第五話 土砂を掻き分け②
「おまたせ。ガランさんからタオルもらってきたよ~洗ってあるやつだけど、大丈夫だよね?」
「バウ!」『問題なし!』
職員のお姉さんが掃き掃除している後ろ姿をなんとなく見つめていたり、ボケーっとしているうちにセシリアがガランさんから私物をあずかってきた。
「これで依頼もさくっと終わるといいね」
いざ、ミスリル坑道へ!
ミスリル坑道まで行くには『管理局』で手続きをしなければいけないらしく、『管理局』までやってきた。
『管理局』はツェンタットの最北にある。建物が半分ほど山に埋もれたような外観だ。扉はかなり大きく、大量の石を積んだ荷車が出てきたり、逆に空っぽの荷台が入ったりを繰り返している。積まれた石はきっと鉱物だろう。
中は役所みたいな感じかと思ったらなんと地面むき出しの岩盤むき出しだった。途中までは建物の壁があるのだが、それ以降は岩がむき出しになっている。丁度外から見て山に埋もれているところがその境界線のようだ。
入り口から見て、前方左右と2つずつの大小の穴があり、それぞれに関のようなものが設けられている。建物内の中央には案内人ような人が数人いた。
「B級冒険者のセシリアです。依頼で来たんですけど、この間壊されたミスリル坑道ってどの穴を通ればいいんですか?」
「依頼書はお持ちですか?」
「どうぞ」
「……確認しました。ミスリル坑道へは左手の小さい方の入り口を通って下さい。こちらが通行許可証になります」
どうやらギルドから説明があったらしく、迷わず案内人のところへ向かうセシリア。
通行許可証とかいるんだ。産出量とか管理してんだろうな、なんせ名前が『管理局』だし。
「そんじゃ、お仕事しますか!」
「ガウ!」『任せとけ!』
今回は俺の役割がいつも以上に重要……というか俺が見つけられなかったら依頼失敗だよ!超責任重大。
□ ■ □ ■ □
というわけでやって来ました。ミスリル坑道。
案内された通り道は思っていた以上に整備されていて、ランプで照らされていて意外と明るかった。通り道は徐々に斜面になっていて、抜けると意外にも外に出た。
辺りは開けていて、大きめの小屋が1つある。その近くには森が崩れたような跡があり、何人もの鉱夫らしき人たちがせっせと土砂を運んでいる。
「ん?嬢ちゃん冒険者か?今日は依頼を出していないはずなんだがな」
俺たちに気付いた鉱夫の1人が近寄ってくる。手ぬぐいを頭に巻き、無精髭の生やした厳ついおっさんだ。
「ガランさんという方の依頼で来たんですよ。大事なツルハシが土砂に巻き込まれたらしくてそれを探して欲しいって」
「おぉ、主任の依頼を受けてくれたのか!見つかるわけないって誰も受けてくれてなかったんだよな。そのでっかい魔獣が探してくれるのか?」
「はい。シンって名前です」
「頼むぜ、シンよ」
「ガウ」『頑張ります』
何故かはしらないが、ツェンタットの人たち、特にある程度の年齢に達している人は俺に怯えたりしない。結構気さくに話しかけてくれたりする。
「おぉい!!ちっと休憩すっぞ!!遠くで作業してる奴らを呼んでこい!!!」
おっさんが馬鹿でかい声で叫ぶと、森が崩れていた場所で作業している人たち以外にも、突然ぞろぞろと地面から薄汚れた人たちが現れた。
「うわぁ!!」
思わずセシリアが声を上げるのも頷ける。だってゾンビの如く人が地面から湧きだしてるんだよ?キモいわ!!
「あそこに坑道の入り口があんだよ。こっからじゃ見えにくがな」
「な、なるほど……」
いつの間にか小屋の周辺に作業員がすっかり集まったようだった。
「おう、休憩の前に知らせることがある。この冒険者とこの魔獣が主任の依頼を受けてくれた。なもんで、ここら辺をウロウロするかと思うが気にしなくていいからな。以上」
端的にそう言うとその場を解散させる。若い人が多い作業員は少し嫌な顔をしていた。
「若い連中は人に懐いている魔獣に慣れてねぇもんでな。すまねぇな」
「構いませんよ。でもツェンタットの人って何でこんなに魔獣に慣れているんですか?」
それは俺も気になるところだ。
「あぁ、昔ツェンタットを拠点にしていた魔獣使いがいてな。ソイツとソイツの魔獣がよく尽くしてくれてたんだよ。今の若い連中はあまり知らねぇことだけどな」
「そうだったんですか」
ひょっとしてあの職員の人のお兄さんかな?
