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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
黒犬、になる
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第九話 いざ、お仕事へ

ちょっとグロい描写があります。ご注意を。


「くそっ!逃げ足の速いやつだな!!」

「っち。アイツら森に逃げるつもりだ、拙いぞ」

「……」


ひたすらに走る三人組。どうやら何かを追っているようだ。


「何としても捕まえるぞ。あんな金貨の塊逃がしてたまるか…!」


この三人は冒険者だ。が、正規の冒険者ではない。様々な理由(ロクな理由ではないが)で正規の冒険者を続けることができなくなった者たちが集まって出来た、闇ギルドの一員。


表の協会ギルドにはできないような依頼を受けている。


「しかしまぁ、俺たちもツいてるよな」

「あぁまったくだ。まさか“鬼の一族”に会えるとはなぁ。しかも2匹も」

「片方は女だったしな。いったいいくらで奴隷商人が買ってくれることやら」


鬼の一族とは遥か東にある島にひっそりと暮らしている一族の総称だ。非常に優れた鍛冶技術や陶工技術を持った一族。しかし、鬼の一族の最大の特徴は別にある。


それは、類稀なる戦闘能力だ。別に身体能力がずば抜けているわけではない。人族とも大した差はないだろう。が、彼らのもつ“力”は尋常じゃない。彼らはその身に鬼を飼っている。


「拙い!もう少しで森だ!」

「……ッ!」


先程から一言も口にしなかった男が数本の投げナイフを投げつける。

その内の一本が遥か先を走る人間の足に突き刺さる。


「よし!これなら、大して遠くに逃げられねぇだろ」

「コイツを連れてきて正解だったな」

「……」


彼らは鬼の一族の二人を追って森に入る…。





□ ■ □ ■ □





兄様あにさま、足のお怪我大丈夫ですか?」


どこまでも透き通る、透明な声。黒いローブを被り、その表情は伺えないが兄のことを心配している声色だった。


「大したことじゃない。神経毒を塗ってあったみたいだが、これくらいは体が勝手に解毒してくれる」


同じく黒いローブを被る男の名はアキツ。ローブの奥の黄金色の瞳が薄暗い森の中で煌めいている。

足に刺さったナイフを抜き、軽く止血する。


この兄妹は今、追われている。


今彼らのいる場所は、シンたちがデリアンに入ってきた門とは逆側から出ていくと見える森林。シエンの森。通称『魔力喰らいの森』。吸魔コウモリにドレインワームといった、魔力を糧とする魔獣が大量に生息する、危険な森だ。


「兄様、これからどういたしましょう?」

「そうだな…。また追いかけられるのも厄介だから、始末しておくか」

「そうですか。ならば…」

「いや、手持ちのだけで十分事足りる」

「兄様、あの刃物を投げてきた御仁にはお気をつけて下さい」

「わかった。ミズキはここに残れ」

「分かりました。兄様」





□ ■ □ ■ □





「くぁ~~~~」

『ふわぁ~~~』


はぁ、昨日は疲れた…。てか、朝から疲れた。

朝、セシリアが起きてきてくるまでは良かったのだ。けど、あいつとんでもない格好で起きてきやがった。


前がはだけているものの、肝心な部分は見えないという、すばらs…ゲフンゲフン。だらしない格好で起きてきやがったのだ…!


俺、精神もたないかもしれない…。


「シン、早く食べちゃって。今日は昨日受けた依頼をこなさなきゃいけないんだよ」

「わん」

『はーい』


ったく、少しは俺の身にもなってくれよ。



朝食を食べ終えた俺らは、準備をするということで、魔法屋にきている。


どうやら此処は魔法が売っているお店のようだ。昨日の商人のオッサンが言っていた魔法を買いに来たんだろう。


しっかしこの店…なのか?なんにもディスプレイされてないし、店自体小さすぎるだろ。

ちょっとしたカフェのほうがまだ大きいぞ。


店主もやる気なさげにカウンターに肘ついて本読んでるし。眼鏡の奥の瞳にはやる気というものが感じられない。俺がカウンターにお座りしてても全然見向きもしないし。この男、商売する気あるのか?



