魔方陣+テレポート=遭難
二重人格。
よく漫画や小説に出てくる人格分裂症。幼い時に受けた虐待などから自分を守る為に生み出されるのがオーソドックスな理由だ。
マナナは昔から村の住人による虐待を受けていたらしい。それが今回ネクロマンサーによって体を弄られた結果、もう一つの人格であるリサに魔法的な擬似生命が付与され、それがゾンビになってもマナナやリサの意識が残った上異常な再生能力も得た理由なのだと言う。
「まああの糞ネクロマンサーが言ってた事だから何処まで本当かわかんないけどなっ」
《なるほどなー、あっちょっと蟻を【捕食】していいか?》
「なんだよ……わんちゃんあんなもの食べるのか?」
《俺【捕食】のスキルがあるからさ、モンスターを【捕食】するとパワーアップできるんだ》
へーと感心してくれる。もぐもぐもぐ、虫はあんまり美味しくないなー
【捕食】発動
捕食対象、ジャイアントアント
HP+1
MP+1
攻撃力+0
守備力+5
魔法力+0
うむうむ、防御力がなかなかいい感じに上がったな。
目の前に何かが音を立てて振ってくる。
《ドサッ?》
ぎれた腕が落ちていた……
《なっ何してんだよ、リサ!》
「いや、モンスターを食べたら強くなるんだろ?ならあたしの腕もどうかなって思って。ほら、今あたしはゾンビだから」
だからって自分の腕を引き千切るなよ……ゾンビは食べたんだけどなー毛色がちがうし効果あるかな?
もぐもぐもぐ……!!これはっ。
【捕食】発動
捕食対象、キメラゾンビ
HP+25
MP+0
攻撃力+0
防御力+3
魔法力+0
スキル【リジェネ(微)】
ほっ捕食でスキルを覚えた!しかもリジェネって……うおー捕食すげー、キメラゾンビすげー。
《凄いよリサ、凄いパワーアップした》
「おっそうか?なんならもっと食うか?」
《あーいやそれはいいよ、捕食で効果があるのって1回だけなんだ》
「ふーん、おっとそろそろ時間だ」
《時間?》
「ああ、どうもあたしが表に出てこれる時間は限られてるんだよ。だからわんちゃん、マナナのこと頼むな」
《ああ、頼まれた、あと俺はシュン・ハットリだ》
「了解、シュンまたな」
赤かった髪が黒く戻る、雰囲気もガラッと変わった。
《マナナか?》
ぼーとした目で俺のことを見つめる。
「わんちゃん……」
俺を拾い上げて顔を近づけ……噛んだ。
かぷ
《ぎゃあああああ、いだだだだだ、マナナ、マナナー正気に戻れー》
わんこパンチを顔に連打するがまったく効いていない。
《たーべーらーれーるー!!》
◆ ◆ ◆ ◆
「わんちゃんごめんね~、えへへ、リサと変わるとお腹が凄く空いちゃうんだー」
そう言いつつジャイアントアントを貪り食う美少女ゾンビ……シュールだ。
「んーお腹一杯」
《そりゃ10匹も食べればなー、消化できないだろうに何処に行くんだろうな》
「あれれ?そうだねー考えた事もなかった~」
なんと言うか空気が緩むなー、しかし油断はできない。お腹が空くと俺が捕食されてしまうから……
《それじゃー出口を探すか》
「は~い」
暫く歩くがどうもここはジャイアントアントの巣と言う事でもないみたいだ。どこかの洞窟がたまたまジャイアントアントの巣の入り口と繋がっただけかもしれない。
《うーん、かなり広いなーこれはマッピングができないとつらいかもしれないぞ》
「………」
《ん?マナナ……!まさかまたお腹が空いたのかっ》
慌てて距離をとる。
「あっちがうの~、なんだか見覚えがあるなーと思って」
《こんな洞窟に?》
「うんーネクロマンサーさんから逃げる時に通った気がするのー」
《ふーん……それってこの道がネクロマンサーの本拠地に繋がってる事にならないか?》
『そういうことだね』
慌てて戦闘態勢をとる、【第六感】が頭の中で警報を鳴らし続ける。ゾンビの集団に出会った時の比じゃない!
『そう慌てるな、私は感謝しているんだよ?私の最高傑作をここまでつれてきてくれて』
ビクッとマナナが後座する。
《べつにここまできたのはお前の為じゃない》
『ははは、そういうな。では、私の作品を返して貰おうか』
「わっわんちゃん」
くそー大丈夫だといいたいけど、俺一人じゃ無理だ。弱いのがこれだけ悔しいだなんて。
《リサはでてこれないのか?》
「だっだめ、リサはまだ眠ってるの。一度寝ちゃったら暫くおきてこれないの~」
俺たちの目の前にいきなり魔方陣が浮き上がる。そこから何かどす黒い影が浮き上がり人に似た、けれど歪なシュルエットが1体浮かび上がった。
『私がそこに行くまで、シャドウーウォーカーと遊んでいたまえ』
糞っ、やるしかない!