「そんじゃ、俺も休憩してくるから、好きに探してくれて構わいないぞ」
「分かりました。シン、よろしくね」
「ガウ!」
よっしゃ頑張って探しますか。
「いや、待て。何人か人を付ける。適当に掘り返してまた崩れでもしたら大変だからな」
ちょっと待ってろと、おっさんは小屋に人を呼びに行った。
手伝ってもらえれば効率良く掘れるな。
□ ■ □ ■ □
「クンクン……」
ガランさんのタオルの匂いを頼りにツルハシの在り処を探す。注意して臭いを嗅いでいると、土の匂いや魔獣の血の匂い、中には人の血や死体の匂いも微かに感じる。正直あまり気分のいいものではないが、仕事などで致し方なし。
丁度作業員達が出てきた穴の中に俺たち入る。深さ2mほどの穴で、結構広い。辺りには掻きだした土砂が積まれている。坑道自体はまだ塞がれている。
「ものの見事に潰れちゃってますね」
「ったく、ホントにだよ。魔獣の野郎……。死人も出るしでやってらんねぇぜ」
「でも討伐されたんだ。これ以上は悪くならないだろ」
おっさんが付けてくれた2人はセシリアと話しながら俺の後ろを付いてくる。時々危ない場所などを教えてくれるので仕事は真面目にこなしているのだろう。
「現れた魔獣って何だったんですか?」
「グリントロールだよ。ソイツと冒険者との戦いの余波で元々危なかった場所が崩れんたんだ。大惨事になる前に手を打とうとしてた矢先にだぜ?」
「そうだったんですか。にしてもトロールとは……面倒くさい相手だったんですね」
「大きい怪我はしなかったみたいだが、かなり苦戦したと聞く」
あぁ、トロールね。アイツは本当に面倒くさい。デカくて動きは鈍いから立ち回りはそれほどキツくはない。ただ、異常なほど耐久力がある。多少の傷ならものの見事に再生する。並の剣術じゃいくら傷をつけても片っ端から回復されるのが落ちだ。しかも痛覚が鈍いのか、こちらの攻撃を物ともせずに撃してくる。
以前セシリアと戦ったのは通常のトロールだったが、非常に面倒だった。
いくらセシリアが斬っても回復するし、俺が体当たりをかましても脂肪に衝撃を吸収されて終わり。埒が明かないので、最高威力の《炎纏》で強化した剣で無視できないほどの傷を与え、トロールが悶え苦しんでいるところを俺が喉元を喰いちぎって仕留めた。
まぁ、そのおかげでセシリアの剣が一本オシャカになったが。
「クンクン……」
う~ん。しっかしピンと来る臭いがしないなぁ。掻きだした土砂に埋もれているってことは無いみたいだ。
「シン、どう?」
「……」
首を振り、芳しくないことを伝える。まだまだまわっていない場所がある。土に埋もれているなら余程注意して探さないと見つからないだろう。いくら普通の犬より鼻が良くても限界はあるからな。
「あの、今さらこんな事言うのもアレなんですけど……」
「なんだ?」
「この土砂の量だとツルハシ壊れちゃってませんか?」
…………あ。
え、何?ひょっとして壊れてバラバラになったかもしれないツルハシを俺は探すことになるの!?
「あぁ、それなら大丈夫だ。主任のツルハシは特別だからな」
「特別?」
「おうよ!主任のツルハシはなぁ、スイイロカネ製なんだぜ!」
「スイイロカネ?」
なんだそれ。
「希少な鉱石だ。緑(風)魔術と非常に相性が良くてな。それが使われているんだ」
「なんでも代々受け継いできた家宝らしいぜ。主任の緑魔術とあのツルハシがあれば掘れない岩盤なんて存在しねぇ」
あれか、名前からしてヒヒイロカネの派生か。
「手入れも行き届いているし、強度もそんじょそこらのツルハシなんて目じゃない」
トンデモなく高価なツルハシだな。ヒヒイロカネでできた剣が金貨500枚だから、金貨100枚。いや下手したらそれ以上の価値があるツルハシとか凄すぎる。
と、そんな感じで話しを聞きながら臭いを辿っていると、奇妙な臭いを俺の鼻が捉えた。
「ん?なんだか揺れてないか?」
「確かに。冒険者の嬢ちゃんも感じるか?」
「はい。少し」
おいおい……。なんかヤバ気な気配してないか!?
「グルルルル……」『セシリア、気をつけろ……』
姿勢を低くし、警戒する。これは敵が迫ってきている時の合図だ。
「やっぱり敵ね。もしかして地中からかしら」
「勘弁してくれ!!」
「くそっ!早く逃げるぞ!みんなに知らせなくては!!」
「私たちは残ります!!あなた達は避難して!」
付き人がすぐさまこの場を離れる。ギルドにでも連絡してくれるだろう。
その内に気配が近づいてくる……!右前脚で2回地面を叩く。
「分かった。我求む、汝が身体、鉄となせ《鉄壁》!我求む、汝が力を剛となせ《剛力》!」
その合図でセシリアが俺に魔術をかけてくれる。これで最低限の戦闘準備は整った。
「強そう?」
「ガウ」『ああ』
気配が近づいてくるとともに最初に捉えた奇妙な臭いも迫ってくる。生き物の臭いと鉱石の臭いを足して半分に割ったような臭いだ。
それが正面から臭ってくる!!
「きゃあ!!」
セシリアに尻尾を巻きつけ、その場から大きく飛び退ける。多少手荒に扱ってしまったがまぁ、これを食らうよりはマシだろう。
そこには坑道を塞いでいた大量の土砂をまき散らして登場した岩の怪物がいた。
目は退化しているのか体の割にひどく小さく、体はまるで岩そのものを纏っているかのようだ。屈んでいる姿勢だから分かりにくいが、立てば3m以上はあるかもしれない。顔付きは岩で覆われているが、何処か蜥蜴を思わせる。
「……冗談じゃねぇぞ」
「なんだってこんなところに」
どうやら先に逃げた2人のところまで飛び退いたらしい。あの岩の魔獣が現れた余波で尻餅をついている2人の隣にいる。
「もしかしてあの魔獣って……」
尻尾から開放したセシリアが剣を抜く。どうやらあの魔獣に心当たりがあるみたいだった。
「あぁ。俺ら鉱夫にとって死神に等しい存在―――」
ソイツの周りに魔力が集まる。周囲にゴロゴロ転がっている石が宙に浮く。
「ロックドラゴン……。竜種だ」
ロックドラゴンの魔力を纏った大量の石が俺らに襲いかかる。
スイイロカネは漢字で書くと翠色金。安直ですみません……。
次回はロックドラゴンとの戦闘です!!
ジャンル『ファンタジー』の名に恥じないためにもドラゴン要素は必須ですね!ドラゴン大好き!