04:04:38 -TOKYO-
ねぇ。
私といた時間、後悔してる?
喉を押し上げた言葉は最後まで唇を割らず、押し殺した想いは心に沈んでいく。
絡みついた想いの残滓はそれだけで喉を締め、言葉は出口を失った。
答えは曖昧な笑顔で躱されるかしら。
それとも気まぐれで答えをくれるのかしら。
とは言え答えをもらえたところで、今となっては取り返せない時間への繰り言にしかならないのだけれど。
そう、もう取り返せないならば、誰も触れられないほどの深さに沈めるしかできない。
明らかな逃げだと分かっていても、それ以外の選択など私にはできないのだから。
沈めても沈めてもなお浮かび上がるキモチは大きすぎて、そろそろ私自身の手にすら余りそうだ。
それが足掻いて決定的に浮かび上がる前に、最後の言葉も言わず私は背を向けた。
無言で帰るなんていつもの私にはできない。
でも、仕方ないじゃない。
こんな最後になった今でも、あなたから"別れの言葉"を聞きたくなかったのよ。
未練たらしいことをいう前に、カッコいい私のままで。私は何も言わず、そして何も聞かずに背を向けた。
ワガママね。
わかってるわ。
でも、いいじゃない。
あなたの記憶に残る最後が、泣き崩れて化粧がグチャグチャの顔なんて。女としてのプライドが許せないの。
こんなの傷のうちに入らないんだから。またすぐに他のオトコを見つけてるわ。
そう笑って、背を伸ばして帰るの。
それくらい見栄を張らせてよ。
縋り付いて引き止めるなんてしない。それができるならとうの昔にやってるわ。できたかもしれないタイミングは、今じゃないの。
もう、遅いのよ。
それに知ってるでしょう?
私、面倒臭いほどにプライド高いのよ。
せいぜい、あなたの褒めてくれた「カッコいいオンナ」を装うわ。
あなたの逃した私をあなたの目に焼き付けてやる。
それくらい許してよね。
私ばかり想ってたなんてズルいじゃない。
だからあと五分だけ。
あなたの前から姿を消す間だけ。
泣き崩れるのは後回しに決めた。
いいだけ泣いてから、温かな布団の中で。
メールを消す。
送受信の履歴を消す。
着信履歴を消す。
発信履歴を消す。
それから、アドレス帳にある彼のページを呼び出して。
少しだけためらって、彼のデータを全て消した。
たくさん泣いたのに、おかしいな。
また涙が出てきた。
いいや、泣いちゃえ。
思いっきり私を甘やかしたら、もう一度探しに行くことにしよう。
カッコ良くない私も受け入れてくれる人がいたら、嬉しいな———
※このお話はフィクションです