簡易魔方陣+ピンチ=恐怖
≪今代の女王よ、魔方陣の修復には莫大な魔力を必要とします。今残っている魔力を全て、小さき者に託さなければいけません≫
「マザースノー、それではこの洞窟の結界は……」
≪ええ、維持できないでしょう。しかし魔方陣の欠損は致命的な所まで来ていました。もってあと一年早ければ半年で私は消滅するでしょう≫
ざわ……
だっ大丈夫なのか?そんな事ここでいっちまって。パニックになったりとかしないのか?
「そうなればここぞとばかりに、ワーボアに蹂躙されてしまいます」
一時ざわめいたけど、誰一人としてパニックになっていない。おそらくずっと覚悟はしていたんだろう。
≪小さき者が今ここに居る。この巡り合わせに全てを託しなさい、愛しい子供たちよ≫
『マザースノーのお心のままに』
≪小さき物よ、何も関係のない貴方に全てを託す我らを許してください。そして、我らに手を貸してもらえませんか?≫
絶対この人策士だよ、こんな雰囲気の中断れるわけないじゃん。それに……
《俺なんかでよかったら手伝わせて下さい》
魔方陣の知識、今俺が一番ほしい物が手に入る。だったらやるしかない。
≪小さき者よ、貴方の名前を教えて貰えませんか?≫
《シュン、シュン・ハットリです》
≪シュンよ、貴方の魂に知識を刻みます。いいですね?≫
《はいっ》
俺の返事と共に、巨大水晶が光り輝く!
一本の光が俺を包み込み、そして、激しい痛みが俺を蹂躙した。
《いだっいだだだだっごっごれぎづい、いだだあああああ……》
痛すぎて最後は声にならない、どッたんばったん暴れる事10分、光が収まった時俺は色んな所から汁を撒き散らし意識を失っていた。
ぴくぴくと痙攣する汁まみれの物体。
「まっマザースノー、シュンはその、無事なのですか?」
≪……ギリギリ死んでません≫
「……ギリギリ死にかけたのですね」
≪そうともいいますね……≫
動けないはずなのに器用に目を逸らすマザースノー。
『『『『『……』』』』』
≪さあ貴方達、時間はありません。おそらくワーボア達はこの機会を狙ってくるでしょう。私の守護はもう与える事ができません。次がワーボア達との最後の戦いになります≫
氷精霊達の顔が引き締まる。
「皆聞きましたね?次の戦いを切り抜けさえすれば、我らの勝利です。魔方陣が修復され、昔の平和が戻ってくるでしょう」
皆の覚悟が定まる。
「最後の戦にします。皆用意をしなさい、我ら一族の未来のために!」
『『『『『我ら一族の未来のために!』』』』』
女王の誓言と共に慌ただしく動き出す精霊たち。
≪シュン、あとは貴方しだいです。願わくば愛しい子供達に幸あらんことを≫
◆ ◆ ◆ ◆
「頭ぁぁぁ、確かに精霊どもの結界が消えてますぜ!」
「げあっはっはぁぁぁ、まじかぁ、まさかあのうっとおしい結界が無くなってるなんてな」
一際大きく体中傷だらけのワーボアが、部下の報告を聞いて口元をにやけさせる。
「てめーらっ、今日で精霊どもを一匹残らず捕まえるぞ。抵抗する奴はぶち殺せっ」
『オオオオオオオッッッ』
◆ ◆ ◆ ◆
「女王様!奴らが、猪達が来ました」
ワーボア達が部隊を三つに分けて進軍してくる。
「予想よりも早かったですね……皆、聞きましたね?」
広場に集まった妹達を見回す。
「今から我らは防衛戦に出ます。マザースノーさえ無事ならば我らは滅びません! 全ての身命を賭して戦います! 防衛体制に付きなさい!」
『はいっ』
頼みますよシュン……
◆ ◆ ◆ ◆
……ここは……
起き上がろうとした時、体の中から嫌な音と痛みが広がる。
《いだだだだだ、体が痛い》
騒ぐ俺にマザースノーが声をかける。
≪起きましたか、シュン≫
《マザースノー……あれだけ痛いならせめて教えてください》
≪知らないほうがいい事なんていっぱい在りますよ?≫
いい性格してるよな!
≪シュン、あまり時間がありません。早速魔方陣の修復をお願いできますか?≫
《任せてください……ええっとこことここがこうなってるから……大体64万文字か……64万!》
ええっと、1秒30文字だから大体……6時間……
≪お願いしますね≫
《はっはい……》
肉体の拷問の次は精神の拷問……これって何の罰ゲーム?
巨大クリスタルが光り、また光の線が俺を包む。
ビクビクしながら痛くない事に安堵し、そして俺は魔方陣修復に掛りだした。
◆ ◆ ◆ ◆
『ワーボア左翼突出してきます!』
「魔弓隊で足止めをして雪球を転がし落としなさい!」
『正面、氷雪盾隊の陣形が崩されそうです!』
「予備戦力を援護に回しなさい、私は右翼を狙い打ちます!」
次々に不利な報告が上がってくる。せめて右翼は足止めしなくては。
ウオオオォォォォ!!
