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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第十話 初めてのお仕事

明けましておめでとうございます。え?遅すぎるって?申し訳ありません…。



セルシュ村は丸太の柵に囲まれた村だった。きっと、魔獣が村の中に入ってこないようにするためだろう。見た感じ頑丈そうだ。


村に入り口には2人の男が立っていた。手には槍を持っている。防具は着けているが、みすぼらしいものだ。


「デリアン支部から依頼を受けてきました、冒険者ハンターのセシリアです」

「おぉ…」

冒険者証ライセンスを見せてくれ。規則なのでな」


1人はまだ若い男だ。セシリアにちょっと見とれてる。ヒゲのナイスミドルが冒険者証の提示を求めてきた。意外としっかりしてるんだな。もっと簡単に通してもらえるのかと思ったぜ。


「確認した。よく来てくれたセシリア殿。依頼のほう、よろしく頼む」

「分かりました」

「おっと、まだ名乗っていなかったな。俺はベイスだ」

「あ、俺はヤンだ。よろしくね!」

「こちらこそ、よろしく頼むわ」

「さて、これから村長のところで詳しい話をする。付いて来てくれ」


セシリアの冒険者証を確認した、ベイスさんが村長のところに案内してくれるみたいだ。


「ところで、セシリア殿は魔獣使いのようですが、使役されている魔獣は?」

「私の後ろにいますよ。シン」


呼ばれたので、前にでる。お座りの姿勢になり、門番の2人を見上げる。


「これが魔獣?」


随分とバカにした響きだな、ヤンくん。


「グラドッグぐらいなら、簡単に倒せますよ」

「マジですか?」

「ええ。本当です。ですから、ご心配なく」


セシリアに冷たい態度を取られてちょっと落ち込んでいるヤンを後に、俺らは村へ入った。


村はなんてことはない、普通の村だ。木製の家が並んでいる。ただ、人影はあまりないようだ。

普通なら子供でも遊んでそうなんだけどな。


村長の家は村の中心にある、比較的大きな家だ。


「村長、冒険者殿をお連れしました」


ベイスさんが家の中へ呼びかける。


「通してくれ」


中から嗄れた声が聞こえてきた。


「とうぞ、中へ入ってください」

「どうも」


ベイスがドアを開けてくれる。 





□ ■ □ ■ □





家の中はとても質素な感じだった。必要最低限のものだけがおいてあるみたいだ。

部屋の中央にある長机には村長らしきご老人が座っていた。隣にはガタイの良い壮年の男が座っている。


「初めまして、この村の長をやっとるルークだ」

「息子のヘイゼル。よく来てくれた」

「私の名はセシリア。こっちは相棒のシン」


セシリアが俺のことを指さす。


「魔獣使いであったか…」

「…」


2人共あまり良い表情をしなかった。やっぱり魔獣使いはあまりいい目で見られないんだな。こんな所で実感したぜ。


「それで、魔獣の出るという場所は?」

「ああ。この村の東側にある森だ。ここ最近、グラドッグの群れが出没してのう」

「すでに村の者が何人か傷を負ってしまった」


村長の話によると、老朽化していた柵を破壊してグラドッグが村内にまで侵入してしまったらしい。

子供たちも外で遊ぶことができなくなってしまっている。森では薬草や狩猟を行ったりするため、森に入れないことは村にとって大変大きな問題だ。どうにか駆除してもらいたい、とのことだった。


