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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、亡霊に出会う
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第六話 土砂を掻き分け③



「我望む、全てを遮る赤き壁《炎壁》!」


 セシリアの魔術で、手前に炎の壁が現れる。すぐさまその場を離れ、坑道の入り口がある穴から休憩所まで逃げる。


「あのロックドラゴン、此処に巣を作る気だ!!」

「あいつらは鉱石が好物だ。ミスリルともなりゃあご馳走だろうよ!!」

「弱点は!?」

「俺らは一介の鉱夫だぞ!そんなもん知るか!!」

「弱点ではないが、空は飛べないらしいぞ」


 坑道と休憩所まで丁度半分くらいの位置に来た時だった。


《ギィィィイアアアアア!!!》


 坑道から這い出てきたロックドラゴンが咆哮する。それは魔力の伴った魔咆哮だった。体が吹き飛ばされないように身を低くし、地面をしっかりと踏みしめる。セシリアも何とか耐えたようだが、鉱夫の2人はまともに喰らい、吹き飛ばされていた。

 死んだりしていなければいいが、今はそこまで気を回すほどの余裕はない。どうやって認識しているのかは分からないが、視覚としての機能を失った小さな目を俺らの方に向け、警戒しているようだった。


「さっきので休憩所の人たちが気付いたみたいだね。ギルドに救援を呼んでくれるはず」

「グルルルル」

「救援が来るまで、私達でロックドラゴンを引きつけよう。竜種っていってもきっと下位だよ。思ってたほど気圧されないし。ただ……」


 そう言って右手に持った剣の剣身に左手をそっと当てる。


「全力でやらないとこっちがやられる」


 セシリアの魔力が高まる。ロックドラゴンもそれを察知したのか、魔咆哮をあげようと息を吸い込んだ。


 させるかよ!一か八かだ!!!


《グラァァァァァァ!!!》

《ギュリァァァァ!!!》


 俺とロックドラゴンの魔咆哮がぶつかり合う。とはいえ、俺のは付け焼刃的なものなので、当然押し負ける。が、その少しの時間さえアレばセシリアの詠唱も終わる。


「我が左手に宿るは憤怒の炎。一振りの剣に纏いてすべてを焼き払わん《炎纏》!!」


 セシリアの持つ剣が炎に包まれる。限界まで魔力を込めたようで今まで見た中で一番燃え盛っている。こりゃあ《炎纏》が切れたら剣は粉々だな。


 ロックドラゴンもセシリアの持つ剣に込められた魔力を感じて、無視できないと判断したのだろう。セシリアに向かって突っ込んでくる。


 4本の足を器用に動かし、まるで蜘蛛のような動きをしながらこちらへと近づいてくる。


「ヴォン!!」『近づかせるかよ!!』


 俺の役目はセシリアにロックドラゴンの攻撃がいかないようにすること。相手を撹乱し、その隙にセシリアの剣でぶった切る。

 そう簡単にはいかないだろうが、これが最も理想的。


 ロックドラゴンの顔面へと飛びかかる。ゴツゴツとしていて、鉱石に覆われているようだ。硬くて牙も爪も全く通らない。が、相手の動きを止めるには飛びかかるだけで十分だった。


「ギャィアアア!!!」


 顔に張り付いたを俺を退けようと滅茶苦茶に顔を振る。爪を立ててしがみつくことが出来ない俺はいとも簡単に振り払われる。空中で何とか体勢を立て直し、地面に着地する。

 その間にセシリアはロックドラゴンの側まで移動したようで、比較的柔らかいであろう腹へと斬りかかる。


「……ッ!」


 が、簡単に弾かれてしまう。


 攻撃が通らなかったセシリアはすぐさまその場を離れる。と同時に、ロックドラゴンの周りに石柱が生えてくる。もしその場所に居続けたら貫かれていたかもしれない。


「拙いよシン。やっぱり私の剣じゃアイツに傷を付けられない……」


 俺の側まで来たセシリアは油断なく剣を構え、ロックドラゴンを見ながらポツリという。


 未だセシリアの剣には炎をが纏われているが、その炎を相手を傷つけられないようじゃ殆ど意味を成さない。もとよりこの技は、ああいった防御力の高い相手とは相性が悪い。内臓まで剣が突き刺されば話は別だが、敵が硬すぎる。


