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冬祭りの妖精と人間

「何で俺が?」

「知らないわよ。あんたがアタシを取ったでしょう」

「いや、それはそうだが…。でもお前も呼んだんじゃなかったのか?俺のことを」

 一瞬、彼女の目が大きくなったような気がした。

「聞こえたの?アタシの声」

「いや…聞こえたっつうか、呼んでいる気がしただけ…と言うか」

「ふうん。呼んだ記憶は無いのに」

「って、おい」


「はい。これが最後」

「お、ありがとう」

 後片付けもちゃんと手伝ってくれる。以外に。

 しかし考えてみりゃ誰かと一緒にこの部屋で飯食ったのは初めてだ。これもこれで悪くないかも。とは言え、これからどうなるんだろう。一緒に暮す?いやいや、いくらなんでもそれは無理だろう。そう首を横に振る瞬間だった。

 急にロニが、ベランダの窓を開き、外に出た。

「?どうした?」

 どこかを凝視している。

「何かあんのか?」

 ロニが見ているところを見ると、そこには冬祭り装の入り口ではしゃいでる子供達がいた。よく見ると水たまりの氷の上を滑りながら遊んでいる。

「氷って…あんなのあったっけ?」

「ん…。すぐ近くにいるね」

「ん?近くにって、誰が…?って、クハァッ!」

 頭から感じられるすさまじい激痛。この女!また殴った!

「な、殴ったね。二度もぶった!」

「いいからついて来なさい」

「は?」

 何だか昨日も似たような経験があった気がするが…。とにかく俺は今度もロニの後をついた。

「うわっ⁉」

 俺の部屋の前に今にも飛んで来るような構えで山田が止まっていた。それに反対側の部屋のドアが半分くらい開いていて、その隙間からじゅんの腕が見えていた。やっぱり、また時間を止めたのか。

「おい、何でまた…。」

 ロニは手を上げ俺の言葉を切った。

「いるよ。」

「いるって、何が?」

 ロニは答えもしないで道路の方へ走り出した。

「おい、待ってよ。ん?」

 道の真ん中に一人の少年が立っていた。小学校の5、6年生ぐらいかな。道路の真ん中に人がいるのはおかしい事ではないが、俺が変だと思ったのはあの少年が止まっていなかったからだ。動いている。

「…誰だ、この子」

「そこの氷の原因」

 ロニが深刻な表情で答えた。

「氷の…原因?」

 少年はここではない、どこか遠い所を見ていた。何故か悲しそうな顔で。

 そして次の瞬間、少年は俺達の存在に気づいた。

「…⁉誰?」

 少年が言った。

「あ…。時間が止まってる?まさか時間の…」

 おいおい、それを今気づいたのか。どんだけ考え込んでいたんだ?

「何してんのよ。早く捕まえなさいよ」

 と、急にロニが俺に言い出した。

「って、えええ?俺が?え?あの子を?え?なんで?」

「いいから早く!」

 いきなり捕まえろって言われても…。その理由でも聞かせてくれよ。とか思ったことを口にしようとした時だった。

「う、うわっ!」

 いつの間にか道が氷だらけになった。まるでスケートリンクの様だ。

 そのいきなりの超現実的な状況に俺達、正確に言うと俺だけが慌てていると急にあの少年が叫んだ。

「く、来るな!あっち行け!」

 少年の叫びと一緒に俺は滑り転んでしまった。

「イッテー!いきなりどういうことだ?」

「だ、だから来るな!」

 来るなって、行きたくてもこの調子じゃ動けないし!そもそもまだ一歩も君のところには近づいてないし!と、考えながら顔を上げると…。

「き、消えた?」

 少年がいなくなった。いつの間にか氷も無くなっている。

「…え?え?いったい何が起きたんだ?」

「もう!何すんのよ!逃がしちまったじゃん!」

「何で俺がこの状況で怒られなきゃいけないんだ?」

「もう。戻るわよ」

 おいおい。少なくともどういうシチュエーションかくらいは話してくれ。さっきから何の説明も無いじゃないか。


「まだ時間が動くまでには時間があるから今のうちに話すわ」

 部屋に戻ってきた俺とロニ。ロニはベッドに座って話を始める。

「そう。話してくれ。今の状況について。まずあの少年は誰だ?」

「彼は氷の妖精だった子。今は妖魔の状態だけど」

 しょっぱなからわけ分からない話が出てきやがった。

「氷?妖魔?」

「氷の妖精。見たでしょ?あの子が氷を操っているのよ」

「え…。待て。じゃあ、ここら辺の異常な氷の発生ってあの子の仕業ってことか?」

「そうよ」

「何で?」

「妖魔だから」

「…その妖魔っていったい何なんだ?」

「自我を失って暴走する妖精のこと。妖魔たちはこの世界のどこかに密かに隠れて人間たちを不安にさせるまねを繰り返している者なの」

「…だから何で?」

「言ったでしょう。暴走してるって。元々妖精は人との同じ空間で同じ時間を過ごしながらこの世界のバランスが崩れないように働く存在。でも何らかの理由で暴走して妖魔になると逆にバランスを崩してしまうの」

「じゃあ、さっきのあれが…」

「そう。妖魔よ。」

「じゃあ、何で妖魔になった?」

「それは後々分かるよ」

「…はあ…」

 今は説明できないってことかな…。とにかく妖魔って結局‘魔’だけに悪い奴だということだな。今ロニもそう言っているし。あんな子供が?それにさっき見たあの少年の顔…。あの悲しそうな表情はいったい何だったんだろう。どう見ても悪意でこんなしわざしているようには見えなかったけど…。あ、暴走しているから悪意は無いのだろうかな…。

 で、何だ?人と同じ空間と時間?

