プロローグ
俺の名前は西崎眞也。冴えない21歳会社員だった。特技はどこでも寝られること。環境適応力が高いと自分では思っている。ちなみに恋人はいない。趣味は読書でラノベから推理小説まで手広く読んでいて、音楽もそこそこ好きな、それこそどこにでもいるような人間だ。
そんな俺は、いつものように晩酌をして床に着こうと冷蔵庫を開けるものの、目当てのビールもとい、発泡酒が無いので近くのコンビニに買いに行くことにした。
これが運の尽き・・・というか命の尽きだった。
500円以上購入でできるようになるクジでビール(これは本物)が当たったので、終始ゴキゲンで夜の道路を愛車のママチャリを漕いでいた。
自宅のアパートとコンビニまでのルートには大きな国道があって、それを渡らなければならない。いつものように横断歩道をキコキコと渡っている時だった。
ギャリギャリと不快な音と共にペダルが動かなくなった。
チャリのチェーンが絡まったのだ。
「うぇー直すのメンドクサー」
とそんなことも言ってられないので、下車しチェーンをいじる俺。さほど時間もかからずにチェーンは直った。
と、信号が点滅してたのでさっさと渡りきろうとした時だった。
横からの強烈な光に目がくらむ。そこには止まる気配が感じられないトラックが迫ってきていた。
(は?)
一瞬、思考が停止する。その間はコンマ一秒もなかったと思う。
俺の体が激痛と浮遊感を感じた。目前に迫り来るコンクリートを見つめながら、久しぶりにビールが飲めたのになぁ、なんて下らないことを思った。
そして意識が刈り取られる。俺、西崎眞也はこの時をもって、死んだ。
□ ■ □ ■ □
ハズだ。そう、俺は死んだはずなのだ。あんなスピードで大型トラックに突っ込まれ、宙を舞い、あまつさえコンクリに頭から落ちていったのだ。助かるはずがない。
なのに気づいたら意識があった。
俺の目には、どこまでも広がる青い空が映っていた。体の自由はどうやら利かないみたいだ。仕方がないからずっと空を眺めていた。
鳥が気持ちよさそうに空を泳いでいた。排気ガスの感じられない、爽やかな風が頬を撫でていく。
どれくらいっただろうか、まるで急に金縛りから覚めたみたいに体が言うことを聞くようになった。ずっと地面に仰向けで寝転がっていたから背中が痛くてしかたない。
そして俺は、4本の足で立ち上がった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・4本の足!?
え?4本の足ってどういうこと?自分で立ち上がっておいて、なぜ4本の足で立っているのか理解できなかった。
恐る恐る、自分の前足を見てみる。艶やかな黒い毛皮に覆われていた。
『なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』
と叫んだつもりが、喉から発せられるのは、
「きゃうーーーん!?」
と、犬の叫び語。
その瞬間、俺は悟った。
そう、俺は犬に転生してしまったのだ。
3月19日改変
細かな点を編集いたしました。