第六話 魔獣使い
読み方変更のお知らせ
冒険者証の読み方を『ハンターカード』から『ライセンス』
に変更致しました
「ここがデリアン支部です」
俺のお腹がなったところから、さほど離れていない場所にギルドはあった。
見た感じは、そこいらの家と大して変わらない、石造りだが入り口は大きく、両開きの扉になっていて、目立つのように看板が着けられている。文字が書いてあるが、さっぱり分からない。
扉のところには丸いエンブレムがつけられていた。
剣と杖が交差されたエンブレムだ。
「中に入りますか?」
「はい。一応依頼も受けちゃいたいので。それに魔獣使いの登録もしたいですし」
「あぁ、その子、魔力持ちでしたもんね」
扉を開け、ギルド内へと入っていく。
中は意外と普通だった。とても綺麗で、ちょっとした役所みたいな感じだ。受付は3つあって、その奥で職員たちがなにやら書類仕事をしている。端の受付の横には階段がある。
壁には紙がいくつも張り出されていて、中身は分からないがおそらく依頼だろう。
この時間は、冒険者達がいないのか、ガランとしていた。
「ルイ・カーライド、戻りました」
ルイが手前の受付嬢に冒険者証を出す。
「おかえりなさい。ヘルキンスさんからの報酬を預かってます。銀貨20枚、はいどうぞ」
「どうも~」
袋に入った銀貨が渡される。
「そちらの方は?」
受付嬢が、セシリアを指す。
「シンジーク街道で会ったセシリアさんです」
「どうも。セシリア・クレントです」
セシリアも冒険者証を出す。
「まぁ、リーランド出身なんですか」
「えぇ。フリーでいろんなところを旅してます。デリアンには長めに滞在するつもりなので、何度かお世話になると思います」
「これはご丁寧にどうも。私は受付のシーナ・アルトネンです。こちらこそよろしくお願いします」
シーナさんか。ロングの金髪で眼鏡の奥には優しそうな碧眼の瞳がある。大人のおねーさんって感じだ。俺よりも歳上だろう。っても、犬年齢でいったら1歳にもなってないんじゃないか、俺。
ちなみにシーナさん、巨乳だ。金髪碧眼眼鏡巨乳…。中々に…イイッ。
っと、思考がぶっ飛び始めた。自重しろ、俺。
「あの、私、魔獣使い登録したいのですが」
「魔獣のほうは今、いますか?」
「この子です」
急に持ち上げられる。シーナさんと目があった。
「わう」
『ども』
ペコリと頭を下げる。前足の付け根を持ち上げられているので、非常に情けない格好しているので、恥ずかしい。
「この子…魔獣ですか?普通の子犬にしか見えないんですが…」
「魔力は持ってます。…多分」
「分かりました。魔力の方を検査します。実戦で使える程度の魔力値を持っていれば、魔獣使いとして登録します。この子の名前は?」
「それが…まだ決まってないんです」
は?とシーナさんがぽかんとする。
「実は、この子今日拾ったばかりでして…」
と、俺との経緯を説明するセシリア。
「そういうわけでこの子の名前がまだ決まってないんです」
「困りましたね…。名前がないと、魔獣使いの登録ができないのですが」
まさか、名前を決めていないことがこんな所で障害になるとは…。
「うーん…でも、この子全然名前を付けさせてくれなくて…」
それは、セシリアのネーミングセンスの問題だっ!
「シンジーク街道で出会ったんですから、そこから取ればどうですか?」
ルイが案を出す。
「確かに。それならこの子もOK出してくれるかも」
せ、セシリア、お願いだから、『ガイドウ』とかって言ってくれるなよ。
「じゃあ、ガイドウで!」
「…」
『…』
呆れてものも言えねぇ…。
「さ、さすがにそれはいくら何でも…」
「ガイドウはちょっと可哀想です」
シーナとルイが苦言を呈す。
「んーじゃあ、シン…とか?」
あー確かに、妥当な線だな。てか、シンか…。なんだか既視感を感じるなぁ。前世が眞也で、生まれ変わってシンか。まぁ、これなら呼ばれても違和感全然ないどころか、しっくりくるし、いいか。
ふと、死ぬ前の記憶が思い出された。
シン…か。あいつは元気にしてんのかなぁ。
「…やっぱりこれもダメ?」
っと、思い出に浸ってる場合じゃないな。
「わん!」
『それがいい!』
ついでに尻尾も振っておく。
「喜んでいるみたいですね」
シーナさんが微笑む。
「ようやく名前がつきました。ルイさん、いいアイデアありがとうございました」
「いえいえ、そんな大げさな」
シンか。なんかしっくり来るな、やっぱり。
「さて、名前が決まった所で、早速魔力値の計測をしたいと思います。シンにこの珠を触らせてください」
「シン、これに触るんだよー」
セシリアの腕から降ろされて、目の前に黒い珠が置かれる。
それに前足を乗っける。
と、体を何かが駆け巡る。それは血液にのって俺の体の隅々までに行き渡っていき、その黒い珠へと注がれる。
これが、魔力か…。なんとなく、俺はその流れが魔力なんだと分かった。
ぽうっと黒い珠が鈍く光りだす。
「もう足をどけて結構ですよ」
言われたとおりに足を離す。
「少々お待ち下さい。いま計測結果がでます」
おぉ…どきどきするな、これ。
「出ました。計測結果は…うそっ!?」
「な、何があったんですか!?」
セシリアがシーナさんに詰め寄る。
一体なんだって言うんだ、シーナさんの驚きようは…。
「魔力値…ランクBです」
それって凄いのか?