「分かりました」

「よろしく頼む」


村長が深く頭を下げる。息子も渋々と頭を下げる。あんまり期待してなさそうだな、あの息子。


村長の家を後にした。





□ ■ □ ■ □





森まではベイスが案内してくれた。森までの間、セシリアは何やら質問をしていた。


「では、以前までは魔獣たちは森の入口までは出て来なかったと」

「その通りだ。余程奥に行かない限りは魔獣とかち合うことなんかなかった。

「その森って結構大きいんですか?」

「ああ。かなり広いぞ。奥地には魔獣もわんさかいるみたいだ」


ふむ…。とセシリアは顎に手を当て難しそうな顔をする。


歩くたびに揺れる、肩に掛かるくらいの銀髪。太陽の光を受けてキラキラと輝いている。

スッと通った鼻筋に、透き通った白い肌、少し薄めの唇。目は燃えるような紅。


そういえば、こんなに落ち着いてセシリアを見たのは初めてじゃないか?最初に出会った時は、顔よりも戦いの方に目を奪われていたし。


セシリアは俺の視線に気づいたのか、何?と見つめてくる。

なんとなく照れくさくなった俺は、視線を逸した。


そうこうしているうちに、村を出て森についた。


「すまないが、俺がついてこられるのはここまでだ。後は頼んだぞ」

「ええ。任せてください。案内ありがとうございました」

「ではな。健闘を祈る」


ベイスさんが村へと帰っていく。


「さて。シン、奴らの臭いする?」

「わん!」

『もちろん!』


びっくりするぐらいプンプンと臭ってきやがる。かなりの数がいるみたいだ。場所はここからそんなに離れてないとみる。


なんか、1日で犬の行動が身に付いて来てる気がする。精神が身体に慣れてきているってことか?

そのうち自我までもが犬にならなきゃいいけど…。


「さあ、お仕事と行きますか!」

「わん!」


意気揚々と森の中へ入る。


少し歩くと、よりグラドッグの臭いがきつくなる。それに幾つかの視線も感じる。


「ぐるるる…」


威嚇の声を上げる。まぁ、子犬の声での威嚇なんで、ちょっと迫力には欠けるが。


「いるの?」

「わん」


セシリアはすぐさま剣を抜き放つ。


「我求む!汝が身体、鉄となせ!<鉄壁>

 我求む!汝が力を剛となせ!<剛力>」


一息に魔法を俺にかけるセシリア。2つの魔方陣が俺を照らす。

力が漲ってくる。魔法ってやつは本当に凄い。


セシリアが魔法を使ったことにより、一層奴らの警戒が高まる。


「こりゃあ、かなりの数がいるね。ここじゃ火属性魔術も使えないか」

「がうっ!」


セシリアの死角から飛び出してきた1匹の喉元に噛み付き、喉笛を引き千切る。

もう既に嫌悪感は薄れてきていた。街道で仕留めたことで何かが吹っ切れたみたいだった。


「っ!シンありがとう!!」


さっきの1匹の攻撃を皮切りに、一斉に襲いかかってくる。それらを、まとめて横一線で切り捨てる。

が、すぐさま後ろ方向から獰猛な牙が襲いかかってきた。


「せいっ!」


剣で斬りつけるにも間合いが近すぎたのか、回し蹴りで対応するセシリア。ものすごい勢いで、数体を巻き込んで吹っ飛ぶグラドッグ。セシリアって格闘も使えたんだ…。


なんてセシリアの戦いぶりに見入っている暇もなく、俺の方にも敵は来る。


小さい体を活かして敵の懐へ潜り込む。そして柔らかい腹におもいっきり噛み付く。首を振る勢いで腹の肉をちぎり取り、一旦敵の懐から離脱。喉もとへ噛み付こうとすると、敵の首がストンと落ちた。


セシリアが切り落としたようだ。


「シン!奴らを掻き回して!止めは私が刺す!」


返事をする間も惜しく、すぐさまに回りにいる奴らの錯乱に向かう。


と、臭いが俺達をぐるりと囲んでいた。マズイ!!!囲まれた!!!


