スノーマザー+ペン習字=可能性
……暖かい、ここは……どこだ?
薄っすらと目を開くと、そこには水着姿の少女達が取り囲んでいた。
『あっ目が開いたよ』『うそっ、見せて見せて』『うわーかわいいー』
いえ貴方達のほうが可愛いですよ。ああ……俺死んだんだな、でもそれもいいかもなにこの天国、パラダイス?
髪と瞳が青く、雪のように白い肌をした少女達がおそろいの青いビキニ姿で俺のことを囲んでいるんだ。
「子犬が目を覚ましましたか?」
『女王様』
「はい。今丁度目が開いた所です」
「そうですか、それならばもう安心でしょう。しかし、この部屋は暑いですね」
「仕方ありません。スノードッグの子供といっても寒さに耐性があるだけですから、私たちと一緒にしては凍え死んでしまいます」
「そういうものですか」
女王?それに凍え死ぬって、俺はもう死んでいるんじゃないのか?
《ここは天国じゃないのか?》
『あれ?、今誰が言ったの?』『私じゃないわよ』『えっ?……今子犬が喋った?』
《そうそう、俺が喋ってる。それで、ここって天国じゃないの?俺って生きてる?》
『じょっ女王様!子犬が喋っています!』
「見れば分かります、貴方達は下がっていなさい」
額に指を添え、ため息を吐きながら少女達を下がらせる。
「子犬よ、貴方は言葉を理解し伝える事ができるのですね?」
《はっはい、そうです。あのーそれでここは何処なんでしょう、俺って生きてるんですよね?》
「ここは私たち氷の精霊が生まれる場所の一つエスプレッソ山脈の氷結洞窟です。雪崩に巻き込まれた貴方を、雪から掘り起こしここに連れてきました」
雪に埋まっていた所を助けてくれたのか。
おっと、まだ自己紹介もしてなかった。
《助けてくれて有難う、俺シュン・ハットリといいます》
「シュンですか、私のことはティセアと呼びなさい」
精霊にも名前はちゃんとあるんだな。あれ?そういえばマナナの姿が見えない。
《あのーティセア様、俺と一緒に居た人族の少女を知りませんか?》
俺がそう尋ねるとティセア様は痛ましそうな顔をして言う。
「残念ですがあの場での生命反応はシュン一つしかありませんでした。私としても恩人である人族の者を助けたかったのですが。貴方の主人を助けれなかった私たちをどうか許してください」
そう言って頭を下げるティセア。
《あっ頭を上げてください、それに生命反応がないのは当然なんです。だってマナナ……人族の少女はゾンビなんですから》
「……は?」
今までの威厳のある態度とぽかんとした顔にギャップがありすぎてつい笑ってしまいそうになった。
◆ ◆ ◆ ◆
「つまり、あの人族の少女は意思あるゾンビであり、魔法を使って猪の不意を撃ったのはシュンであると?」
《そうそう、そういう事》
あれから少し俺たちのことを説明した。敬語は要らないということで口調は普通に戻している。
「世の中には不思議な事があるものですね……それではマナナでしたか?その少女の探索を命じましょう」
《有難う、俺じゃあの雪の中を探すだなんて無理だったよ》
「かまいません、それとシュン、貴方が魔法を使えるのなら一つ頼みたい事が在るのですが」
《頼み?》
「ええ、実は少々困った事がありまして、魔法の知識がある物が欲しかったのです」
《困った事?》
「はい、少し移動しながら話しましょう、動けますか?」
少し体を動かしてみる、多少鈍い痛みはするがどうってことはない。
《いけるよ》
「ならば外にでましょう、貴方には少し寒いでしょうが我慢してください」
そういって外に出て行くのでついていく。部屋の外はかなり寒かった。
「ふぅ……」
熱源の間ってのは氷の精霊には暑かったんだろう、外にでて直ぐにティセアは氷で作ったドレスを身に纏う。
むう……露出度が60%減だ……
部屋をでるとそこは氷で覆い尽くされた洞窟のような通路だった。赤や紫、青や黄色、色彩豊かな水晶が光を放ち通路を幻想的な光で照らしている。
「貴方にお願いしたいのは、この奥にある氷雪の間の魔方陣の修復ができないか見てもらいたいのです」
長い通路の一番奥を指差す。
《魔方陣?ちょっと待ってくれ、俺はそこまで魔法に詳しくないぞ》