「え、マジかよ!?俺より魔力値高いの!?」
ルイが素っ頓狂な声を上げる。
「まだ、子供なのに、ランクBだなんて…。鍛えたら相当な強さになりますよ!」
「ま、ますます普通の犬じゃないわね…。真面目に高位魔獣の子供かどうか、検討したほうがいいのかしら?」
「うわぁ…俺も魔法得意な方だし、ランクもCでそこそこなのに…」
何やら、ルイが落ち込んでいる。
「まぁ、魔力値だけが強さを決めるものじゃありませんし、いくら高くても使いこなせなければ意味がありませんから」
そうなのか。なんだ…ぬか喜びしちゃったじゃないか。魔力の使い方なんぞ全く分からないぞ…。
「でも、これで魔獣使いの登録できますよね?」
「えぇ。なんの問題もありません」
「やったね!シン、これで晴れて名実ともに相棒だね!」
わしゃわしゃと撫で回される。そんなに喜ばれるとなんだか照れるな。しかも相棒だって。
「登録の前に、魔獣使いの説明をさせて頂きます」
「分かりました」
「少々長い説明になるかもしれませんが、ルイさんはどうしますか?」
「俺は上の階でいい依頼がないか探してますよ」
そう言ってルイは階段を上がっていった。
□ ■ □ ■ □
「まず、魔獣使いになると、指定宿にて2割引されます。それと、俊足、剛力と言った肉体強化系、千里眼、影消などといった感覚強化、補助系の魔術を購入時に幾らか割引されます。メリットはこれぐらいです。デメリットの方ですが、まず、パーティーが組み難くなる可能性があります。
冒険者の中には、魔獣使いは信用できないといった意見を持っている方もいらっしゃるので…。
マムズーやロックパピーなどを連れいる方はそんなに嫌煙されないのですが、大型の魔獣を使役している方だと、市民にも怯えられることも多いですし」
確かに、デカイ魔物を連れて歩いてたらビビるわな。俺がどこまで大きくなるかは分からないが、セシリアに迷惑かからない程度の大きさであって欲しいよ。
「それと、万が一、使役している魔獣が暴走した場合、その責任はすべて使役者に掛かります。もし、暴走によって被害が出た場合、すべての賠償は使役者が負担することになります。冒険者証も剥奪です。最悪、投獄されることになりますので、魔獣の管理は厳重にお願いします」
うわぁ…。責任重大じゃん…。俺は暴れるなんて愚は犯さないけど、俺にここまでの自我があると分からないセシリアには結構な重荷だな。
「大丈夫です。うちのシンは頭いいですから、そんなことはしませんよ!」
あぁ、なんていい子なんだ!セシリア!
「さて、諸注意はついては終了です。最終確認ですが、魔獣使いとして登録しますか?」
「もちろんです!」
笑顔いっぱいで返事する。うーん、そこまで信頼されてるとは。こりゃ、早く使える”相棒”にならなくちゃな。
「了解しました。では、登録いたしますので、指輪を出してください」
「どうぞ。ところで魔獣使いってどのくらいいるんですか?」
「そうですね、デリアン支部所属だけでいうと、あなたを含めると13人います。全体の1割程ですね。協会全体では1割もいないと思います」
すげぇ、なにも見ないで細かい数値までスラスラ出てきたぞ。できる女ってやつだな。
セシリアから指輪を受け取ったシーナさんは、奥で仕事をしていた男性職員に指輪と黒い珠を渡す。
あの人、耳が長いからエルフかな?
「今、指輪の方に情報を記録していますから、終わるまで少々お待ち下さい。上の階で依頼やデリアン周辺の情報を確認なさっても構いませんよ。終わり次第お呼びしますから」
「分かりました。上で待ってますね。シン、行くよ」
「わん!」
『がってんだ!』
と、ギルドの扉が勢い良く開けられる!
「…っはぁ、ま、まだ、はぁっはぁっ、受付…やってますか?」
息を荒げて入ってきたのは、眼帯をつけた茶髪の少年だった。背はセシリアと同じくらい。彼女より年下の印象を受ける。
と、その少年がこちらを見る。すると、ぽけーっとした表情になった。
セシリアが軽く会釈する。少年も慌てて頭を下げる。ってか、下げ過ぎだろ、それ。明らかに90度近いぞ。
「シン、行くよ」
セシリアの後に続き、2階へと行く。
ギルドと協会の書き分けについて
組織全体を表す時は、協会。支部1つ1つを表す時はギルド。
となっております~
3月19日改変
細かな点を編集いたしました。