「鉄壁と剛力下さい」

「ん?あんた魔獣使いだね。2つあわせて銀貨18枚だよ」

「う…。結構高い」

「そりゃね。元々の値段が高いからね。なんせ魔力食う割には効果はさほどでもないから」


おい、やっぱりコイツ商売する気無いだろ。


「まぁ、人間とは違って魔獣は魔力伝導率が高いから、効果はあるから心配しなくていいよ」


どうやら、この補助魔法は俺に掛けられるらしい。


2つのガラス玉を受け取って、店をあとにした。


その後、門番に挨拶をしてデリアンの外へ出る。因みにこの門は昨日通った門とは逆側、つまりデリアン川の東側だ。


セルシュ村はデリアンから徒歩で半日もかからないところにあるってゼルさんがいってた。結構遠いぞ…。


「取り敢えず、買った魔術玉を使わなきゃね」


そう言ってさっき買った玉を取り出す。それを両手で握ると、セシリアの足元に魔方陣が出ててきた。


魔方陣が消えると、


「ふぅ。もう一つか」


そうしてもう一つの玉も同じようにする。


「さて、魔術式もいれたことだし、お仕事いきますか!」

「わん!」

『了解!』


何やらよく分からないうちに魔法を習得したらしい。





□ ■ □ ■ □





俺たちが目指す、セルシュ村。何でも、ここ最近グラドッグの群れが近くに住み着いて家畜を荒らしているらしい。その駆除が今回の依頼だ。ランクはDと本来ならセシリア1人でも事足りるレベルだが、今回は俺の初めての戦闘演習ということでこの依頼を受けることに。


「ねぇシン、あの森ってひょっとしたらルイさんが行くシエンの森じゃない?」


ん?お、確かに森がある。そういや、東側にあるとかなんとか言ってたな。魔法の使えない森か。


「ルイさん、依頼成功するといいね」

「わん」

『そうだな』


それにしても、あの森。ヤケに血の臭いがする。誰か魔獣にでも食われたか?


「さぁ、いくら街道歩くからって魔獣が出ないとも限らない。気合入れるよ!」

「ばう!」

『了解!』


って、この臭い…。まさか!!


「ぐるるるる」

『セシリア、来る』

「もしかして敵?」


セシリアが剣を抜き、構える。


「ガウッ!!!!」


魔獣が飛び出てくる。こいつら、昨日俺のことを襲った奴らか!臭いがおんなじだ!

セシリアに逃してもらった奴らだな。


「シン、予行演習だよ!しっかり仕留めてね!」

「わん!」

『分かった!』


とは言ったものの、俺の攻撃手段って、噛み付くだけだろ…。うわぁ、噛み付きたくねぇ。しかも相手俺の2倍はデカイぞ。子犬に倒せるのか!?


「我求む!汝が身体、鉄となせ!<鉄壁>」


俺の足元に魔方陣ができたと思ったら、突然光に包まれた。


「我求む!汝が力を剛となせ!<剛力>」


再び光が俺を包む。


「シン、これで多少の攻撃は喰らっても平気だよ。それに力も上がってるから、アイツらなんて蹴散らしちゃえ」


確かに体に力が漲っている。


セシリアはもうすでに何体か切り伏せている。どうやら戦いながら魔法を唱えていたみたいだ。


セシリアの剣から逃れた1体が俺に向かってくる。


馬鹿正直に突っ込んでくるので右に飛んで避け、地面に着地。足のバネを生かし、隙だらけの土手っ腹に飛び込み、頭突きをお見舞いする。

グラドッグが吹き飛ぶ。骨の折れる嫌な感触が頭に残った。


うわぁ、体がめちゃめちゃ頑丈になってる。しかも、筋力が上がってる気がする。魔法恐るべし。


と、敵が立ち上がりそうな気配を感じる。これ、やっぱり仕留めなきゃダメだよなぁ…。

なんて考えていると、相手が立ち上がる。


殺意むき出しの目に一瞬体が強張る。その隙を逃してくれるわけもなく、その凶悪な牙で俺を噛み砕こうと飛び込んでくる。


やばい…!


その時、頭の中で何かが弾けた。


気がついたら、何の躊躇いもなく、グラドッグの喉に深々と噛み付いていた。


柔らかな肉を俺の牙が引き裂いていく感触、筋繊維をブチブチと千切っていく感覚、口の中に広がる嫌な鉄の味、鼻孔を通り抜ける生臭い血の匂い。


すべてが明確に感じられた。自我の希薄な中で、これが本能なんだと、感じていた。

どうやら、躊躇った精神に代わって肉体が生命の危機を乗り越えたみたいだ。


不思議と嘔吐感や嫌悪感は湧かなかった。不快感はかなりのものだったが。

これって、精神が身体に慣れつつあるってことなのか?


セシリアは俺が1匹殺している間に、残りの数匹をあっさり始末していた。


「む、やっぱりまだ子犬のシンには手強い相手だったかな?」


セシリア、返り血を浴びて小首を傾げるなんて可愛い仕草をしないでくれ。そこはかとなくヤンデレっ娘に愛されてる気分になる…。


その後は特に襲撃なども受けることなく、目的地のセルシュ村についたのだった。



これにて今年の投稿はお終いです。来年も何卒よろしくお願いします!

では、皆様よいお年を~


3月19日改変

魔術玉を使用する描写を加えました。書くのをすっかり忘れてた…。

その他細かい点も編集いたしました。

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