行き倒れ+本=腹黒
エスプレッソ山脈。
東ユーラン大陸の北の果てに連なる険しい山脈。
俺とマナナは氷精霊達の案内もあり二日で下山する事ができた。
《や~と山を降りれたー》
うーんと四つ足をつっぱり伸びをする。
「またこようね~」
少しずれた事をいうマナナはボロボロのワンピース姿ではなく、氷精霊達と同じ形の服を着ている。
青色のドレスタイプのワンピースに鹿の革でつくったブーツ。シンプルな作りがマナナののんびりとした雰囲気に良く似合っていた。
《しかし……まさか北の端にまで飛ばされてたとは……テレポートの魔方陣恐るべし》
「わんちゃん、これからどうするの~?」
《勿論ポルトランに帰るさ、マナナも一緒にくるだろう?》
マナナが嬉しそうに笑う。
「えへへ、わんちゃんと一緒に行くね~」
北の果てのエスプレッソ山脈から、南の下の方に位置するポルトランまで人族の足で三ヵ月半掛るらしい。
とは言え、子供と言ってもスノードッグのスピードと疲れ知らずのゾンビパワーなら二ヶ月でいけるみたいだ。
だけどそれじゃ俺の進化に間に合わない。そこでクルタクルの沼、別名土龍の沼を行くことにした。
その沼にはたくさんのモンスターがいて、さらに真っ直ぐ突き進めば日程を十日も短縮できるようだ。
ただ……クルタクルの沼には別名にもなっている土竜が実際に存在している。現れるのはめったにないらしいがゼロでもない。
出会わないように願いながらクルタクルの沼に向かって俺とマナナは歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
二日かけてクルタクル沼に差し掛かったとき、道のど真ん中に行き倒れの、背中に白い翼のような物をつけた少女らしき物体が落ちていた。
《………》
スキル【第六感】がギュンギュン警報を鳴らしている。これを無視した時ろくな目にあっていない。
俺は道の端により、無視することに決めたのだが……
「わんちゃんわんちゃん、たいへんだよ~、女の子が倒れてるよ~」
マナナがなんの警戒もなく行き倒れに近づいていく。
「ぅ……ぅぅぅ」
生きているみたいだ、くそー【第六感】が警報を鳴らしても回避できなきゃ意味ないなー。
《おーい、だいじょうぶかー》
少女に近づき前足で頭をぺしぺし叩く。すると案の定少女はがばっと起き上がり襲ってきた。
「肉っ、蛋白質!いただきますっ!」
かなり元気だよなっ!
しかし俺だって学習しないわけじゃない。こういうこともあろうかと身構えていたのだ!
《毎回毎回、餌になってたまるか!》
俺は少女の攻撃を予測して後ろに跳びずさる。だが少女は俺の予想をはるかに上回る運動能力を発揮する!
両膝を曲げ体勢を落とし、左手を地面につけ右手は五指を広げ顔を覆う。指の隙間から見える目は底光りし、口からは涎が滴り落ちている。恐ろしく怖い……
ある意味リサで鍛えて居なかったら気絶していたかもしれない。
「ひゅぅぅぅぅぅぅぅ」
口から空気の漏れる音をだし、左右にフェイントを入れながら襲い掛かってくる!
俺は右にステップを踏み避けたつもりだった、だがすでに右後ろ足を掴まれていた後だった。
《んなっはっ速い! やばい、マナナヘルプっヘルプ》
「いただきまーす」
俺の尻にかじりつく化け物(少女)。
「わっわんちゃんはマナナが食べるの~だからたべちゃだめ~」
おまえも食べたら駄目だよ!
マナナのゾンビパンチが化け物(少女)の頭にヒットする! 殴られた衝撃で加えられる力、ガチンと少女の上の歯としたの歯がぶつかる音が響く!
《アッーーーーー》
尻の肉をかじり取られました。
◆ ◆ ◆ ◆
「わんちゃんわんちゃん、だいじょうぶ~?」
俺を心配そうにして抱きつくマナナ、でも君のせいでもあるんだよ?