「取り敢えず、救援が来るまではなんとか私達で惹きつけておかないと。シン、さっきの叫ぶやつ、まだできそう?」

「ガウ」『ああ』

「なんとか攻撃が通りそうな部位を探してみるから、援護お願いね」


 そう言ってロックドラゴンへ飛び出していく。相手の周りには先程の石柱を砕いて出来たものか、石の塊が浮いている。当然それをとばしてくるのだが―――


「セイッ!!」


 それらを炎剣で全て薙ぎ払う。あの程度の硬さなら問題ないんだけどなぁ。


《グルアァァァァァ!!》


 俺は側面から魔咆哮で相手の動きを邪魔する。やっぱり竜種と言っても下位らしく、俺の魔咆哮でも多少は動きを止められる。その隙にセシリアが攻撃が通りそうな場所を手当たり次第に斬りつけていく。


「ギュアアア!!」


 勿論、ロックドラゴンもやられてばっかりじゃない。


 礫を飛ばしたり、噛み付いてきたり、俺の体ぐらいはありそうな尻尾を振り回したり。


 だが、俺とセシリアはそれらを何とか避ける。受け止めれば防御力の低い俺達はお終いだ。だから何が何でも避ける。


 礫はセシリアの炎剣で焼き払ったり、俺の魔咆哮で対処する。噛み付きは俺が体当たりをかましたり、顔面に炎の魔術を叩きこんで出来た隙に距離をとって。尻尾はあえて前に出ることで攻撃範囲から逃れるセシリア。俺は機動力を活かして避けきるが、そこまで機動力のないセシリアそれしか方法はない。


 その間も噛み付いたり剣で攻撃したりはしているが効いている様子はない。ただ、いくらやっても攻撃が当たらないことには苛立っているようだ。


《ギアアァァァアァァア!!!!》


 手当たり次第に魔咆哮を放ち始めた。俺も同じく魔咆哮で対抗するが、相手のほうが明らかに威力が強い。それに、俺はまだいいがセシリアの消耗が激しい。種族の違いか、魔咆哮で受けるダメージがセシリアの方が大きいみたいだ。


 今も辛そうな顔で魔咆哮に耐えている。これまではなんとか踏ん張っていたものの、今にも耐え切れなくなって吹き飛びそうだ。


 手にしている剣の炎をも弱くなっている。込めた魔力が切れかけているのだ。攻撃こそ直撃していないが、余波を受けたり地面を転がったりして避けているせいで軽鎧もあちこち傷だらけだ。下手したら魔力も切れかけているのかもしれない。


 くそっ!!


 疲弊しているセシリアを見てどうしようもない焦燥感に駆られる。今すぐにでもロックドラゴンに飛びかかりたくなるが我慢する。


 焦るな。俺が考えなしに行動したらそのしわ寄せはセシリアに向かう。俺の魔咆哮で相手の動きを少しでも止められているからセシリアは避けられる。それが無くなったら確実に攻撃を受けてしまう。


 落ち着け。時間を稼ぐんだ。そうすればギルドの援護が―――




 しかし、そう意識をすればするほど逆に焦ってしまったらしく。


 俺はロックドラゴンが魔咆哮を放とうとしたことに気付けなかった。




《ギュリァァァァァアァアアアァァ!!!!》


 今までで一番でかい魔咆哮。気付いた時にはもう遅くまともに食らってしまう俺とセシリア。


「きゃああ!!!」

「キャイン!」


 耐えることが出来ず2人とも地面を転がる。


「ぐ……うぅ」


 セシリアが呻いている。どうやら頭を打ったらしく額から血を流している。軽い脳震盪になったようで上手く立ち上がれずにいた。一方の俺は無理に体勢を立て直したせいか、後ろ足を痛めていた。


 自分たちの状況を確認した時、ある事に気付く。


 ロックドラゴンを中心に魔力が高まっていることに。


《グラァァァァァ!!!》


 魔咆哮を放つも未熟なそれでは相手の周りに渦巻く魔力で簡単に打ち消されてしまう。


 とにかくその場を逃れようとセシリアを尻尾で抱えタ時だった。




 ロックドラゴンの準備が整い、幾本もの石の槍が俺らにつきつけられていた。足を怪我した俺では到底避け切れない量の石の槍。




 それらがまっすぐ俺らに向かって放たれる。





 □ ■ □ ■ □





 正直、魔咆哮でも弾ける気がしなかった。ただ、少しでも威力を減らせることができたら後ろにいるセシリアは守れるかもしれないと思って、腹を括った時だった。


 それは俺らの後ろから聞こえた。




《アオォォォォン!!!》




 強者のみが身に纏うことを許された覇気と魔力を練り合わせた咆哮。俺が使っているような魔力にモノを言わせたなんちゃってではなく、正真正銘。


 俺はおろか、ロックドラゴンのものでさえ遥かに凌駕する魔咆哮は石の槍を尽く破壊した。俺に直撃しなように放たれたのだが、その余波で俺の身体は動けなくなってしまった。畏怖によってだ。


