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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第十五話 その後➁

予定より大分遅れての投稿となりました。書いていたデータが飛ぶって精神的に大分来ますね…。



デリアンへの帰路ではこれといった問題もなく(まぁ、魔獣が出たりしたが、みんなセシリアに追っ払われていた)、無事にデリアンについた。


「宿に帰って休みたいのはやまやまだけど、任務完遂と情報の偽装提供についてギルドに報告しないと」


宿屋へと直行しようとした俺を抱きかかえるセシリア。


「くぅん…」『休みたい…』


残念ながらその願いが聞き入れられるのは大分後のことだった。


ギルドに入ると、以前は閑散とした様子だったが、今は沢山の人が受付の前に列をなしている。


セシリアが手近な列に加わろうとした時、髭面の汚いツラをしたおっさんが割り込んできた。


「すみません、私が先に並んでたんですけど」


セシリアがそう抗議すると、2m近いデカイ図体をしたおっさんがチラとこちらに目をやる。


「おいおいお嬢ちゃん、ここはダンスパーティーの会場じゃねえんだよ。さっさとお家に帰ってパパにお洋服でも買ってもらいな」


んだ、このおっさん?舐めてんのか、セシリアを。


「すみません、私が先に並んでたんですけど」


先程よりも数度温度の低い声で同じ文言をいうセシリア。


「聞こえてなかったのか、ここはお前みたいな乳臭いガキが来るところじゃねぇんだよ」


さっきのおっさんがいくらか怒気の孕んだ声でセシリアを睨みつける。


「すみません、私が先に並んでたんですけど」


三度、同じセリフを言うセシリア。


「んのぉ!舐めてんのか糞ガキ!!小汚ぇぬいぐるみなんか持ちやがって!」


あ、それひょっとして俺のこと?確かに体のあちこち汚れてますけど、小汚いぬいぐるみって…。


「この子はぬいぐるみなんかじゃありません!私の相棒です!」


その一言に爆笑するおっさん。何事かと伺っていた周りの冒険者たちも呆れた目をしている。


「そんなぬいぐるみみたいな奴が相棒だって?頭沸いてんのか、この嬢ちゃんは」

「これ以上シンを馬鹿にするなら相手になりますよ、三下」

「…上等だ、コラ。口のきき方教えてやるよ」


セシリア、わざわざ挑発しなくてもいいじゃないか。まぁ、セシリアが負けるとは思えないけど。


「冒険者、ゲイン・アラベール!お前に決闘を申し込む!!」

「冒険者、セシリア・クレント。受け付けた」


すると、周りから歓声が上がった。二階からも何人かの冒険者が降りてきて成り行きを見ている。


「おい、誰か見届け人をやれ!」


受付からヤレヤレといって感じで出てきたのは眼鏡をかけた猫耳の美青年だった。


「では、私ミケエル・ヒューライツが見届け人としてこの決闘を仕切りさせて頂きます。武器の使用は不可。相手を降参させるか、行動不能にして下さい。死んでも文句は言わないでくださいね」


周りの人々がセシリアとおっさんを囲むようにしてスペースを空ける。


「両者、準備はよろしいですか」


既に相対している両者。因みに俺はミケエルさんに預けられた。


「……始めっ!」


ニヤニヤと突っ立っているおっさんに向かって一気に距離を詰めるとセシリアは渾身の右ローキックをおっさんの膝に叩き込んだ。ゴスッという鈍い音とともに苦悶の表情を浮かべながら膝が落ちるおっさん。


セシリアは、膝をつき位置が下がったおっさんの側頭部を左ハイキックでぶち抜く。


バタンとその場に倒れ込むおっさん。おっさんは呆気無く気を失ったようだった。


「し、勝者、セシリア・クレント!」


一瞬の出来事に周りは凍り付いている。


セシリアは息を切らせた様子もなく、悠々と受付まで歩いている。


「シン」

「わん」『あいよ』


俺を抱きかかえていたミケエルさんから逃れると、セシリアのあとについて歩くのだった。





□ ■ □ ■ □





その後、任務完遂の旨と偽装提供の疑いがあることを伝えた後、伸びたおっさんがギルド内の医務室に連れて行かれるのを尻目にギルドを後にする。


「女だからって舐められるのは我慢出来ないよ、まったく」


未だに機嫌が悪いらしく、ぷりぷりしている。


「それにシンのことをぬいぐるみ呼ばわりだよ!?」


ま、まぁ、それに関しては否定出来ない。動かなかったら只の黒い犬のぬいぐるみだし。


「おや?ちょっとええかい、そこのお嬢さん」

「ん?私のこと?」

「おぉ…そうじゃよ、そこの銀髪のお嬢さんじゃよ」


そうしゃがれた声をかけてきたのは道の脇にひっそりと佇む、ローブを被った老人だった。


「ワシはこの通り、()()()()()()()只の占い師じゃよ」


そう言ってチラリと俺の方を見た気がした。…もしかして心を読まれたのか?


「占い…ですか?」

「ああそうじゃよ。お前さんは初めてじゃな?代金はまけてやるぞい」

「いや、別に占ってもらうとは…」

「よいよい、遠慮するでないぞい」


セシリアの言葉を無視して、いかにもな水晶玉に手をかざす。


「さぁ、この水晶玉に触ってみるのじゃ」

「は、はぁ…」


強引に話を進めていく老婆に言われたとおり、水晶玉に触れるセシリア。


「…」

「ほう…。見えてきたぞい」


透き通った水晶玉がセシリアが触れてしばらくするとだんだんと靄がかかってくる。


「ふむ…。大樹に黒い竜、それに…炎かの?」

「はぁ」

「っくっくっく…。あいや失礼。これ中々に面白い運命を辿ることになろうのう」


ふむ。占いっしてどこの世界も意味のわからんことを言うんだな。


「あの、もういいですか?」

「おぉ、すまんの。もう行って良いぞ」


「行こう、シン。今日はなんだか疲れたよ。宿に戻ろっか」

「わん」『うん』


俺もなんだか疲れたぜー





□ ■ □ ■ □





「道中気をつけるのじゃぞ、()()()()()()()()


フードの奥の表情は伺えないが、その声音はどこまでも愉快そうだ。


「それにしても、迷い魂にあの受け皿とはのう。奴が一枚齧っているのかはたまた偶然か。いやはや実に面白いことになりそうじゃ」


そうして占い師は遠くを歩く銀髪の少女と追随する黒い犬を一瞥すると、まるで背景に溶けてゆくかのように、何処ともなく消えていったのだった。




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