すぐさまセシリアの元へ駆ける。


「どうしたの!?って…もしかして囲まれた?」


セシリアも気配を感じたんだろう。木の影からぞろぞろとグラドッグが出てくる。


「ったく何匹でてくるのよ。ランクD依頼の量じゃないわよ…」


かなりピンチだ。逃げるにしても、びっちりと囲まれてる。


「どこかを突破するしかなさそうね。あーもうこんな事なら大金払ってでも雷属性買っとけば良かった…。」


ジリジリと包囲網を縮めるグラドッグ。


ああもう!と小さく悪態をつくセシリア。森が焼けてなくなっても知らないんだからね、と怖いことをつぶやいた気がした。


「我が手に宿るは烈火!<火炎>!」


一角に向けて炎の魔法を放つ。数体が燃え、一瞬奴らの動きが止まる。その隙を見逃すはずもなく、そこを突破しに行く。


まずは俺が強化した身体を使って頭突きで道を開く。すでにセシリアの魔法を食らった奴は黒焦げになっていた。空いた隙間にセシリアは入り込み、周りのグラドッグを斬りつける。


「開いた!!!」


俺たちは転げるようにグラドッグの包囲網を突破した。





□ ■ □ ■ □





開けた場所に出る。何とかして包囲網を突破した俺たちは、追いかけてくる奴らを倒しながら、逃げてきた。


ようやく敵の追撃の手が止まったみたいだった。辺りにはグラドッグの臭いがしない。


「ふぅ…」


木に背を預け息をつくセシリア。皮の鎧は血まみれになっていた。セシリアの顔には赤い筋も走っている。が、大きな怪我はないみたいだった。鎧の血も返り血だろう。俺も大した怪我は負っていない。


「あの村の連中、高い報酬を払うのが嫌で、ランクが低くなるようにわざとグラドッグの数を少なくギルドに報告していたに違いないわ」


ゴソゴソと腰のポシェットを漁っていたセシリアは珍しく怒っている。珍しいっても、俺は2日間しか一緒にいなんだが…。


「あったあった」


そう言って取り出したのは試験管らしものに入った赤い液体だった。


キュポンとコルクの栓を抜くと、俺に差し出してきた。


「怪我はない?ポーション飲めば少しは楽になるよ」


肉体強化してたこともあり、ほとんど怪我をしなかったので辞退する。

そんなことよりも、返り血を洗いたい。血の匂いで鼻が曲がりそうだ。舐め取ればいいのだろうけど、それは俺の心が許さない。


セシリアは一気にポーションを飲み干す。ものすごい不味そうな顔をしていた。


「それにしても、なんでグラドッグは引いたのかな?ここら辺にはいないんでしょ?」

「わん」

『そうだよ』


ずっと追撃していたグラドッグだったが、途中から臭いが消えていった。なぜ追いかけるのをやめたのだろうか?


と、何やら新たな臭いがしてきた。周囲を見渡すが、それらしき気配はしない。どこから臭ってくるのだろうと、探っていると、どうやら臭いは上から漂ってきているみたいだ。


「どうかした?」


キョロキョロしていた俺に気づいたセシリアが俺と同じように上を向いた。


黒い点が空にポツリと浮いていた。雲の少ない青い空にポツンと。


「なんだろあれ?」


だんだんと近づいてくる。その気配は尋常じゃなかった。


グラドッグなんてお話にならないレベルの気配を持っていた。


だんだんと近づいてくるソイツは真っ黒の身体を持っていた。闇夜みたいな飲み込まれていきそうな黒。


「じ、上半身は鷲で、下半身は獅子…」


ソイツはゆっくりと、まるで俺らなど急いで対峙する必要もなとばかりにゆったりと舞い降りた。 

背丈は成人男性ぐらいだろうか。羽は広げたら3mはあるだろう。前足は鷲の持つ鋭い鉤爪、後ろ足は獅子の如く力強い豪脚。


「ランクA+、グリュプスの黒色体…!!」


なんでこんな所に…そう言ったセシリアの言葉はグリュプスの咆哮にかき消された。



なんとか1月中に投稿できて良かったです。本来なら、2話投稿する予定だったのですが、間に合いませんでした…。


PV16,000アクセス、ユニークアクセス4,000人

こんなに読んでくださっているとは、本当に感謝です。

これからも黒犬をよろしくお願いします。


3月19日改変

細かい点を編集いたしました。

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