第一話 お金の話とエトセトラ
外伝です。シンたちの仲間候補の話となっています。お金の事とかギルドの事などの説明も入ります。
誤字脱字その他ありましたらご報告くださるとありがたいです。
「じゃあ、120ディネだったらお金はどれを出せばいい?」
ここはデリアンにある私設孤児院『止まり木の家』の一室。そこでは毎日夕飯前に年少組のお勉強会が行われる。そのため『お勉強部屋』とも言われている。先生は年長の孤児。先生役は年長組が交替制で行なっていて、今日の担当は最年長のキートだ。
「んとー青銅貨120まい!」
そういって目の前に並べられた硬貨のうち、くすんだ青緑の硬貨を指さす犬耳の女の子。
今日は金銭についてのお勉強会を行なっている。因みにこの金銭についてのお勉強会は止まり木の家ではもっとも熱心に行われている。と、いうのもこの止まり木の家は15歳の成人を迎えると、基本的には出ていかなくてはならないのだ。そのため、生きていく上での最低限の知識は蓄えなくてはならないという、院長の考えがあるため、金銭関係のお勉強会は多く行われる。
「あー間違ってはいないけど、普段そんなに一杯の青銅貨持てるか?」
「う~~~~ん…セトがんばる!!」
少し悩んだが、元気いっぱい笑顔いっぱいで答える犬人族のセト。その眩しい笑顔に思わずため息が漏れるキート。
「普通はそんなに一杯持てません。セバート、どうすれば一番楽にお金を払う事ができる?」
年少組で一番の秀才、普人族のセバートにふる。
「銅判貨1枚と銅貨2枚」
読んでいた本から目をそらすこともせずに、そう端的に答える。
「その通り。みんな、もう一回おさらいするぞ。一番安いお金は―リック、なんだ?」
「青銅貨だよー」
「そう。青銅貨が一番安くて、1ディネだ。コレが10枚集まると、銅貨になる」
机に並べられた硬貨を1枚ずつ指しながら説明をするキート。
「それがまた10まい集まると銅判貨になるんだよね!」
「そうだぞ。そんで、その銅判貨が10枚集まると、銀貨になる。その繰り返しで、銀判貨、金貨、金判貨、晶貨っていう風に増えていくわけだ」
孤人族の男の子シェインが自分の持っている知識を披露したくて堪らないとばかりに大きく声を張る。因みに銀判貨以降は孤児院の子たちがままごとで使うおもちゃの木の硬貨で代用している。
「それじゃあ、質問だ。みんなが普段食べてるパン1個いくらぐらいだと思う?」
「はーい!」
手を上げたのはセト。その決意に満ちた顔はどうやら先程のリベンジに燃えているのだろう。
「よし、セト。いくらだ?」
「120ディネ!!」
「いくらなんでもボッタクリすぎだろう!」
ピシッと軽くチョップをお見舞いするキート。
「あぅ。かいしんの答えだったのに…」
2度目の撃沈にうなだれるセト。犬耳を力なくペタンと垂れている。
「他にはいないかー」
「じゃあ、ぼく!」
「ゼストか。いくらだ?」
「100ディネだろ!」
「セトと大差ない!」
今度はデコピンを繰り出す。犬人族のゼスト少年はおでこを抑えてうずくまった。
「ったく。セーナ、答えは?」
呻いているゼストをよそに、あまり目立たないようにと身を縮こませていた普人族の女の子を指名する。
「ぇっと…10ディネ…だと思う」
自信無さげに小さな声でつぶやくセーナ。
「大当たり!流石、アンナとかスサナの手伝いをしてるだけあるな。みんなも見習えよー」
みんなの前で褒められたのが恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にし、小さい体をより縮こませるセーナだった。
「市場とかで売ってるような食べ物は大体5ディネから高くても50ディネの間だ。それ以上高い売り物は基本ボッタクリだと思え。50ディネでも十分高い。ソレよりも高価な物は大抵でっかい商館で売ってる。そんなものはまず市場に出てこないから、みんなボッタクられないように気をつけろよー」
「「「はーい」」」
分かっているのか分かっていないのか、返事だけは威勢のいい年少組だった。
□ ■ □ ■ □
カリカリと羽ペンが羊皮紙の上を走り回る。長い金髪を後ろで纏め、モノクルをかけた老いた男性の顔を、魔力を糧に柔らかな光を放つランプが照らす。
老人はふと、手を止め机の引き出しから1通の手紙を取り出す。差出人は今はなき戦友だ。
「あやつが死んでもう10年か…。時が流れるのは早いもんだのぅ」
手紙に書かれている内容を老人は一言一句違えずに覚えている。
”ガキを拾った。ある程度面倒見たので、後はお前に任せた”
たったこれだけ書かれた手紙とともに、ボロを纏った少年が老人の元へとやってきた。
老人の名はアルフレッド=レイエント。かつてはSランクパーティーの魔術師としてその名を轟かせたアルフレッドだが、今は孤児院の院長アルとしてデリアンに隠居している。彼の経営する孤児院は『止まり木の家』。冒険者時代に稼いだ莫大な財産をすべてこの孤児院につぎ込んでいる。
「10年も経てば無表情で生意気だったガキンチョが、うるさくてクソ生意気な青二才にもなるわな」
今頃爆睡しているであろう、お勉強部屋で年少の子供たち相手に先生をやっていた人物を思い、口元を僅かに緩ませる。
若い冒険者と共に止まり木の家にやってきて、ムスッとした表情のまま懐から取り出した手紙をアルに突き出すように渡してきた。アルは、手紙の内容と少年が両腕に付けていた腕輪を見て、かつての戦友が死んだことを悟ったのだった。
その後少年は止まり木の家ですくすくと、大分とんでもない感じに成長していき、もうすぐ成人を迎える。
「アイツもとうとう成人だなぁ。全く、子どもというものはあっという間に大きくなる。彼らの先に広がる無限の可能性を思うと、羨ましくならんか?”キート”よ」
粗暴でガサツだった彼からは考えられないような繊細な字で書かれた差出人の名をポツリとつぶやくと、再びペンを走らせたのであった。