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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、亡霊に出会う
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第十一話 森の異変②

お待たせしました。



「……」


 日の当たらない深い深い森の奥。鬱蒼と生い茂る低木や下草の中を黒い影が彷徨っている。


「……」


 その黒い影は時折立ち止まり、何かを探すように周囲を見渡す。その影は音をたてることなく移動している。不思議なことにその影が移動した痕跡は無く、ただ草木を微かに揺らすだけ。

 本来なら聞こえるはずの鳥や動物の鳴き声は無く、虫の蠢く音さえ辺り一帯からは聞こえてこない。


 まるでその影の周りに一切の動く生命の息吹が掻き消えてしまったかのようだった。


「……」



 影は彷徨う。何かを探し求め。


 

 影は揺蕩う。己の目的を遂行しようと。



 そして影は立ち止まる。探し求めたものが見つかったのか、それとも探すことを諦めたのか。その場にゆっくりと踞り、その動きを完全に止めた。


「……」「……」「……」


 いつの間に集まってきたのか、何処からとも無くその影の周りに新たな黒い影が集まっている。




 やがて影達は音もなくその場から消えていった。


 






 □ ■ □ ■ □






「グルァ!!」『おらぁ!!』


 2m程の距離を一足飛びに縮め、俺の身体よりも2回りほど小さいフォレストファング達に体当たりをかます。2,3匹を纏めて吹き飛ばすと、見事に近くの大木に衝突し、狼達が沈黙する。すぐさま気絶してる狼達の傍に行き、喉笛をかみ砕き絶命させる。


「せい!」


 俺の主人であるセシリアは幾つもの銀線を煌めかせ、襲い掛かってくる狼達を切り伏せていく。身にまとう軽鎧には幾つもの返り血が付着している。


「っく!こいつら、キリがないっすよ!なんだってこうも数が多いんすか!!」

「我が手に宿るは疾風《風刃》!……やっぱりこの森おかしいですよ!」

「フン!」


 ラッツ達もワラワラと出てくるフォレストファングの対応で忙しい。




 暫く散発的にやってくるゴブリンやフォレストファングの小規模な集団を殲滅し、森の深層辺りに来た時だった。そろそろ戻りつつ魔獣の巣を探そうかという時に、フォレストファングの集団が現れたのだった。




「皆、後もうちょっとだから頑張って!」

「了解っす!…はぁっ!」


 初めは4,5体程の集団だったのが、血に釣られたのか後からどんどん増え、既に20体程倒しただろうか。少し前から追加の狼達は出てきていないので、ようやく終わりが見えてきた。


「ブェット、そいつで最後っす!」

「フン!!」


 飛びかかってきたフォレストファングをブェットの持つ槍が貫き、仕留める。


「はぁ、はぁ……。これで片付いたっすよね?」


 額に浮かんだ大粒の汗を拭いながらジェスが周囲を見回す。その顔はもううんざりといった様子だ。


「ワン」『大丈夫、もう匂いはしない』


 セシリアの左手を鼻先で軽く突き、もう敵はいないと合図する。


「もう大丈夫だね。ココらへんに敵はいないってさ」

「あぁーしんどかったっす」

「だ、大分魔力を使っちゃいました」

「こんな乱戦は久しぶりだ」


 疲労困憊……といった程でもないが疲れた様子のラッツ達。彼らほどでもないがセシリアも疲れは溜まっているようだ。


「とりあえず、討伐証名切り取ってすぐにここから離脱しよう。予定の2刻は大分過ぎちゃってるしね」


 シェイラと俺で周囲の警戒をし、残りの3人が討伐証名を集めている。


 その間、俺は何故か落ち着かなかった。居心地が悪いというか、なんとも言えない不快感を味わっていたのだ。飛び切り気持ち悪いわけでもない。しかし、体の芯にまとわりつくような違和感や不快感を感じる。


 一体なんなんだ、この感覚は。


 明確な危機を感じてはいないが、いつも以上に気を張って警戒するのだった。




「よし、粗方取り終わったね。すぐに集合場所へ戻ろう」


 セシリアの号令ですぐさま集合場所へと向かう。帰路の途中でも散発的にフォレストファングやゴブリンに出会うが、最低限の接触を除き無視して進む。


「やっぱりこの森変っす!深層はともかく、浅い部分は普段から冒険者が魔獣を間引いているっす。それでこの量はちょっと異常っす!」

「確かにね。私達が担当している場所だけが異常っていうのも考えにくいし、おそらく他の場所でも異常は見られれいるはず」


 森を素早く駆けながらこの森の異常について話し合う。ラッツ達も何度か間引きの依頼を受けたことがあると言い、その時との森の違いに驚いているようだった。


「ひょっとしたら、この依頼の等級あがるかもね。こういう魔獣の異常発生は高位の魔獣が関わっていることが多いし、最近暴れたっていうA級の仲間がいるのかもしれない」


 セシリアのその予測にラッツ達は冷や汗をかいているようだ。


「まぁ、そこら辺の判断はギルドのお仕事。とりあえず今は依頼をこなすことを考えよう。もう少しで集合場所だよ」


 森を抜けると既にほとんどのグループが集まっている。誰もが疲れた表情をしている。


「おぉ、お前たち無事だったか。随分と遅かったから心配したぞ」

「かなりの量の魔獣に襲われましたがなんとか。皆は休んでいていいよ。シンも休んでおいで」

「分かりましたっす」

「承知した」

「疲れましたぁ……」


 ラッツとブェットはまだ余力を残してそうだが、シェイラは崩れ落ちるようにして座り込む。俺はこの程度の運動じゃあ対して疲れもしないが、セシリアの言葉に甘えよう。


 セシリアはジェスに連れられてギルドの職員や他のグループリーダー達を交えて話し合いをするようだ。




 俺はセシリア達が話し合いをしている間、未だ体の芯にまとわりつく不快感について考えていた。これは森に入る前には感じていなかったものだ。やはりあの森には何かがいる。これは確実だ。



 そして俺の勘ではあるが、飛び切り面倒くさいやつが。


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