表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、亡霊に出会う
24/34

第一話 サイクロプス狩り

 



「そっちに1匹逃げたぞ!」


 冒険者の包囲網からかろうじて抜けだしてくる1匹の魔獣。3メートルはある不気味な暗い緑色をした体に一本角を生やし、血走った目は1つしかない。腰には何かの動物か魔獣の毛皮を纏い、手には一抱えはある大きな棍棒を持っている。


 サイクロプスと呼ばれるゴブリンの亜種だ。包囲網から抜け出たそいつは幾つもの傷を追っていて、緑の体を赤黒い血で汚している。


 そんな魔物が俺目掛けて走ってくる。以前の俺だったら腰を抜かしていただろうが、今の俺には何の問題もない。


 四肢に力を込め、サイクロプスの腹を目掛けて飛び込む。地面を抉る感覚の次に浮遊感、そして頭が敵の硬い筋肉を物ともしないでめり込む感触。骨のない場所に綺麗に入ったのか、結構ずぶっと突き刺さる。

 《鉄壁》によって硬度が増した体と《剛力》によって上がった筋力から繰り出される頭突きを喰らい、体をくの字に曲げて吹き飛ぶサイクロプス。100kg以上は確実にある物体がぶつかってきたのだ。それも結構なスピードで。そりゃ吹っ飛ぶわな。


 他のサイクロプスの相手をしていた冒険者の近くまで飛んでしまったので、急いで駆けつける。さっきの頭突きだけでもだいぶ致命的なダメージを受けたようだが、確実に仕留めるために、喉笛を噛みちぎることにした。

 仰向けに倒れたそいつの両腕を自分の前脚を使い固定し、剥き出しになっている喉へ自慢の牙を深く突き立てそのまま引きちぎる。


 正直コブリン系というか、人型の肉はあまり美味しくないので吐き出す。どうやら骨ごといったみたいで吐き出した肉片の中に白い硬質のものが混じっている。


 うん。以前の俺なら吐いてるな、確実に。というか、ここまでやらない。いや、やるかもしれないが絶対に躊躇する。


 はぁ、慣れって怖い。もうどうやって2本足で歩いていたのか忘れてしまったよ……。




 □ ■ □ ■ □




 グリュプスの黒色体と出会ってから2年経った。一時期そのことでギルドは騒然としたが、それも1週間もしないで落ち着いた。A級魔獣が出現することは珍しいことではあるが全くないわけではないからだ。そもそも、既に討伐された魔獣には全くもって他の冒険者達は興味が無いようだった。


 デリアンを拠点にひと月程依頼をこなすと新たな土地へと繰り出した。デリアンでは、何かとお世話になったルイ(無事C級に昇格した)やギルドでセシリアに見とれてた眼帯の少年、キート。キートに冒険者のイロハを叩き込んでいたガイエルとリッカなど、いろんな人と交流した。短い期間だったけれど中々に濃い時間だったと思う。


 デリアンを出た後は、ディレーブ王国内をのんびり周遊。有数の観光地である樹木の街フォリィーシュに暫く滞在し、お隣のクラヴィッカ王国を通って南下した(クラヴィッカは特に面白いところはなかった)現在は鍛冶で有名な街ツェンタットがあるゼインド公国を訪れている。


 この間にセシリアは順調にステップアップしなんとB級にまで成長した!2年間でD級からB級まで上げた人は中々いなく、非常に優秀な冒険者だと昇格試験を担当したギルドの人に褒められていた。さっすがセシリアさん!!相棒の俺も鼻が高いぜ!


 勿論、俺もステップアップした。まず、血を浴びても気にならなくなった。敵を噛み砕いたり引きちぎったり切り裂いたりするのが平気になった。それから、生肉が美味しく感じられるようになった!勿論焼いたり調理した肉もウマイのだが、生は生で味わい深いものがある。

 これは中々素晴らしい成長だ。何がって、移動中にセシリアの食料を減らさなくて済む。人間には食べられない魔獣の肉|(人の腹では消化できないらしい)でも十分腹を満たせるのだ。喰える魔獣は狩ってセシリアと食べている。


 うん。どっちかってーと慣れの部分が大きい気がする。いや、当然B級であるセシリアの相棒としても問題ない実力はあると自負しているよ?

