無い。

そして勝負はリッジが気絶した瞬間俺の勝ちで終わりを告げた。



        ◆ ◆ ◆ ◆



「ッ! ここは?」


「おや?気がつきましたか? ここは医務室ですよ」


「あたいは……負けちまったのか……」


「ですねー、怪我は打ち身と打撲程度ですが、頭を打っていたので無理だけはしないようにお願いしますね。では、私は離籍しますので後はおねがいしますねシュンさん」


そう言って有翼人の少女が出て行くと、変わりにシュンが入ってくる。


《よう、あー先に謝らせてくれ。リッジの一族をバカにして悪かった》


「なんで謝るんだよ、はははっシュンの言った事は別に間違ってないさ。散々えらそうな事言っておいてゲームでは足を引っ張り、まだ大人になりきっていない魔狼にすら負けて。そんなのが長をしている一族なんてじゃく――」


《バカ野朗!》


シュンの前足があたいの頬を張る。痛くはない、だけど懐かしい感覚がこみ上げてくる。

あたいが悪さをすればいつも集落の大人達がこうして頬を張り、大事な事を教えてくれた。


《一族を背負うっていうのは一度や二度負けたぐらいで放り出せるような簡単なことなのか? 俺は旅の途中で二つの種族が一族の命運を、誇りを賭けて戦うのを見てきた。たとえ相手が自分達より強く、強大でも最後まで戦い抜いていたぞ! リッジは一族のために、マリアのために最後まで戦う事ができないのか!?》


「ちっちがう、あたいは投げ出したりなんかしない!」


《だったら逃げるな! マリアとちゃんと向き合え。大丈夫だちゃんと分かり合える、怖くなっても後ろで俺が支えてやる》


じわりと胸の内から暖かい熱が凝り固まった物を溶かしていく。本気の拒絶をされてしまうのが怖くて仕方なかったのに、今はそんな不安が消えていくようだった。


「マリアとちゃんと向き合うよ」


《そうか!》


シュンが嬉しそうに笑いかける。ドクンと胸が高鳴る、頬に熱が広がっていくのが分かる。


「あっあのさ、シュンも一緒に来てくれないか?」


《ああ、勿論いいぜ》


「あっありがとう」


だっだめだ、シュンの顔をまともに見ることができねー。なんなんだこれは、あたいはもしかしてシュンのことを……

ブンブンと頭を振り気持ちを落ち着かせる。今はマリアとちゃんと話し合うことが先だ。そう気持ちを切り替えて、マリアたちが居るというテラスへと向かう。

隣にシュンがいてくれることを何故か嬉しく思いながら。

    

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