炎帝+氷結=バトルウォー②
『ゲーム開始から三十分が過ぎようとしています。ただいまの戦況は氷結の魔女、魔王レイファーがマジックストーンを七つ制圧し合計八つ、炎帝ガリウスが三つ制圧し合計四つという所です。ここから炎帝の逆転がなるのか、それとも魔王レイファーがあっさり勝負を決めてしまのでしょうか!おおっと炎帝がいるマス目に魔王レイファーのユニットが進入いたしました! バトル開始です!』
フィールド中央よりやや南西のマジックストーンがあるマス目で、炎帝が赤い顔を更に真っ赤に染めて怒り狂っていた。バトル開始からすでに五分以上時間が過ぎている。
「ええい、鬱陶しいこそこそ隠れずに出てこんかあああ!」
ガリウスの居るマス目に進入してきたのは、シャドーウォーカーが五体。一キロ四方の範囲に隠れる事が得意なシャドーウォーカーが逃げ回れば、めったな事では見つからない。
特にガリウスのチームは、攻撃重視の言い換えれば脳筋チームであり、探索などの戦闘補助系のスキルや魔法を持ち合わせていない。ただの時間稼ぎだが、有効な手段でもある。
「陛下、このままではただ時間を無為に過ごしてしまいます。陛下ならばこの状況直ぐにでも覆せるでしょう、我らを気にする必要などありません」
炎を撒き散らす騎士鎧を身につけた、炎の騎士、フレイムガーディアンがガリウスに進言する。他の三人の部下もそれに頷く。
部下の決意を読み取り、にやりと笑うガリウス。
「貴様ら……ならば耐えて見せよっ俺様の一撃を!」
ガリウスが呼気を整え、気合を迸らし全身を激しく燃え上がらせる。
「コオォォォォォォォ! ……カアアアァァァァァァァ!」
両の足に接触している地面がビシビシと音をたててひび割れていく、全身に力を溜め、筋肉が膨張し巨体が更に一回りも膨れ上がる。白い髪が激しく逆立ち顔を上げた瞬間、ガリウスは弾丸のような勢いで真上に飛んでいた。
『ああっとこれはー炎帝ガリウスの必殺技が炸裂するのかー、真上に飛び上がり全身から大量の魔力が撒き散らしているぞ!』
【メテオストライク】スキル発動
上空の雲を突き破った所で両手を大地に向け獲物を狙うかのように真下に落ちる。ガリウスが凄まじい速度で地面に激突する。キュンッという音が聞こえた瞬間、大地が弾け跳んだ!
地面と激突した衝撃が、閃光と爆音になり周囲に撒き散らされ膨れ上がる。巨大な爆発の花が咲き誇った。
全てを吹き飛ばすガリウスの必殺技【メテオストライク】その破壊に敵味方はなく、まさに隕石が落ちた後のように巨大なクレーターが出来上がっていた。
衝撃が収まった後、立っているのはガリウス一人。息はあるが瀕死の部下四名と、かなり強固な結界で保護されてなお半壊したマジックストーンがあるだけだった。
『あっあいかわらずの凄まじい破壊力です。見つけれないなら全て壊してしまえといわんばかりの力技で、シャドーウォーカー達をロストさせました!』
一瞬の静寂の後『ウオオオオオオオオオ!』という観客の歓声が上がる。スタンディングオベーション、これこそバトルウォーの醍醐味だとばかりに。
破壊の跡地でガリウスが思案する。
「ふむ・・・流石にこいつらを抱えて動けんな。リターンしてしもうたら向こうにポイントが入っちまう。しかたねえ、アポロスの奴を呼ぶか……召還!」
【ロード】召還
『おおっと、ここで真打登場か! 炎帝が次に召還したのは【ロード】です!』
【ミラージュ】カード執行
『ああっと、それに合わせる様に魔王レイファーもカードを執行した! ミラージュは五チームに自身の幻影を写すことで、相手を撹乱します。おそらく【ロード】召還で出てくるアポロス戦闘者を警戒しての事でしょう!』
◆ ◆ ◆ ◆
光る召還陣の中にアポロスを先頭にしてアポロスチームの面々が飛び込んでいく。
そして、そこに広がる景色は空中に浮いているマジックストーンと、それを中心とした巨大なクレーターだった。
《……なにこれ》
俺の呟きにアポロスが応える。
「親父の奴、【メテオストライク】を使いおったな? どうせかくれんぼが得意なモンスターに翻弄されたんやろ」
……これを個人で作ったんですか?