『シシシシシシシ』
気持ちの悪い笑い声を上げながら、シャドウウォーカーが腕らしき影で俺たちを切り裂く!
速い上に切れ味が鋭い。【ステップ】でかわすが足を掠っただけでぱっくりと切れる。
「ひゃ~~~」
マナナは腕を斬り飛ばされ、顔や体のいたるところを切り裂かれる……が、その全てが直ぐに回復しだす。
マナナよりも俺のほうが危ない。
《食らえっ》
【ファイヤー】×5、【ステップ】×3【ジャンプ】 【フレイムランス】
ファイヤーで牽制しつつ、ステップとジャンプで奴の後ろに回りこむ。後ろを取った、奴にフレイムランスが突き刺さる!
真後ろから炎の槍がシャドーウォーカーの体(影?)に突き刺さった。
『ギギギギギギ』
これなら倒せる!【フレイムランス】
しかし、炎の槍が突き刺さる直前に奴が影の中にもぐりこんだ!
《なっ……どこにっ》
俺の影から腕だけを伸ばし、体に巻きつけ右に左に何度も壁に叩きつけられる!
ギャイン、激痛に悲鳴が漏れる。
【スラッシュ】
壁に叩きつけられながら魔法を放ち、脱出を試みる。
細い影の腕を風の斬撃が切り裂き体の戒めが解けた。だがもう体がボロボロだ……
四本足で体を支えるだけで限界だ、立つだけで全身が震える。たかが部下一体だけでも勝てないのか俺は!
ずるっと影から這い出て、止めを刺すべく残った腕を素早く振り上げる。
「わっわんちゃんをイジメるな~~」
岩を掴んで引っこ抜きそのままシャドーウォーカーに投げつけた!
俺に止めを刺そうとしていただけに、避ける事ができずまともにぶつかる。
《つよっ》
つい声を漏らしてしまった。今はそれよりも止めを刺すほうが先かっ!
のこりMP22、ならば【ファイヤー】×四
ペンが空中を踊り四つの火の玉を作り出す!
ドゴドゴドゴドゴドゴッ、頭に一発胴体に三発、四発とも命中だ!
『ギガガァァァァァ』
最後に悲鳴を漏らし、シャドウウォーカーが消滅する。
シャドウウォーカーLv4を倒した 経験値680÷2EXPを手に入れた。
つっ強かった、それなりに時間もかかっている。捕食している暇はない。
「わっわんちゃん~よかったよー」
そういって俺を拾い上げ抱きしめる。ひやっとした体が気持ちいい。
《部下がこれだけ強かったんだ、ネクロマンサー自体が着たらもう終わりだ、逃げるぞ》
「うっうん、でもどこに行けばいいの~」
そうだ何処に逃げればいいんだ……
《どうやって逃げれたか覚えていないか?》
「えっえっと……」
そこで雰囲気が変わる。
「魔方陣だシュン、あたし達はテレポートの魔方陣で外に逃げたんだ」
《リサか?》
「ああ、すまねー肝心な時にでてこれなくて、それに今も無理をしてでてるんだ時間があんまりない」
《その魔方陣が何処にあるか案内してくれ》
「勿論だ、あたしから落ちるなよ」
そう言って物凄いスピードで走り出す、リミッターをはずすと人はこんなにも速く走れるのか……
時間にして一分、たったそれだけが何時後ろからネクロマンサーが襲ってくるかと思うと生きた心地がしない。
「ここだっ、魔方陣は……動いている。飛び込むぞっ」
有無を言わさず飛び込むリサ。
そして魔方陣が光りだし、俺たちはその場から飛ばされた。
『……面白いことになっているな、少し様子を見るか。行き先は……エスプレッソ山脈か……」
◆ ◆ ◆ ◆
俺たちは、何とかネクロマンサーから逃げ出す事ができた。
リサも時間が来てしまいマナナの中で眠りにつく。少し無理をしたので暫くは出てこれないらしい。
先ほどの魔方陣の事を思い起こす。召還に、転送……
魔方陣……俺はルーンマジックの新たな可能性が見えた。設置する事でしか、効果を発揮する事が出来ない魔方陣をいつでも使う事がでたなら……
俺の目指す方向が薄っすらとだが見えた。ルーンマジックを使いこなしてみせる!新たな覚悟を胸にし、
そして今俺たちは……
周辺を雪が激しい風と共に舞っている。
《ささささささ寒いいいいいい》
雪山で遭難していた。
少しずつ強くなっていきます。
ルーンマジックは何処まで強く成れるのか。
主人公の応援お願いします。
シャドーウォーカーの強さはランクDの上の方です。