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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第十二話 拮抗する鬼と魔獣

久しぶりの更新になってしまいました。



一振り一振りが燃え盛る業火を伴って繰り出される。並の魔物なら(きっさき)が掠っただけで灰塵と化してしまいかねない豪炎。とりわけ火が弱点のグリュプスにとってはそれはとてつもない脅威のはずだった。


「っち。なんつー魔力だ」


グリュプス黒色体。有する魔力は膨大で、純粋な魔力でできた障壁を使うことによってその攻撃のことごとくをその身に触れる寸前で止める。


(クソ…。あんまり長時間戦えないってのに…)


再び斬りつける。が、グリュプスに当たる寸前で刀が止まる。すぐさま飛び退き、風の刃を躱す。


が、追い打ちを掛けるように、避けたアキツに向かい、数十という風の刃が乱れ飛ぶ。アキツは避けることをせず、飛んでくる刃全てを炎鬼で防ぐ。飛んでくる攻撃が風属性ばかりなので、炎属性の炎鬼で防ぐことは全く問題ないのだが、如何せん攻撃手段が乏しい。


(ただ斬りつけるだけではあの魔力障壁は突破できない。かと言って大ぶりをすれば、先刻みたいに風の刃が飛んでくる)


互いに相手の攻撃を防げても、決定打に欠ける。必然的に睨み合いが続く。そうすると長時間戦えないアキツにどうしても不利になってしまう。


一方のグリュプスも苛立ちを募らせていた。彼も大技を撃つことはできない。そうすれば防御にまわす魔力が少なくなり、あっさり障壁を破られてしまうだろう。相手の武器がただの武器ならば、自慢の防御力で問題にはなかったが、相手アキツの持つ刀は明らかに火属性。自分のもっとの苦手とする属性なのだ。


“なんとか隙を作りたい”


種族が違い、思考基盤となるものでさえ異なる両者の思惑は図らずも一致していた。


互いに何度か牽制すると、先に大きく動いたのはグリュプスだった。


アキツの斬撃を魔力障壁によって防ぐと、翼を思い切り羽ばたかせたのだ。


羽ばたかせたことによって生じた突風に思わず動きが止まってしまうアキツ。


グリュプスがその隙を見逃すはずもなく、“離陸した”。


「拙いっ!!」


思わず声を上げるが、時既に遅し。グリュプスは上空へ飛んでいた。




□ ■ □ ■ □




一方、ミズキはセシリアを抱きかかえ森の中を移動していた。


振り返り、すぐさま兄のもとへ行きたいの我慢して。


兄様あにさまに頼まれたんだもの。キッチリこなさなきゃ)


武器や防具を見に着けている人を運ぶのはミズキの同年代はおろか、男性でも厳しいものがある。ましてや歩きにくい森の中だ。しかしながら、身体能力の高い鬼の一族であるミズキにとってはさほど問題ではなかった。


ある程度まで進んだ所で、大き虚のある木を見つけたミズキ。虚の中へ入り、どこからとも無く出したランタンに火を付け明かりを確保する。昼間とはいえ、木々の生い茂る森は薄暗く、虚の中はより一層暗いのだ。


ミズキは毛布を取り出すと地面に敷き、そこにセシリアを横たえると、手早くセシリアの武器や防具を外す。


(良かった。頭が切れている以外に目立った外傷は見当たりませんね)


ざっと怪我の状況を確認すると、消毒液や包帯に傷薬といったものを腰のポーチから取り出す。


手馴れた様子でセシリアの傷の治療をしていく。普段は冷静なくせに戦闘となると無茶をする誰かさんのお陰で怪我の治療は慣れたものだった。


ふと、外からざわついた気配が感じられた。セシリアから流れた血の臭いに誘われ、森の獣が集まってきているのだ。


すぐさま虚から飛び出し、腰の後ろに括りつけてある4()()()短杖ワンドのうちの1本を取り出す。


既に数匹のグラドッグが集まってきている。


因みに短杖とは、魔力操作が上手く出来ない最初の頃に、魔力操作とはどういったものかということを身体に身につかせるための補助魔術具だ。短杖1本につき、1つの下級四色ししき魔術の術式が込められている。そのため、どの属性が自分に合っているのかを見つけるためにも使われる。


つまり、短杖を持っているということは見習いの証なのだ。


だが、とある事情から四色魔術の使えないミズキにとっては、とても便利な代物だった。


「我が手に宿るは疾風<風刃>」


ミズキの持つ杖が緑に光ると風の刃がグラドッグに向かって放たれた。威力こそ、グリュプスの放つ刃に到底及ばないものの、グラドッグ程度を無力化するには十分だった。


仲間がやられると、すぐさまミズキとの距離を離す。


そうしているうちにグラドッグの数は増えていく。どうやらミズキたちのいる木を中心に囲まれている。


(拙い。さすがにこの数は対処できないかな…)


ミズキが自分たちを囲む気配の数に危機感を覚え始めた時、グラドッグたちが一斉に

逃げ始めた。その行動にあっけにとられる。そして今度は驚きの声を上げた。


魔力がある一点に向かって集まっているのだ。


その先には悠然と空で羽ばたくグリュプスの姿があった。





□ ■ □ ■ □




ミズキが側に居ない以上、空へ行く手段は無い。


「燃えろっ!」


魔力を込め、炎を打ち出すものの簡単に避けられてしまう。


アキツは上空のグリュプスを中心に魔力が渦巻いていくのを感じた。


(これは洒落にならん!)


どんどんと魔力が集まっていく。もはやグリュプスは羽ばたくことすらやめていた。そんなことをしなくても、溢れ出す魔力が勝手に体躯を浮かしてくれる。


集まった魔力はその密度故に空間が揺らいでいる。これから放たれるのは、グリュプスの持つ最大の攻撃風魔術。放てば数キロに渡って風の刃が辺りを蹂躙することになるだろう。いくら火属性の武器だとしても圧倒的魔力差の前に防ぐことは不可能だ。


(一か八かだ。開門する!)


「我が身に流れるは鬼の血。我が身に宿るは血の鬼――」


アキツがじゅを唱え始める。


アキツの呪が言い終わるか、グリュプスの魔術が完成するか。


はたまた、


「我が望むはすべてを貫く槍!あらゆるものを地に――」


グリュプスの更に上空に突如として現れた人影、ミズキの高位空間魔術の詠唱が終わるか。




結果は、蓋を開けてみなければ分からない。




今回、四色魔術やら何やらが出てきましたが、そこら辺については後々説明いたします。外伝形式にするか設定資料形式にするかはまだ決まっておりませんが…。



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