『ロックドラゴン相手に中々持ったではないか』

『か、カリン……』


 悠然と俺らの頭の上を超えて目の前に着地したのは、美しい蒼い毛をもつ魔狼、カリンだった。


「我望む、全てを切り裂く風となれ《斬風》」


 ロックドラゴンのいる所へと緑がかった魔力の刃が叩き込まれる。ロックドラゴンは咄嗟に先端が平らな石柱を地面から生やして自分の体を無理やり後方へと押し出す。

 相手が避けた場所には深く深く切り込まれた後が残る。


「美しき我が姫、セシリアよ!貴男の騎士であるイライアス・レインクットが馳せ参じた!!!」


 蒼い鎧を身に纏った美丈夫がウザいことを言いながらカリンの後を追うように空から登場した。


 手には昼間は見かけなかった身の丈ほどもある大剣を持っていた。白銀に輝く剣身はとても美しい。


「カリン。彼女は生きているのだね?」

「…」


 警戒するロックドラゴンをその軽薄な口調とは裏腹に鋭い眼つきで見やる|イライアス(キザ男)。腐っても冒険者。いや、セシリアなんかよりも遥かに上の気配すらする。

 なんたってさっきまで死ぬかもしれないと思っていた俺に、生き延びれる。と思わせるような安心感がこの男とカリンの背中にはある。


 安心したせいか、情けないことに俺は2人の気配に圧されて動くことができないでいた。


「まだまだ未熟ではあるものの、勇猛果敢な騎士見習いよ。よくぞ我が愛しき姫を守ってくれましたね。ですが、私が来たからにはあなた方には石の一欠片も触れさせませんよ」


 そう言って今一度大剣を構えるイライアス。


『まぁ、安心するがいい。こんな調子でもご主人はかなりの使い手だ。当然私もな。今回は空いてが悪いのでご主人の独壇場だろうがな』


 そう言うと体勢を立て直し、石の礫を放とうとするロックドラゴンに向かって跳びかかる。当然、魔咆哮も交えていて、それだけでロックドラゴンの石の礫は粉々に砕け、自身も押し切られる。


「我が身に宿るは暴乱の風。一振りの剣に纏いて全てを断ち裂かん《風纏》!!」


 呪文からすると、おそらくセシリアが使った《炎纏》の風バージョンってところか。


「さぁ!我が姫を傷つけた代償は高く付きますよッ!!!」


 誰が貴様の姫か。




 そんなふざけたことを抜かしてはいたが、その後の戦いは一方的なものだった。


 カリンが魔咆哮で足止めをし、イライアスが斬る。


 言葉に表せばひどく簡単だが、実際はとんでも無い。


 下位とはいえ竜種の動きを封じるほどの魔咆哮。しかも俺みたいに拡散させるような非効率的な使い方などせず、収束しピンポイントで当てたい場所に当てる。それによってできた隙をイライアスが堅い装甲を物ともせずに切り裂く。まるでバターか何かを斬っているかのように簡単に相手の四肢をバラバラにさせる。


 大ぶりの一撃で足をぶった斬る。腕を振り切った隙を見てロックドラゴンも尻尾で攻撃しようとするが、驚くほど早い引き戻しでいとも簡単にその攻撃を剣の側面で防ぐ。俺が受ければ吹き飛んでしまうような攻撃をだ。

 それどころか手の中で巧み操り尻尾を斬ってしまうほどだ。


 俺らとはまるで次元が違う。


 攻撃を通すどころか避けるのに精一杯になった俺達とは違い、悠々と相手を斬り刻む。


「ハッ!!!」


 四肢どころか尻尾も斬られたロックドラゴンにその攻撃を防ぐ手立てもなく、あっさりと首と胴が泣き別れになってしまった。





メリー・クリスマス!!!


クリスマスはイエス・キリストの誕生日です。神聖な日ですので大人しく家で祈りを捧げましょう。


べ、別に僻んでなんかいないんだからねっ!

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