「おう、どら息子、わりい今めっさ不利」
がははははと笑いながら三メートルの巨人が手を振っている。
「わりいちゃうわ、このどあほ親父が! あれほど突っ込むないうたやろうが!!」
アポロスが目を剥いて怒鳴り散らす。
「んだよーだから謝ってるじゃねーか、細かい事いうやつはモテねーぞ?」
まるっきり悪びれない、いっそ清清しい。
「くっ、あかんこの駄目親父が……分かっとるんか? このあと親父はおかんとフレイアにこっぴどく怒られる運命やっちゅうのを」
その言葉にあわてて狼狽しだす炎帝。
「なっなに?ばっかお前それは……なっなんとかならねえか?」
「なるかいあほう、とにかく親父はここでどんどんユニットを召還しとけ。レイファーはわいが抑える」
面白くなさそうに舌打ちをする炎帝。
「ちっ、分かったよその代わりフレイアとシルヴィアに怒られたら助けろよ?」
呆れた様子でアポロスも応える。
「分かった分かった」
……え?これが魔王とその息子の会話?
俺が呆然としているとミザリーさんがこっそり俺に教えてくれる。
「陛下は極度の恐妻家なんです」
えー……
俺が微妙な気持ちで炎帝を眺めていると、アポロスが指示を出し始める。
「先ずは現状把握や、戦況はどうなっとる」
ミザリーさんが遠距離念話(遠話)で現在の状況を確認している。
「こちらが四、レイファーが八、ポイント三十二対八十八でレイファーはミラージュを使っています」
アポロスの顔が歪む。
「圧倒的に不利やないけ、くそっ、せめてレイファーの位置さえ分かれば……シュン、今こそその鼻を使うときや匂いでわからんか?」
無茶を言い出すアポロス、それだけ追い詰められているのか。
《無茶いうなよ、そもそもどんな匂いかも知らない上に【ミラージュ】って匂いや魔力も幻惑するんだろう?わかるわけ……ひぃぃぃっ》
いきなり物凄い殺気に当てられて体が硬直する。
ビクッと動いた俺を不審な目でみて、どないしたんや? と聞いてくる。
《いっいや、いきなり物凄い殺気のようなものが向けられて》
「殺気?」
《そっそう、まるでフレイアちゃんに殺されそうになった時のような殺気が……》
なにかが引っ掛かったのだろう、難しい顔をして考え出す。
「フレイアに似た殺気? ……向こうにフレイアと似たタイプの敵はおらんはずや……殺気……シュンにだけ分かる……あっ」
◆ ◆ ◆ ◆
---魔王レイファー
ガリウスの【メテオストライク】が遠くからでも爆音となり私の耳を打った。
凄まじい威力により、シャドウウォーカー達のユニットを全滅させられた。
しかし、それでいいのだ。あれで炎帝は動けなくなる。足手まといのせいで。
【ロード】召還
『おっと、ここで真打登場か!炎帝が次に召還したのは【ロード】です!」
アポロスの坊やを召還するのね。父親とちがって頭が回る分厄介だけど、もう遅いわ。形勢は覆らない……私を直接戦闘に引き釣り込まない限り。
【ミラージュ】カード執行
これでもう手の打ちようがない。ふふふ、これで私の勝ち。
遠視で炎帝達の様子を眺める。戦闘に特化しすぎた彼らに私を見つける術はない……あら? アポロスの坊やの肩にいるのは・……犬?それもヘルハウンドの子……犬!
その瞬間押さえきれない殺意が膨れ上がり犬に注いでしまった。
犬がビクつき私が居る方角に顔を向ける。しまった、だけどまだ見付かった訳ではない。
だが、次の一言で私の中の何かかが切れる音がした。
◆ ◆ ◆ ◆
アポロスが何かに思い至ったように呟く。
「あっ……垂れ魔おっぱい」
ギュンギュンと殺気が俺に注がれる!
