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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第三話 ネーミングセンス


「そうだ、ワンコの名前を決めなくちゃ!」


俺と一緒に旅をすることを約束したセシリアはポンと手を打つ。


「いつまでもワンコだったら可哀想だしね」


歩みを止め、どんなのがいいかなぁ?と腕を組みうんうん唸る銀髪美少女。可愛い。癒されるなぁ…。


俺とセシリアは平原の街デリアンへと向かっていた。俺が倒れていたところから遠くに見えた街がそうだ。なんでも、色んな街からの物資が集まる大陸の中心地的存在で非常に賑わっているとのこと。

セシリアも初めて訪れるらしく、凄く楽しみだそうだ。大陸やら周辺の街については教えてくれなかった。こういう時に、自分から質問ができないのは不便だ。


「そういや、ワンコはオス?メス?」


…どっちなんだろ?中身は間違いなくオスだが、外側までオスとは限らない。


「…ちょいと失礼」


俺に手を伸ばすセシリア。


ま、まさか!?


「き、きゃうん!!」

『ま、まてぇい!!』


と暴れてみるも、


「まぁまぁ、ちょっと確かめるだけだから」


といって、強引に持ち上げられる。女性とはいえ、戦士である彼女に力で敵うはずもく、どだい小犬の体で出せる力などたかが知れている。


「ほほう、男の子でしたか。失礼しました~」

「くぅん…」

『ぐぁーー』


りょ、陵辱された…。もうお嫁にいけない…。


「なはは、やっぱり知性があると羞恥心もあるんだねぇ」


としゃがんで俺の頭をぐしぐしと撫でる。


「涙まで溜めちゃって。ごめんごめん」


お詫びとばかりに頭やら首やらをわしゃわしゃされる。俺はどうやら子犬ほどの大きさのようで、小柄な彼女の手でも大きく感じた。


「男の子と分かったことだし、強そうな名前を付けようじゃないか」

「わうん」

『お願いします』


俺はもう、この世界で生きることを決めた。生前使っていた名は日本での名だ。ここで生きていくならば、ここでの名をもらおう。


そんな俺の一大決心をよそに彼女は楽しげに名前を考えていた。


が、この名付け作戦は、予想以上に長引いた。





□ ■ □ ■ □





「くろ吉!」

「がぶ」

「これもだめぇ!?」



最初は、セシリアが名付けるならどんな名前でも受け入れようと思った。これから旅を共にする仲間なのだから、適当な名前を付けないだろうと思っていたし。


ところがどっこい。


彼女にはネーミングセンスが皆無だった。


「よし、今日からお前はクロだ!」


開口一番、これだよ。どんだけセンスないんだよ。

フフンと偉そうに指を立てていたので、拒否の意をこめてその指にガブリ。


その後も何個か案が出たのだが、どれも酷いものばかりだった。


「レオン!」

「がぶ」


俺は猫科じゃなくて犬科です。


「クロゲ!」

「がぶ」


和牛じゃありません。


「漆黒の牙!」

「がぶ」


厨二かよ。しかもどっかのRPGで聞いたことあるぞ、それ。


「ワンワン!」

「がぶり」

「いたい…」


投げやりにも程があります。

てか、痛いならいちいち指を立てるなよ。噛まれるの分かってるだろうに。


とまぁ、こんな感じ。


「うぅぅ、頑固だよぉ!」

「ばう!」

『テキトーすぎだ!』


中々決まらず、このままだと一向に街に進まないということで歩きながら決めることに。


「名付けるのがこんなに大変だとは…」


俺も別にまともなのならいいんだよ?でもさ、それにしたってネーミングセンスひどくないかい?


とうとうセシリアの限界が来たのか、


「だぁーもう、お手上げ!」


と考えることを放棄してしまった。


「お前ぇー選り好みし過ぎなんだよー」


と強めにわしゃわしゃされる。


そんなこと言われてもなぁ…。セシリアのセンスがなさすぎるんだよ。





□ ■ □ ■ □





そんなこんなで、結局名前は決まらず、二人でのほほんと街に向かっている。



天気は快晴。空はどこまでも広がっている。

こっちの世界にも太陽はあるんだなぁ、でも地球のよりも大きい気がする。なんてことを考えながら、セシリアの後をトコトコついていく。


「そろそろ休憩しようか。さっきから歩き続けてるし、私もさっきの戦闘でだいぶ疲れちゃった」


近くの木陰に移動する。セシリアは木にもたれ掛かるように座った。腰につけている剣もベルトごと外す。俺はその隣におすわり。


この平原にはあちらこちらに木が見受けられる。近くには無いが、遠くの方には大きな森も見える。セシリアに出会う前に見つけた森とは別なものだ。


「早く美味しい料理がたべたいなーっと。はい、干し肉」

「むぐむぐ」


セシリアがバックから出した干し肉を分けてもらう。余談だが、このバック、実は俺が探し当てたものだ。俺を助けに来たときに、戦闘に邪魔なバックをそこら辺に投げ捨てたらしいのだが、セシリアはどこに投げたのか覚えていなかった。


そこで活躍したのが俺の嗅覚というわけだ。


軽く腹ごしらえしつつ雲の動きなんかをぼんやり二人で眺める。優しい風がそよそよと吹いていて、その音も耳に心地いい。とても、ゆったりと落ち着いた時間だ。


「そうだ」


何やらセシリアがカバンをゴソゴソし始めた。


「じゃじゃーん」


取り出したのは木の棒みたいなの。なんだこれ?と見ていると、


「これはねぇ、笛なんだよ!私のおじいちゃんが作ってくれたんだ」


そう言って彼女はその笛を吹いた。


その笛の音はとても澄んでいて優しげな音色だった。さわさわと風が奏でる音と、彼女の吹く笛の音がコーラスしているかのようだった。


暖かで、心を落ち着かせるその音色は風にのってどこまでも届いていきそうだ。





□ ■ □ ■ □





どれくらいセシリアの笛に聞き惚れていただろうか。彼女の笛が止む。なんだか、心が癒された感じだ。とてもゆったりとした時間だった。


「やば…こんなのんびりしてたら夜になっちゃう!」


セシリアが急に立ち上がる。


「まずい!急ぐよ!夜になったら魔獣たちがウヨウヨし始める!」

「わうーん!?」

『なんだってー!?』


慌てて笛をバックにしまうセシリア。と、そこである臭いがしてきた。


これは…馬?


「わん!」

『セシリア!』


セシリアを呼ぶ。名前を読んでいることは分からないだろうが、俺の今までにない強い声に何事かと俺を見る。


「なに?」


臭いのする方を向き、吠える。


「もしかして、敵?」


真剣な眼差しになり、手早く剣のベルトを腰につける。


と、パカラッパカラッと蹄の音が聞こえてくる。それにガラガラと何かを引く音も聞こえてくる。


「この音は…」


徐々にその音が大きくなり、音の発生源も見えてくる。


そう、馬車だ。


「やった!これに乗せてもらえれば陽が沈む前に街に行ける!」

「わん!」

『ラッキー!』


どうやら危険でいっぱいな夜を過ごさなくて済みそうだ。




3月19日改変

細かな点を編集いたしました。

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