第二話 銀髪の戦乙女
(あぁ、終わった。これで俺の第二の人生も終了かぁ…。短かったなぁ…)
固く目を閉じ、来るべき衝撃に耐えようと身を硬くする。
なにやら、ふわりと優しい香りがした。獣達の嫌な匂いの中、そんな香りが出てきたのが、あまりにも不思議で、目を開ける。
「ハァァッ!!!」
そこに俺は戦乙女を見た。
流れるような斬撃が恐ろしい犬たちを斬り伏せていく。突然の奇襲に犬たちはなすすべなく斬られてゆく。
美しい銀線と彼女の立ち回り。まるで剣舞を踊っているようだった。飛び散る血飛沫さえ、彼女の剣舞をより美しくするための演出みたいだ。
(綺麗だ…)
危機的状況にも係わらず、俺は彼女の戦いに目を奪われた。
あという間に2頭を仕留めた彼女は、
「次は誰が相手かな?弱いものいじめする奴は容赦はしないよ」
と俺を庇うように立つ。おぉ、なんという頼もしい背中!
風に吹かれ、なびく銀髪。右手には細身の剣が握られていた。
防具は…アレは皮か何かだろうか?あまり重装備には見えない。おそらく動きやすさを重視しているのだろう。
「グルルゥ」「ガウッ!!」
『チカズクナ』『ジャマスルナ!!』
そんな声が聞こえてくる。
「まだやる気?」
やれやれといった風に肩を竦める彼女。
「仕方が無いなあ。さっきは気配を消してたから奇襲に成功したものの…」
剣を構え直す、銀髪の戦乙女。見た感じ、俺より年齢は結構低そうだ。16ぐらいだろうか?
「さすがに3匹同時は仕留め切れないか…」
「グルルル」
犬たちは牙を剥き出しに唸っている。
「ならば…我が手に宿るは烈火<火炎>!」
左手を前に突きつけると、魔方陣のようなものが出てきた。
(って、魔方陣!?)
すると、魔方陣が輝きを放ち、炎が吹き出して犬たちの足元を焼いた。
「きゃんきゃん!!」
『ニゲロ!!』
犬たちは炎に驚いたのか、一目散に逃げていった。
「っとに、なんで同じ犬だってのにグラドッグは餌としか考えられないんだろうね」
剣についた血糊を拭きながらこちらを振り向く。
「怖くなかったかい?大丈夫、私は敵じゃないよ」
剣を腰の鞘に収めた彼女はしゃがんで、俺と目線を合わせようとする。
瞳は赤く、銀髪と相まってとてもきれいだ。そして、すっと通った鼻に、白い肌。
「わふーん…」
『超絶美少女…』
思わず声が漏れた。
「おうおう、怖かったんだねー」
といって抱き上げてくれる。
(うおぉぉおぉおぉ!!!)
やべぇ、犬に転生して良かった!
全力で尻尾をフリフリ。
「はははっそんなに嬉しいか!」
クシャクシャに撫で回される俺。イジられるよりもイジりたい俺だが、この際そんなことはどうでもいい。
正直、抱きあげられているという事実もさることながら、命が助かったことに感激していた。彼女は俺の命の恩人だ。
「ワンコ、両親はどうした?ってそんなこと聞いても分からないか」
「ふるふる」
いないよ、という意味を込めて首を振る。あ、今胸に当たった。革鎧ごしだったけど。
「ワンコ、私の言葉わかるの?」
「わん!」
『もちろん!』
目を丸くする彼女。
「ひょっとして、高位の魔獣かなんかの子供?ここまではっきり私の言うこと分かるなんて…」
「わぅん?」
『はい?』
「さすがにそういうことは分からないか」
コウイノマジュウ?ひょっとして高位の魔獣ってことか?
さすがにそれはないと思うなぁ。てか、俺に親なんかいるのか?気づいたらこの姿で道端に寝ていたんだけど。ひょっとして、俺はイレギュラーな存在なのかもしれない。
体が世界に馴染めなくて消失なんて、よくある話じゃないか。ま、まぁ、1時間近く(体感だけど)いるのに気分が悪くなったり、体が軽くなったり透けたりしていなから大丈夫だろう。
「私の言葉がわかるなら、一応自己紹介しておくか」
俺を地面に下ろす。そして、しゃがみんで目を見つめてくる。
「私の名前はセシリア。セシリア・クレントだよ」
「わうん!」
『いい名前です!』
しかし、この子…もといセシリアは人の目をちゃんと見て話す子だなぁ。あ、今は人じゃなくて犬か。
しばらく俺の顔を見ていたセシリア。
(そ、そんなに見つめられると恥ずかしいじゃないか)
が、その澄んだ赤い瞳からは目を離すことが出来なかった。
「なぁ、ワンコ。君は一人ぼっちなんだよね?」
「わん」
『うん』
じっと俺の目を見てくる彼女。
「なら、私と一緒に旅をしない?」
そういって俺に手を差し伸べる。
とびっきりの笑顔も一緒に俺へ向けてくれる。
「私も独りで旅を続けるのは寂しいしね。きっと、楽しいよ!ワンコが見たことないような景色がこの世界には広がっているんだよ!!!それを一緒に見れたらモット楽しいと思わない?」
どう?とばかりに小首を傾げるセシリア。こんな犬っころに真摯に言葉を投げかけてくるのは、俺が人語を理解できると分かってる以上にこの子が純粋なんだろう。
俺はこの世界では1人じゃ何も出来ない弱い存在だ。世界のことも何も知らない。それに俺自身、この世界のことをもっと知りたいと思った。一緒に旅するなど、渡りに船だろう。
まぁ、単純にセシリアのことが気に入ったというのもある。可愛いし、強いし。正直言ってストライクゾーンど真ん中だ。ガッチリ俺の心を掴んでいる。
そんな一抹の下心も込みで俺は、
「わふん!」
『よろしく!』
ぽふ、と差し伸ばされた手にお手をする。
こうして、1人と1匹の旅が始まった。
3月19日改変
呪文および細かな点を編集いたしました。