《ひぃぃぃぃ》
それを見たアポロスの顔がにや~といたずらっ子のような顔つきに変わっていく。
「あっちの方角やな? レイファーがおるんは。どうせ何かの魔法でこちらのこと見とったんやろ」
【インビジブル】カード執行
『おおっと?いきなり魔王レイファーが【インビジブル】で姿を隠してしまったぞ?これでは自分がどの方角にいるか教えてしまった事にならないのでしょうか?』
ああ……やっぱりこの殺気は魔王の物だったのね……
「よっしゃーおる方角はわかったで、ミザリー、あの近くにおるユニットはおるか?」
ミザリーさんが遠話で確認する。
「ティガーの【ナイト】部隊が一番近くに居ます」
「ならそのままレイファーのおる方向に突っ込ませ!」
「了解」
フレイムタイガー、ランクCの五体で構成された【ナイト】部隊を魔王レイファーの居る方角に走らせる。
「よっし、わいらもいくで、こちらには高性能な探索犬がおるんやからな、わははははは」
《やっやめろっ何をする気だ!》
【第六感】がやめさせろと訴いかけてくる。
「すまんなシュン……せやけどこうするしか他に方法がないんやあきらめい。どこやー垂れ魔おっぱいのレイファー!」
大声でなんてことを言いやがる。
凄い、遠くに居るはずなのに物理的に叩きつけられたような殺気が俺に降り注ぐ。
《やめてーやーめーてーフラグがフラグが立っちゃう、死亡フラグが立っちゃうのおおおっ》
だがアポロスはやめない、勝負に勝つためというよりいたずらをするのが楽しいという顔つきで。
「だははははははっ、もうすでにフラグはたっとる諦めとき。どこやっ垂れ魔王おっぱい。どーこーでーすーかー、だははははははっ」
目じりに涙を溜め笑いながら廃墟をかなりのスピードで走るアポロス。ミザリーさん以外の二人はついて来るのがやっとだ。
ある程度まで走ったとき敵ユニットが同じマス目に進入してくる。
「はん、つまらん時間稼ぎや。探索、制圧に特化させたユニット群でわいの進軍を防げるかよっ」
現れたのはシャドーウォーカー五体、陰に隠れて時間稼ぎをするつもりだ。
「シュンよくみとき、これがわいの力や!」
そういうと右手を握り締め魔力を集め凝縮させる。
【始原の火】スキル発動
「おらっ」
小さな、ライターでつけたような大きさの青白い火が、かなりのスピードで影に隠れようとしているシャドーウォーカー達の真ん中に落ちる。
その瞬間、まるで咲き乱れる花のような炎が、膨れ上がり全てを巻き込み燃え上がった。
『ギャアアアアアア』
シャドーウォーカー達も近くにあった建物も、まるで生きているかのように、炎が全てを舐め尽くし灰となる。
《すごい……》
「どんどんいくでー、垂れ乳魔王レイファーはどこやあああああ! さあシュン、どっちや?」
ぎゃあああ、言ってるのはアポロスなのに全て俺のほうに殺気がくるのおおおっ。
俺はいそいで北西のほうを指す。
「北東やな?よしっいくでっ」
《やだああ、そっちいきたくないいいい!》
逆の方向を指したのにあっさりとばれる。
「かかかっ素早く方向を指しすぎや、いきたくないのがみえみえやで~」
《うおおおおおっもう逃げるしかない!》
俺はアポロスの肩を蹴り飛ばして逃げ出そうとする。
「逃がすなミザリー」
「了解です」
ミザリーさんの炎のムチが俺をぐるぐる巻きにして捕らえ引き寄せる。
《いーやー》
ぼふん。
ぼふん?……こっ……これはっ! ミザリーさんのけしからんおっぱいの、か・ん・しょ・く!
シュンは大人しくなった。
「わかりやすいやっちゃ……ミザリーそのまま抱えとき」
「?分かりました」
首を捻りつつ俺を抱えて走るミザリーさん。なに? このやわらかシート。
そのまま走っていると、また敵ユニットが同じマス目に進入してくる。
「はんっ、今度は親衛隊かい余裕がなくなってきとるで。【チェンジ】ユニット、ディガー」
アポロスが【チェンジ】のカードを使いディガーチームのユニットと居場所を変わる。
レイファーがいる場所まであと少し。
「これでレイファーまでの障害はゼロやっ、でてこいやっ垂れすぎたおっぱい魔王レイファー!」
その瞬間、空気を震わすほどの殺気、流石にあと少しの場所まで来ているのでアポロスにも位置が分かったようだ。
「そこにおるんかレイファー、お前ら覚悟決め、いくで!」
「「「了解!」」」《いーやーだーーー》
アポロス達が魔王レイファーのいるマス目に進入を果たした!
『ついに来ましたっ、氷結の魔女レイファー対炎の貴公子アポロスの対決だー! 超上級者同士の戦闘がついに、ついに始まろうとしています!』
ああ……皆……さようならー。
レイファー様の殺意が注がれる主人公。
彼の毛がハラハラと抜けていく……