「そうなのですか……しかしここまできたのです一度見てもらえますか?」
残念そうに呟き、しかし諦めきれずに奥の部屋へと入っていく。
そこは洞窟の中とは思えないほど広く天井の高い部屋だった。周りには子供の氷精霊とその世話をしている氷精霊の少女達がいて、そしてその部屋の真ん中に十mはありそうな氷の結晶が、光り輝く魔方陣の中に立っていた。
《でかい……》
圧倒的な大きさと神聖な雰囲気がこの氷の結晶を神々しく見せている。
《あれ?中に……人!?》
結晶の中には青い髪の少女が閉じ込められていた。
「彼女は我ら氷の精霊の始祖の一人、マザースノー。ここに居る氷の精霊全ての母になります」
《死んでいるのか?》
「ある意味ではそうかもしれません、彼女は自ら魔方陣を敷き結晶となることで、我ら氷の精霊を産み増やす事を選んだのです」
ティセアの説明を聞いている最中に、結晶の中から青い光が産まれ外にでてくる。
《あれは……精霊が生まれた……》
「ええ、母はこのエスプレッソ山脈の微量にでる魔力を集め、我らを産み育んでくれています。ですが……母の作り出した魔方陣も長きに渡り少しずつ欠損が生じてきました。今まではそれでも問題は無かったのですが……」
《何か問題が起こったのか?》
「子供たちの生まれる数が確実に減りだしてきました。外の結界も薄まり、ワーボア達との争いも我らが押され気味になってきたのです。このままではいずれ我らは負け、奴らの奴隷にされるか滅ぼされるでしょう」
《あいつら……そんな事を考えていたのか》
考えなしに攻撃したけど結果オーライだったな。
「奴らにしたら、母を抑えれば勝手に奴隷が増えるという考えなのでしょう」
《なんだそれ、そんな勝手な理屈があっていいかよ!》
「そうですね、しかしそれがこの世の常です。シュンは少し変わっていますね」
そういっていくつしむ目で俺を見る。少し恥かしくなったので話題を変えてみる。
《俺に何ができるって訳じゃないけど、魔方陣を見てもいいか?》
「かまいません」
そういってティセアが結晶に向けて歩き出す。俺もその後に続いた。
近くで見ると一段と迫力があるな、大きいというのはそれだけで畏怖の対象になりえる。
魔方陣を見てみたがやっぱり訳が分からなかった。ところどころかけているのが見れるが、俺が手を出してしまったらめちゃくちゃになりそうで怖い。
《やっぱり俺じゃ何の役にも立てそうにないよ》
残念そうに、しかし此方を気遣って無理に笑顔を作る。
「そうですか、気にしないでください。永遠に存在できる物などないのですから」
くそっ、困ってる人(精霊)がいるのになんの役にも立てないなんて……悔しい。その考えを読み取ったかのように頭に直接声が響く。
≪そうでも在りません≫
《なっなんだ?声が急に聞こえたぞ》
ティセアが驚愕の表情で呟く。
「まっまさか……マザースノー?」
どうやら俺だけでなくティセアにも聞こえたらしい。いや、それどころかこの部屋で精霊の子供たちを世話していたほかの精霊たちも動きを止め此方を見つめている。
≪あなたは今代の女王ですね?この者をここまで導いた事をありがたく思います≫
我に返ったティセアが素早く方膝をつく、それに習い他の精霊たちも方膝をついた。
「滅相もございません、しかしマザースノー。貴方は意識がおありでしたのですね」
≪ええ、聞く事も、見る事もできませんが、あなたたちの事はずっと感じていました≫
そかしこからすすり泣く声が聞こえる。初めての母の言葉を聴いたことで琴線が触れたのだろう。
≪そこの小さき者が魔方陣の上に立った時、特殊なスキルが見えました。……ペン習字というのですか、とてもユニークなスキルですね≫
ああっ世界観ぶち壊しなスキル名で申し訳ございません。
≪貴方のユニークスキルがあれば、魔方陣の修復をする為の知識を貴方の魂に刻むことで、魔方陣の修復ができるようになるでしょう≫
魂に知識を刻む……そんな事ができるのか。
マザースノー。彼女との出会いが、ルーンマジックの可能性を広げる事になるのだった。
主人公のへタレな魂にそんな事をしてもいいのだろうか・……
そして最大のピンチが訪れる!
次回 恐怖 お楽しみに。
『アアアアアッアアッア』