ワーボア達の雄たけびが響く。
一人、また一人精霊たちが消滅していく。
「やはり、氷精霊族だけでは前線を耐えることは難しいですね……」
悔しさで唇を噛み切り血雪を赤く染める。
氷精霊は中遠距離を得意レンジとする種族であり、その距離を潰された後は押し込まれる一方だった。
『まだっまだ魔方陣は修復できないのでしょうか』
「泣き言を言ってはいけません! 修復は確実にされます。あとは時間さえ稼げば我らの勝ちなのです!」
そう、時間さえ稼げれば勝てる戦なのだ。終わりが見えるのなら耐えれます。
◆ ◆ ◆ ◆
《くそっやっと半分なのに、頭がクラクラしてきた……》
≪シュン、焦ってはいけません≫
《だけど、早くしないと皆が》
≪シュン、貴方の魂は不思議な揺らぎをしています。おそらく外の世界から来たのでしょう。その世界がどういった世界かは分かりません。しかし、この世界の摂理は弱肉強食なのです、社会は作られていても我らの本質は食うか食われるかなのです≫
分かってたつもりだった……でも。
≪シュン、我らを本当に救いたいと思ってくれるのなら、焦らず確実にいきましょう≫
《はい……分かりました》
今は自分のできる事をするしかない、俺は残り半分の修復に取り掛かる。
◆ ◆ ◆ ◆
『魔弓隊全滅しました!』
敵左翼を押さえ込んでいた魔弓隊の全滅。
『氷雪盾隊壊滅状態です!』
正面の本体が押し寄せてきて防ぎきれなかった。
『第3塹壕も制圧されました!』
もうこの場所を死守する事ができません。
「くっ……仕方ありません、洞窟の入り口まで戦線を退きます」
もう……持ちませんね……
残りはわずか四十名。ワーボア達は二百といった所でしょうか。
――洞窟前最終防衛ライン。
「皆聞きなさい、あと少しで魔方陣の修復は終わります。我ら一族の未来にかけて!ここを死守します!」
『『『『『はいっ!!』』』』』
残り1時間……無理だとしてもやるしかありません!
ウオオオオオォォォォォ
ワーボア達が迫ってきます、あと五十メートル、三十メートル、十メートル!
魔弓の矢をものともせず残り十メートという至近距離まで接近を許す。
しかし、そのとき結界が復活した! ばかなあと一時間は掛るはずなのに。
洞窟の奥から小さく軽快な足音が聞こえてくる・・・これは。
《またせたっ》
「シュン……どうして結界が?」
そこには結界の修復をしていたはずの子犬がここに来ていた。
《修復なら終わった、最低限の結界を維持出切る程度だけどな》
◆ ◆ ◆ ◆
≪シュン、どうやら我らこのままでは猪どもに負けてしまうようです≫
《そんなっ》
≪なので一つお願いが在ります≫
《お願い》
≪はい、今から簡易結界を張ります、一時間ほどなら今の魔力でも持ちます。そしてシュンには皆の援護をお願いしたいのです≫
《援護ですか?》
≪はい、貴方に私の結界の中にいる限り魔力を供給します。貴方のルーンマジックは大きな可能性を持っています。魔力の量しだいではいろいろな事ができるでしょう≫
俺に刻み込まれた魔方陣の知識はほんの一部だ魂のランクが低くて全ては刻み込めなかった。だけどその一部でもかなり幅広い事ができる。
≪子供たちを助けに行ってもらえますか?≫
《任せてください》
≪任せます、シュン、貴方に世界の恵みがありますように≫
そして俺は走り出す!
◆ ◆ ◆ ◆
猪達の部隊めがけて小ささを生かし突っ込む。【ステップ】&【ジャンプ】で敵のど真ん中に飛び込んだ。
【簡易魔方陣発動】一つ作るのに十秒、走りながら作り敵のど真ん中で発動させ素早く退避する。
【アイスランス・レイン】約三百文字を使い発動する簡易魔方陣、魔法の槍が雨のように降り注ぐ!
