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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第十三話 決着

此処はどこだ?


何にも見えないし、何にも臭わない。

どちらが上でどちらが下か。それすらも分からない。


止まっているようでぐるぐると回っている。ぐるぐると回っているようで止まっている。

つまり今の状況がよくわからないということだ。ひょっとして俺、死んだのかも。


地に足が付いているのかいないのか分からない、言葉に言い表せられないひどく気持ちの悪い状況だ。


そんなひどく曖昧な中、1つだけ確かなものが在るのを発見した。


ぽつんとこのひどく曖昧な空間に確固たる存在があるのだ。


その確固たる存在はだんだんと曖昧な存在の俺に向かってやってくる。


そして、俺とソイツが触れた瞬間、何かが切り替わった。


突然視界が開けたのだ。それまでの何も見えなかった視界に様々な色が飛び込んできた。


視界の中心には空高くにいる黒。それを中心に莫大な力が渦巻いているのが感じられる。その奥にも何かがいる。そして視界の端にはとんでもないオーラを放つ者が1人。


ふと、とてつもない違和感を感じた。


そう、まるでビデオを見ているかのような感覚がするのだ。自分の目で直接見ているはずなのに。


急に視界が動いた。どうやら立ったみたい(・・・)だった。


待て。今俺はなんと思った?


立ったみたい(・・・)だと?この身体は俺の身体だ。それなのに、視界が動くことでしか身体の動きが分からないってどういうことだ!?


まるで誰かに身体が操れているみたいだ。


と、今度は身体の中の力、昨日のギルドで感じだ自信の魔力が外に引っ張り出されて行く。


魔力がどんどん引っ張られる。そして、魔力が空っぽになる寸前で再び意識が遠のいた。






□ ■ □ ■ □






グリュプス黒色体、アキツ、ミズキ。


それぞれが今持てる最善をもって眼前の障害を排除しようとする。


圧縮された魔力が風の刃と共に解放されるのが先か。

その身に宿す鬼の力を行使するのが先か。

はたまた不可視の槍で貫くのが先か。


しかし、蓋を開けてみるとそのどれにも当てはまらなかった。


2人と1匹の中で変化に気付いたものはミズキだけだった。グリュプスは自身が集める膨大な魔力によって気付かなかったし、アキツも同じように溢れ出る鬼の力によって気付くことは出来なかった。


唯一、高位とはいえ只の魔術を行使していたミズキだけがその変化に気付くことができたのだった。


転移してきた時点で違和感はあった。魔術を構築し始めた時にはっきりと認識した。


アキツの側から、わずかに魔力が溢れ出したのだ。


しかし、それに気付いたからといって魔術をキャンセルすることしなかった。それほど目の前の魔獣は危険だったし、気にするほどの魔力量ではなかったのだ。


そしてその変化に気付きながらも、ミズキの口は呪文を唱えるのは止まらない。

グリュプスは前と後ろに脅威を感じながらも魔力を集める。

上空に現れた妹に驚きながらも呪を紡ぎ続ける。


三者の持てる技が完成する直前、ソレは放たれた。



「グルゥアアァァァァァァァァ!!!!!!!」



ソレは魔力の伴った轟音。ソレはあらゆる力の流れを阻害する。ソレはすべての生きとし生ける物へ恐怖と畏怖を与える。


指向性の持ったソレはまっすぐにグリュプスに放てれていた。


グリュプスの集めていた魔力は圧縮された反動を伴うこと無く霧散し、グリュプス自身は今まで味わったことのない恐怖と畏怖を感じ、身体が硬直する。今まで魔力によって浮いていた身体は自然落下に任せて落ちてゆく。恐れと畏れに縛られた身体は羽ばたくことすら出来ない。


ソレはミズキに向かって放たれていたわけではないが、余波で魔方陣をかき消され、魔術は完成寸前で崩壊。恐れは無いものの一瞬、呼吸すら忘れた。


それはアキツも同じだった。畏れに体が強張り、紡いでいた呪も途切れ、開きかけていた門も閉じてしまった。


ソレを放ったのは紛れも無く、シンだ。もっとも、ソレを放ったことは彼自身気付いてはいないが。無意識のもとで放ったのか、それとも…。


シンの放ったモノに硬直したのも一瞬。ミズキはすぐさま風魔術で浮遊し、落下を食い止める。アキツは身体に僅かに残る鬼の力を振り絞り、落下してくるグリュプス目掛けて高く跳躍した。


未だに体躯が動かないグリュプス。柔らかい腹目掛けて炎鬼を突き出す。刺突に特化した刀と自重、そして落下の衝撃で炎鬼は深く深く突き刺さった。


「ッラァ!!!」


ありったけの魔力を炎鬼に込めるアキツ。炎鬼の本当の使い方は炎を纏うことではない。それはあくまでもサブだ。空へと飛んだグリュプスに対して炎を打ち出したのも本来の使い方とは違う。


恐怖より痛みが勝ったのか、暴れようとするグリュプスだったが、体躯の中から溢れ出す業炎によって、一瞬で体躯を動かすための器官をすべて焼き尽くされてしまった。


そう。炎鬼の本当の使い方は相手を突き刺し中から焼き尽くす。その為、炎鬼は刺突に向いている先端から半分ほどが諸刃になっている小烏造りをしている。炎は刀身全てから出るが、出力が最も高いのは鋒だ。


グリュプスは弱点である炎によった焼かれほとんだ炭化していた。


一方、アキツはありったけの魔力を込めたので所謂”魔力枯渇症”に陥っていた。通常は自己防衛反応が働き、体内にある魔力量は一定以下にならない。それを無理に引き出すと魔力枯渇状態になり、そのことを魔力枯渇症という。下手すれば死に至る。


もっとも、アキツはそこら辺を鑑みて、死なないギリギリの魔力量を残してはいたので死なないだろう。


頭が割れそうな痛みと全身に広がる倦怠感に歯を食いしばって、ほぼ炭状態のグリュプスを漁る。そして目的の物を掴むと、気が抜けたようにその場に座り込んでしまった。



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