くっちゃくっちゃくっちゃっ、ぺっ、べちゃ。
俺の尻を租借したあと吐き出す少女。
「生は不味いですね」
《ふざけるなああああ! かじられた上に不味い扱いされる身にもなれやああ!!》
まったく聞く耳を持たない少女の目が、ギラリと光る。
「次は焼きます!」
《もういやああああ、何で俺には捕食者ばっかりよってくるのおおおお!》
地面を何度も何度も叩いて嘆く俺。
「だっだめー、わんちゃんをたべちゃだめ!」
マナナが珍しく強い調子で言い放つ。そしてまるで守るように俺をきつく抱きしめてきた。
「わんちゃんはマナナが守るー」
ギチギチギチギチ
《ちょっ、まってマナナ、痛い痛い痛い、内臓が口からはみ出る!》
「ん~~~~~!!」
しかし俺の思念が届かないのかまったく力を抜く気配がない。
《やっやめ、まじで死……》
ギチギチギチギチゴキッ
《ぎゃああああああああああ!!》
鳴ってはならない音が俺の背骨から聞こえたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「ふむ……見事に背骨が外れていますね」くちゃくちゃくちゃ
今俺は行き倒れ少女に診察して貰っている。御代は精霊達から貰った干し肉全てだ。
少女の名前はミカエラ・ハレルラ、有翼人族の医療術士なのだという。
急ぎの旅をしていてクルタクルの沼に入ったのだが、土竜に襲われて一緒に移動していたキャラバンは壊滅。ミカエラも馬車から放り投げられて逆に助かったのだが、食べる物もなくここで行き倒れていたのだという。
髪は見事なブロンド、瞳は青く顔は幼いが良く整っている。スタイルもメリハリが利いていて、百六十センチぐらいか?もう少し身長があればモデルでも通用しそうだ。
服は白のカッターシャツぽい物に赤いネクタイ、黒のフレアスカートに黒いニーソックス。革のブーツを履いていて頭には青色のベレー帽を被っている。
全体的に汚れてしまっているが、かなりの美少女だ。
だけどやさぐれた感じの雰囲気が全てを台無しにしていた。残念美少女だった。
「では、治療を開始します」
ミカエラはそういって俺の両足を左手でまとめて掴むと背中に右手を置いて一気に押し込んだ!
ゴキッ!!
ギャワン!悲鳴が漏れる。
《もっもうちょっと優しくできなかったのか?》
「贅沢ですね、直して貰えるだけありがたいと思ってください」
《原因の元はお前だ!》
「くくくくっしかし、私が居なければなおりませんね?」
《なに言ってんの!? この悪徳医師は!》
「私はこれで帰ってもいいのですよ?干し肉は全て食べ終わりましたし」
《報酬分は働けやぁぁぁ!》
仕方ありませんね、なんていいやがる……
「背骨はきちんと嵌りましたが、周りの神経が傷ついてますね。神経はなかなか治りませんから、これで貴方も腰痛持ちの仲間入りです。くくくっ」
《こっこの歳で腰痛持ちって……》
さめざめと泣く俺、しょんぼりしているマナナ。
「ふぅ……これから一緒に旅をする非常しょ……犬が腰痛持ちや暗くしょんぼりしていたら気が滅入りますね」
まて、なにか聞き捨てならんことを言ってないか?
《今非常食って言いかけなかったか?それに誰がお前と一緒に行くと行った?》
美少女でもこれはパスだ、チェンジを所望する。
「しかし、私を連れて行くとお得ですよ?医術だけではなく、なんと回復魔法すら使える回復系万能美少女ミカエラちゃんなのです」
自分で美少女言うな!
それにしても回復魔法なんてあったんだ?この世界。
《本当に?回復魔法なんて使えるのか?》
「ええ、使えますとも。回復魔法を使えば傷ついた神経すら癒す事ができるでしょうね。骨ははまりませんが」
そういって此方をちらりと見る。
《くっ、背に腹はかえられない。このじくじくする痛みを直してくれ》
「くくくくっ、そしてまた一人悪魔に魂を売り渡すのだった」
《自分で言うんじゃねえっ!》
ごそごそと、旅行袋から一冊の本を取り出す。
《それは?》
「これは回復魔法を使用する為の触媒ですね。この世界には神は入ってこれないのでこの本が必要なのです」
《神様って入ってこれないんだ?》
「ええ」この世界にはね……
「では、いきます」
『おおっ全能などといいつつこの世界に弾き飛ばされた無能なる神よ、せめて我ら子羊に癒しの力を渡す努力ぐらいしなさい。エイメン』
《思い切り神様馬鹿にしてね!?》
本が神々しい光を放ちだす。
《さっきのでいいのかよ神様はっ!》
「マゾですから」
いや過ぎるよそんな神様!