数十本の氷の槍がワーボア達を切り刻み、貫き刺し絶命させる。
『ギャアアアアッ』『なっ何だこれはっ』『たすけ、ガァァァァ』
二十体以上のワーボアが逃げる事すらできずに無残な死体を晒して行く。
俺はそのまま味方陣地にで逃げ込む。いきなりの奇襲に敵の足が止まったところで、更に二十秒かけて別の簡易魔方陣を作る。
【アイスウォール・フォルトレス】
雪原から出てくる氷の壁はまるで要塞を築くかのように、洞窟の周りを囲い鉄壁の防御陣を敷く。
二つとも大量の魔力と氷雪フィールドでしか使えない魔法だ、だがこれほど強力な魔法も早々ない。
氷精霊達は、最初驚きはしたものの、ここぞとばかりに魔弓を作り出し、壁に身を隠して撃ちまくる。
ワーボア達は流石に突撃する事もできずに戦線は膠着してしまった。
暫くそのまま時間が過ぎた。結界が持つのはあと三十分ほどか。
俺は意を決して突撃しようかと思ったとき、ワーボアのリーダーが此方に提案をしてきた。
「俺はボア一族の誇りある長、ギンガスだ! そちらの代表と一対一の決闘を申し込む! 白い姿の悪魔よっでて来い!」
どうやら俺の簡易魔方陣が相当堪えたらしい、一対一で此方を仕留める気だ。
「いく必要はありません、このままでも勝てます」
王女はそう言うが……
《じつは、結界は完全じゃないんだ。あと三十分で効果がなくなるらしい》
「……それでは私が行きます」
《それじゃあいつらは納得しない、大丈夫、今の俺はマザースノーからかなりの魔力を借りれる。結界が発動している今だから勝てるんだ》
少し迷ったが直ぐに分かって貰えたようだ。
「……分かりました、シュン、どうか無事で」
俺はゆっくりとギンガスの前に歩いていく。
「こんな子犬に俺たちが……」
《子犬だからって馬鹿にするなよ、結構強いんだぜ?》
「そうだな……だが俺たちの勝ちだ! 馬鹿が」
やっぱり罠! そう思って跳びずさろうとしたが体が動かない……なぜ?
「がっはっはっはっ、俺たちボア一族に伝わる痺れ粉末だ、効果があるだろう? 勿論俺様は解毒剤を飲んでいるがな!」
変な匂いがするとは思ったが、ワーボア達の匂いだろうと思いそこまで頭が回らなかった。
《ひっ卑怯すぎる……》
「ふんっ、生意気に一対一に応じるからこうなる。世の中は卑怯者が勝つようにできているんだよ!」
こっ殺される……こんなとこでこんな奴に!
ギンガスが槍を振り下ろそうとした時……あれはやって来た……
ボコッという音と共に一本の手が雪から生える、それはギンガスの足を掴み這いずりでて来た。
『アアアアアアッアッアア、ミイイイヅウウウゲダアアアア! シュゥゥゥゥゥゥンンンンンン! アアアアアアアアアアアアアアア!!』
真っ赤な髪を貞子のようにし、雪によってずぶ濡れになった白いボロボロのワンピースを着た、瞳に狂気を宿したゾンビが現れた!
《「ぎゃああああああああああ!」》
俺とギンガスの悲鳴がハモル! それほど恐ろしい登場の仕方だった!
ギンガスが必死になって槍を貞子に振り下ろす、だがいくら顔面を砕いても直ぐに修復してしまう。
正にギンガスにとっては悪夢だっただろう、どんな攻撃を受けても笑うのだ、ニタリと……
「ひゃあああああああああ」
足を引っ張られ引きずり倒されたギンガスは、涙を流しながら必死になって逃げようともがく。すでにボア一族の誇りとやらは何処かへ跳んで行ったようだ。他のワーボア達もあまりの恐怖に動けない。
「ひゃああああはっはっー、死ねや糞猪!!」
ビタンッビタンッビタンッビタンッ!
ギンガスを振り上げては叩き落す、振り上げては叩き落す。
何度も何度も雪の上に叩き付けられ雪が固まり、そこに血がこびりつく……
こっ怖すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅ!
5分ほど叩きつけていたか……どうやら満足したようでギンガスの死体をぽいっと放り投げる。
そして此方に振り向きボソリと呟いた。
「シュン……お前はあとでお仕置きな」
体が麻痺して逃げれないっ!
《ほんとすいませんでしたぁぁぁ! 不可抗力だったんです! 許してくださぃぃぃぃ!》
こちらに近づいてくるリサの瞳は、絶望する俺の顔を映し出していた。
長が死に、恐ろしい悪魔の登場によってワーボア一族は戦意を喪失し。契約により氷精霊の使役一族として今後仕えると制約を課せられたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
マザースノー。彼女はまた巨大結晶の中に意識を消した。これからも子供を産み、この地を守護していくのだろう。
最後に銀色の鉱石みたいな物を貰った、いつか必ず役に立つといわれて。
「本当にもういくのですか?シュン」
氷精霊達が旅立つ俺たちを見送ってくれる。
《ああ、俺にはやる事があるんだ、だから行くよ》
「そうですか、貴方のおかげで我ら一族は生き残れました。いつかこの恩はお返しします」
《そこまで気にしなくてもいいんだけどな、それじゃ行こうマナナ》
「は~い」
『『『『さようなら!』』』』
手を振る精霊達に尻尾を振る事で応えながら歩き出す
リミットまであと二ヶ月と十日、ここからエポルトの街ま約二ヶ月。
かなりギリギリだがやり遂げてみせる!
そして俺たちは最短距離を行くために、クルタクルの沼、別名土龍の沼に向かうのだった。
制約が大きく簡単には使えませんが、強力な魔法を覚えれました。
主人公はじりじりと少しずつ強くなります、応援してやってください。
折檻は壮絶を極め2日ほど動けませんでした。
南無~