 この2年の付き合いで、セシリアは俺の伝えたいことを大体理解してくれてるし、獣の嗅覚や野生の感覚を活かして偵察もできるし役には立っているはずだ。


 そして何より俺がこの2年で変わったのは大きさだ。子犬だった頃の俺とは大違い。あれよあれよとデカくなり、体高約1.2メートル体長2メートル弱はある。

 時折セシリアを背中に乗せて移動する。ゆっくり移動するだけならいいんだけれど、走ろうものならセシリアは簡単に振り落とされる。鞍をつけるという案があったけれど、お断りした。


 だって滅茶苦茶動きにくいんだもん。戦闘に支障が出る。ただ、馬車を引っ張る分には問題ない。敵が来ても綱を外せば問題なく戦える。

 

 とまぁ、色々と成長してる俺らだった。



 さて、そんなセシリアと俺がぜインド王国に来たのには理由がある。 ツェンタットに行くためだ。山々から様々な鉱石が算出されるツェンタットでは金属器、特に武具の生産が非常に盛んだ。定番の鉱石の扱いに長けたドワーフ族も多く住んでいる。そこを訪れる理由はセシリアの新しい武器を購入するため。


 というのも、今までの細剣だとセシリアが新しく覚えた魔術に耐えられないのだ。覚えた魔術は《炎纏》。武器や防具に炎を纏わせる魔術だ。この《炎纏》は非常に使い勝手良いらしい。物理攻撃が効きにくいタイプの魔獣にも有効だし、ちょっとだけ攻撃範囲が広くなるみたいだ。魔力のコストも結構低いとセシリアが自慢していた。


 ただ、問題が一つ。纏わせる武器の消耗が早い。なんでも、普通の鉄じゃあ《炎纏》の魔力に耐えられないらしい。これまでに数本おシャカにしていた。

 そこで、B級にも昇格し今まで以上に稼げるようになったことを機に、ミスリル製の武器を買おうということになった。


 魔鉱石の一種、ミスリル。最もポピュラーな魔鉱石の一種で産出量も魔鉱石の中では多い。アンデッド系の魔獣に効果的な武器になり、ゴーストやスケルトンといった物理攻撃が効きにくい魔獣に有効。通常の武器としても優れたものになる。魔力抵抗も強いため、防具としても活躍が期待できる。装飾品としてはイマイチ。


 ということらしい。全てセシリアの受け売りだ。彼女は色々と俺に話してくれるから、この世界について知ることができている。彼女も俺が反応することに気を良くしてくれて、いっぱい話しかけてくれる。


 さて、つまりは魔力抵抗の強いミスリル製の武器は《炎纏》と非常に相性がいいのだ。で、どうせなら良い物を造ってもらおうということでツェンタットを訪れることにしたのだ。


 先ほど狩っていたサイクロプスはツェンタットまで稼ぎながら行こうということでサイクロプスの討伐依頼を受けていたのだ。




 □ ■ □ ■ □




「さすがシン!あっという間にサイクロプスやっつけちゃったね!」


 セシリアも倒したのだろう、返り血を浴びて何時かのヤンデレスマイル状態だ。ちなみに俺はしっかり舐めとって身奇麗にしました。もう慣れた。というか水場まで我慢して放置していたら血が固まって綺麗にするのにひどく時間が掛かったことがあったのだ。それ以来、付着した血はすぐさま舐めとることにした。


「ヴォン!」『セシリアこそ!』


 声も魔獣らしくなりました。臆病な魔獣くらいなら一鳴きで逃げ出す。


 駆け寄ってきたセシリアはよしよしと俺の頭を撫で回す。


 あぁ、俺はこのご褒美があるから頑張れる!と本気で思う俺は立派に犬根性が染み付いていると思う。


「あのシンとかいう魔獣とんでも無いわね」

「あぁ。サイクロプスをああも簡単に仕留めるとは……」

「そしてセシリアへの懐きっぷり」


 少し遠巻きに俺らのやり取りを見ている今回の依頼の同行者達。最初顔を合わせた時、俺を見た瞬間にみんな一瞬戦闘態勢に入ってちょっと凹んだ。今までの道中、大人しくしてセシリアの言うことを忠実に聞いていたら(いつものことだけどね)。少しは安心したみたいだった。まぁ、まだ少しビビってはいるみたいだけど。


「それじゃあ、討伐証明切り取ったし街道へ戻りましょう」

「分かりました」


 俺とセシリアが戯れていると、臨時パーティーリーダーから声が掛かったので森から出る。

 ツェンタットへの移動中はサイクロプスを見つける度に狩っていたのだ。大抵森の中に潜んでいるので、森での戦闘になる。斥候役は俺だ。嗅覚を活かしてサイクロプスを見つけると、森の戦いやすい場所まで誘導するのが俺の仕事。そしておびき寄せたサイクロプスを仕留めるのが冒険者たちの仕事だ。

 さっきみたいに取りこぼした奴の始末は俺がする。他にも周囲の警戒をしたり、時折ゴブリンやフォレストウルフが出てくるので冒険者たちの邪魔にならないよう追っ払ったりしている。セシリアたちに混ざってしまうと上手いこと連携が取れないのだ。


 そんな感じで俺も立派に働いています。



 ツェンタットまで後少し。美味い飯があるといいなぁ~





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