【ヒールアタック】
あれ?なんかおかしくない?なんでアタック……
「破っ!」
ミカエラは大きく本を上に上げ、俺の背中めがけて打ち降ろした。
硬いものが肉を打つ音が俺の腰から聞こえてくる。
《げふっ!》
本は狙い違わず俺の傷ついた腰に落とされた。
「ふぅ……いい仕事をしました」
なんていいながら額の汗をぬぐう振りをする。
《してねーよっ、何で怪我した所を殴られなきゃいけないんだよ!》
「くくくくっ、しかし怪我は治しましたよ?」
あれ?確かにじくじくした痛みがない。けど変わりにすごい打撲痛がするんですが……
「まあ、打撲なんて2~3日で直るのですからいいではないですか」
どこか釈然としないんだが、しかし怪我が治ったのは事実。
《まあいいか……ここで何時までも言い合っててもしょうがないし行こうか》
俺がそういうとマナナが泣きそうな顔で聞いてきた。
「わんちゃん、直ったの?」
《ああ、もう大丈夫だ、だからもう気にするな》
「わんちゃんっ、よかった~~」
そういって抱きついてくるマナナ。
ギリギリギリギリ
《ちょーっ直ったばっかりなの、勘弁してくださいー!!》
◆ ◆ ◆ ◆
暫く沼地を歩いているとミカエラが何か気づいたように話しかけてくる。
「所で、クルタクル沼の別名にもなった土龍の正体は、実は大沼蛇の変異体だというのは知ってますか?」
《え?そうなの?》
「はい、クルタクル沼の深い場所は底が二十メートルとも三十メートルとも言われています。そしてクルタクル沼の主、土龍は全長二十メートルもあるとか……」
《確かにそんな奴に襲われたら一巻の終わりだな、気をつけないとな》
俺のその言葉に何故か哀れみの眼差しを向けてミカエラが言う。
「そして、大沼蛇の生態の一つに沼の中で獲物が近づくのを待って、襲うというものがあります」
沼から空気の泡が弾けている。
【第六感】が激しく警報を鳴らしだす。
ズズズズズズ
沼が……だんだんと盛り上がっていく!!
「くくくっがんばってください」
バサッ、飛び立つミカエラ。
ザバアアアアアアアアアアアアアア
泥しぶきを上げ巨大な蛇の顔が現れる!
俺の目の前には、鎌首を上げただけで優に六から七メートルはある大きな蛇が舌をちろちろと出し入れしていた。
シューシュシューー
《ちょっ、これやばすぎる……》
俺はあまりの事に呆然となって頭が旨く働かない。
「なにやってんだシュン、逃げるぞ!」
髪が赤くなったリサに首根っこを掴まれてようやく頭が回りだした。
シャアァァァァァァァァァァ
ズズズズズズズズズズズドッバアアアアアアン!!
沼が爆発したかのように巨大蛇の加重で泥しぶきが上がる。
巨大蛇が俺たちを追いかけてきた!
「ぬりゃああああああああああああ」
必死な表情で走るリサ、ミカエラは……上に居たあの野朗……
俺はリサに運ばれながらファイヤーを連発する。
巨大蛇からしたら俺のファイヤーはまるで火花のような物だ。五つの火の玉はぶつかる端から弾き飛ばされる。
シャアアァァァァァァァァ!
怒らせただけでまったく効いていない!
そこらにある岩なんて目もくれない、破壊し撒き散らして追いかけてくる!
その後巨大蛇が諦めるまで3時間ほど逃げ回り。沼の入り口まで戻る羽目になった。
翼を羽ばたかせながら近くに下りてくるミカエラ。
「くくくっ大変でしたね? お疲れ様です」
《裏切り者!》
「いえいえ私も気づいたのは直前でしたし、あれはもう逃げるしかありませんので。所でマナナさんですか?」
今はリサになっていて髪の色や雰囲気が大分違う、二重人格なんてどう説明したらいいのか……
「いや今はリサだ、黒髪がマナナ、赤い髪がリサって覚えてくれ」
「分かりました、リサさん宜しくお願いします」
……まあいいや、それより問題はあの蛇だ。
《それにしても土龍は、めったに現れないんじゃなかったのか?》
「そうですね、ただ、何十年に一度の頻度で活動期なるものがあったと記憶してますよ」
まじか……俺ってどれだけ運がないんだ?
《それにしても詳しいんだな》
「ええ、少し調べる必要が有りまして昔の文献などを少々漁りました」
あれ?急ぎの旅だからクルタクル沼に入ったって言ってなかったかな、それ以前に調べたのか?
少し引っ掛かったのでその所を聞こうとした時、沼からぼこぼこという音と共に鳴き声が聞こえてきた。
ゲロゲロ、ゲロゲロゲロッ、ケロケロッ、ゲロゲロゲロ。
沼の中からフロッグマンが現れる。
「おや?囲まれてしまいましたね」
俺たちはいつの間にか、フロッグマンの集団に囲まれていたのだった。
リッジには犬鍋にされ、マナナは油断すると噛み付かれる。
そしてまた一人捕食者が主人公の前に現れるのであった。
主人公に平穏は訪れるのか!




