第一話 転生速攻あの世行きコース
一旦状況を整理しなければ。
俺はトラックに轢かれて死んだ。これは間違いない。あの痛みは本物だ。が、気づいたら犬になっていた。鏡やら何やらで確認していないから、実際は犬ではなくかもしれないが、四足の犬っぽい何かに転生しれしまったのは確実だ。さっきから声に出して見ても
「わん!」
『こんにちは!』
とか、
「くぅ~ん・・・」
『ごめんなさい・・・』
とかにしか発音されない。別に意図して犬語をしゃべっているわけではない。まるで、声にでる瞬間に自動翻訳されているみたいだ。
そして、俺が今立っている場所は、明らかに日本じゃない。どこまでも続いている野原と、遠くに見える山々。鬱蒼とした森も見受けられる。申し訳程度にある獣道とほとんど変わらないような道が、遠くに見える街へとつながっているみたいだ。轍や、蹄の後が見えることからおそらく馬車でも通っているのだろう。俺はその道の真中に倒れていた。道幅は2メートルぐらいはあるだろう。犬は鼻が効く代わりに目が悪いと聞いたことがあるが、俺はすこぶるよく見える。生前・・・というか人間だった頃より遥かに良い。
明らかに日本じゃない。ひょっとしたら地球ですらないのかもしれないと思えてきた。さすがにそれは小説の読み過ぎだと思うが・・・。
と、何やら嫌な臭いがしてきた。これは・・・獣のような臭いか?ぐるりと見回してみるも、何者かの影は見当たらない。嫌な予感がしたので逃げようとした時だった。
一際臭いが強くなったと思ったら、黒い影が急に現れた。
(は?)
思考停止していると瞬く間にその黒い影に囲まれた。
「グルルゥゥゥゥ」
『エサダ、エサダ』『ハラヘッタ』『ヨワソウ、タベル』
などと物騒な声を上げるデカイわんちゃんたちだった。5頭ぐらいだろうか。よくわからないが、同じ犬だからなのか相手の言っていることが理解できる。
(やっぱり、俺は犬なんだァ)
などと感慨にふけっている場合ではない。奴らは明らかに俺のことをエサだと思っている。が、逃げようにも完璧に退路を塞がれている。
「わ、わん、くぅん!」
『ま、待て、話し合おうじゃありませんか!』
と意思の疎通を図ってみる。
「ガルゥゥ!」
『タベル!』
どうやら意思の挿通は無理みたい・・・。やべぇ、転生して速攻あの世行きコースかも・・・。
じりじりと包囲が狭まってくる。そして、一斉に俺へと跳びかかる!
(おいおいおい!!!まじかよ!?)
俺は恐怖のあまり固く目を閉じた。