「なら、妖精はこの世にいっぱいるってことか?それに普通の人間達は誰一人もそれに気づけないってこと?」

「そう。人間と同じく学校も通ってるし、仕事もするの。妖精だと言って変わったと思ったら大間違いよ。小説に出るあれと同じだと思わないでちょうだい。あれは低級とか中級の妖精のことだから」

「低級?中級?何だそれ?」

「妖精にもレベルがあるってことよ。基本的に三種類があるの。低級は妖精の中でも知能が低くて人間の姿でもない小さい…そうね、動物みたいな妖精たちかな。中級はあんたたち人間が一番良く知っている妖精の姿をしているの。小さくて、人間の姿をしている。まぁ、人間以外の姿もあるけど…。中級は言葉も使えるし頭もいいの。ただ小さいだけで、他にはアタシたち上級とあんま変わってない。そしてアタシみたいな人間の姿をしている者たちが上級妖精ってこと。低級や中級は人間達の目には見えないの。あ、でもあんたみたいな契約者には中級は見えるよ」

 何だそれ、何だか複雑で覚えるの面倒くさくなっちゃった。

「ってことは、俺の知り合いの中にも妖精がいる可能性がるんだな」

「無いとは言えないね。でも今止まっているあんたの友達は人間だよ」

「何で?」

「止まっているから」

 いや、答え簡単すぎ。

「じゃ、俺が今まで知った虫の羽とかは? 」

「虫の羽?…ああ。あれね。失礼じゃない。虫って何よ!」

 そりゃ、そっくりだから…。

「まあ、羽は後で見ることが出来るからその時確かめてみて」

 何だそれ。後で見るってのはまたどういうことだ。ロニはさっきの話に戻った。

「そしてその妖魔を封印するのがアタシたち時間の妖精」

「…お前が?封印?」

「そう。他の妖精は駄目なの。まず、他の妖精や妖魔は普段には妖精同士にも区別がつかないの。さっき言ってたとおり人間とそっくりだから。でも一つだけ区別出来る方法がある」

「それ…ひょっとして妖精とあの妖魔って奴らは時間を止めても動けるってこと?」

「そう。だから時間の妖精だけが妖魔を見つけるの。時間を止めることでね。それに時間の妖精は妖魔の気配も感じられる」

「へえ―。その…気…みたいな?」

「まあ、似ているかも。でも正確にどこにいるか、誰が妖魔なのかまでは分からないの。ただ、近くで妖魔が暴れていると、あー妖魔がいるーとかすかに感じるだけ。それも妖魔が暴走していないと感じられない」

 それは役に立つのか、立たないのか微妙だな…。

「そして時間がまた動くと妖精は時間が止まる前の状態に戻る。自動的にね。そうしなくちゃ人間の目には急に瞬間移動でもしたみたいに見えるでしょ?でもアタシやあんたみたいに時間を止めた妖精とその契約者だけはベツ」

「時間が止まる前の様子には戻らないってことか」

「そう。で、妖魔も」

「じゃあ、人間が見ると妖魔はその瞬間移動をしたように見えるってことか」

「そーよ。だからさっき捕まえなければならなかったのに。あんたのせいよ」

 何だか段々複雑になって行く感じ…。妖精は動いても結局動かない状態で、妖魔は動いたまま…。って、どんな話だよ。

ま、でも少しは理解した。だから動かなかった山田も、腕だけ見えたまま止まったじゅんも人間だと言ったんだな。別に妖精でもロニみたいな性格さえなければ構わないが。

「じゃあさ。どこかで他の時間の妖精が時間を止めると俺達は動けるってことか?」

 俺の質問にロニは首をかしげて微妙な表情をした。どうやら、今の質問の答えを頭の中から検索しているらしい。

「そーれは違うの。時間の妖精が止める空間の範囲は決められているから、その範囲から離れている妖精達は時間を止めたことを感じられない。その範囲の中から見ると範囲の外の妖精たちも止まっているように見えるのよ」

 じゃあ、範囲の中と外の境目にいる妖精は半分だけ動くのか?…いや、それは無いだろう。

「で、その中でさっきお前は俺にあの妖魔を捕まえろって言ってたな」

「仕方ないじゃない。アタシには時間を止める以外には何の力も無いんだから」

「だからって俺にさせるか、普通」

 てか、俺には時間を止める力すら無いんだぞ。別に俺にも知らない力が隠れていたりするわけもないし。

「でもアタシよりはましだよ。男だし」

「と言ってもな、何で俺だ?もっと力強い人もいるだろ?異種格闘技選手とか」

「アタシが撰んだんじゃないのよ。あんたがアタシを撰んだの。だからあんたがやるの」

 そー言ってもなぁ。ん?そういえばこの前より時間止まるの長くないか?

「まだ時間動かないか?結構長い気がするんだがよ。大丈夫?」

「あー、今みたいに妖魔を捕まれるために時間を止めた時は普段より時間が止まる時間がずっと長いってこと」

あ、そういうことか。

「でももうすぐ時間動くわよ。そしたら部屋の前の人、入ってくるでしょう」

あ、そういえば忘れていた。山田の奴、部屋の真ん前にいたんだな。ってことは奴が入った時、ここにいるロニを見ると紛らわしいことになる。

「だからお前は部屋の中にいろ。キッチンには出るな」

「ええ?何で?嫌よ」

「いいから!お前がいると事が大きくなる!」

「あー酷い。今アタシのこと邪魔者扱いしているのね」

「邪魔です!めちゃくちゃ邪魔です!だから入ってくれ!」

「ふーん。いいわよ」

 はあ…疲れる。ヒートポイントが5%も残ってない。

そう考えてキッチンと部屋の愛でのドアを閉め、玄関の前に立つと同時に玄関のドアが開いた。時間が動いたのだ。

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