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冬祭りの妖精と人間

 で、俺達は早速部屋を出て近くのファミレスへ向かった。もちろん俺がバイトしているザ・ビーグルではない。あそこもいいけどこいつを連れては行くのは俺的にお勧めできない。それに遠いし。ちなみにロニはいまだジャージー姿。

「へ―。結構人いるわね」

 店に入って店員さんが案内してくれるテーブルに座りながらロニが言う。

「まあ、休日だしお昼時間だからな。で、何食べる?」

「ん―。何にしようかな…あ、このパスタ美味しそう」

「じゃ、それにするか?」

「うん…。どうしよー。あんたは何にする?」

 俺は来る前から決めていたから別にメニューを見る必要も無かった。

「俺はカレー。期間限定らしいぞ。イタリアンなのに」

「へ―。じゃあ、アタシもそれにする」

「そう?他のメニューにした方がよくないか?」

「いいの。カレーに決定」

「そっか。じゃ、それでいいんだな。すいません―」

 俺は店員さんを呼んでカレー二つとドリンクバーを注文した。そして料理が出る前にドリンクバーで飲み物を持ってくる。

「飲み放題か―。うん。いいね。どんどん飲まなくちゃ」

「飲み物でお腹いっぱいになって肝心なカレーは食べられないとか言うなよ」

「大丈夫」

 よく考えてみりゃこいつ今まではフィギュアーの状態だったから食べることも飲むことも出来なかったってことじゃないか?つまり、見て食べて感じている全てが彼女にとっては新鮮なことだろうかな。

「……」

 ロニは俺の視線を感じたのが飲んでいるカルピスのコップを下ろした。

「何見るの?あ―今、アタシのこと食いしん坊だと思ったでしょ」

「思ってない。ただ、急に思いついたんだけどな」

「うん?」

「お前、言っただろう。物の姿の妖精もあるって。その…低級とか」

 ロニは黙ってこくりと頷くだけ。俺は話を続けた。

「じゃあ、その妖精達もお前みたいに人間の姿に変わることが出来るのか?」

「それは違うの。彼らは死ぬ時までその姿のまま。アタシたち時間の妖精は特別な存在だから」

 そこまで喋ったロニは何故か黙り込んでカルピスを飲み始めた。

「…特別な存在?」

 しばらく答えずにカルピスを飲んでいたロニは頭の中で話の内容を選択している様子である。そしてその選択作業が終わったか、俺が沈黙に耐えれず何か話題を変えようとした瞬間、口を開けた。

「…そう。妖魔を封印する者だから、契約者と出会うとそれで人間の姿になれる。他の妖精には契約者とかは無いからね」

「ふーん」

「そういうこと。アタシもう一度飲み物もって来るね」

 ロニはそう言っていつの間にかからっぽになったコップを持って立ち上がった。

 …それを話すためにこんなに時間がかかったのか?何かごまかしているようではあるが…言いたくないことを無理矢理で言わせるほど聞きたいものでもないし、まあいっかー。


 その後、料理が来て、俺とロニは食べ始めた。

「…あ、美味しい!」

「そう?」

 確かにうまいけどそれほどか?

「何これ!何が入ってるの?凄い!」

「大げさすぎ。普通のカレー味だろう」

「そうね…。カレーだよね」

 ロニはカレーの味がよっぽど気に入ったのか一口ずつ食べる度に美味しいとか凄いとか目を輝かして喋る。そしてメニュー版を見て、

「…ガラム…?ねぇ、トリ。このガラムマサラって何?」

「ん?ああ…そうだな。俺も良く分からないけど香辛料の一つじゃないか?カレーの材料になる。ってか、そんなのまで書いてあるのか?」

「…ガラムマサラ…。うん。ガラムマサラね」

 ロニは何度もガラムマサラを繰り返して呟いた後、またカレーに集中した。それを見て俺もカレーを一口食べる。

 俺は外食あまり好きじゃないけどたまにはこうやって外で食べるのもいいな。まあ、ロニも喜んでいるみたいだし。特にそのガラムマサラはその響きがかなり気に入ったようだ。…でも食べながら即席でガラムマサラの歌を作って歌うのはやめて欲しい。

「あ、言い忘れたけど…」

 食べて歌っている途中ロニが話し出した。

「ん?」

 俺は口の中にあるのを全部飲んで、

「何が?」

 と問う。

「アタシね、あんたの家から出る」

「はぁ…」

 何だそんな事か…。俺はカレーを一口食べて、

「って、ええ?」

 あ、いかんいかん。思わず大声を出してしまった。あーあ。周りの視線がちょっと痛いな。だって!今までかなり悩んだもん。ホントに二人で暮らすのかと真面目に悩んだんだもん!

「って、急にどうした?行くとこも無いだろう?」

「無かったけど―出来た」

「出来たって、もっと理解出来るように話してくれ」

 ロニはカレーを口に入れて、噛んで、飲んでからやっと答えた。

「妖精管理局からの支援」

「支援?」

「そう。妖精には管理局から最低限度での支援が与えられるの。例えば住まいとかね。でもやっぱり仕事はしなくちゃ…」

「……そ、そうだったのか…」

 何だ…俺はでっきり家出でもするのかと思ったぜ…。

「今ほっとしているでしょ。アタシが消えるんじゃないか心配した?」

「ん?いや、してないしてない」

「ふーん。素直じゃないんだから…」

「どこをどう解析したらそうなるんだ?」

 まあ、少しは心配したのは事実だけど…家から出るって言うからどっかに消えちゃうのかと思ったから。

 でもこれで俺の部屋は少し静かになるだろ。やっと平和が戻ってくるのか。

「…で、どこで住むのかは決めたのか?」

「ふふ…。聞いて驚きなさいよ。何と!冬祭り荘に住むことになしました~!」

「……」

 カラン―

 これは俺が持っていたスプーンが落ちる音。

「…どこ?」

「冬祭り荘。それもね、あんたの部屋のすぐ上の階の部屋に住むことになったの」

「…な…」

「な?」

「何だそのありえないくらいの偶然は!」

「偶然じゃないわよ。あんたと一番近い所を選んだだけ。偶然と言ったらあんたの上の部屋がちょうど空いていたことが偶然でしょう」

 ……。さよなら。平和だったあの日々よ。いや、でも今よりはましだろう。

そういえばこいつに会ったのは昨日だったよな。何か色んな事件があり過ぎて何日も過ぎた気がする…。おまけに疲れる。

「じゃあ、今日からそこで住むことになるのか?」

「ううん。色々手続きとかあるから住むのは来週から。それまでは世話になるね」

「…………」

後一週間もこいつと一緒に住まないといけないのか…。体がもたないかも…。それに問題はもっとある。あの妖魔。明日もまた現れるのかな…。


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