よく眠れる村
昔々、あるところに、因習村がありました。
その村は生贄を求め、邪悪な儀式で村を訪れた人間を犠牲にしていったのです。
ある日、一人の若者が村を訪れました。
「僕は旅行が趣味で、旅先の美しい風景を写真に残すのが好きなんです」
若者は因習村の古き良き日本を残したような景色にいたく感動していました。
ですから、村の人間が彼を新たな生贄にしようと企んでいることなど、知る由もありません。
「ヒヒヒ、アイツを邪神様に捧げよう」
村人たちはニチャッと笑いながら若者を迎え入れ、歓迎したのです。
若者は夢中で村の写真を撮り、時折村人たちに、村について尋ねました。
当たり障りのない返事をしながら、若者がその夜には儀式の生贄になる様子を想像して笑っていた村人たち。
「ヒヒヒ、何も知らずに愚かなやつだ。写真を撮っても、もう意味がないのになあ」
夜になって、若者は村長の家に宿泊することになりました。この村には宿屋がありません。
「やっぱり夏は夜になっても暑いなあ。少しだけ窓を開けて寝よう」
若者は窓を開けっ放しにしたまま、昼間の疲れからぐっすり眠ってしまいました。
すると、窓から吹き込んだ風で、テーブルの上に置かれていた果物が転がり始めたのです。
一方、村人たちは若者を生贄にするための準備を進めていました。
祭りの衣装係が、村長の家の廊下を歩き、衣装を運んでいます。
そこへ、若者の部屋から転がってきた果物が廊下に飛び出し、衣装係の足元に……。
「うわぁっ!」
衣装係がすっ転んで、持っていた衣装で廊下の飾り棚を倒してしまいました。
棚に置かれていたランタンが落ちて、衣装に引火し、大炎上。
「わっ! た、大変だ、消さないと!」
衣装係は慌てて井戸に駆け寄り、水を汲もうとしました。
しかし、慌てすぎてバケツの縄を巻き込み、井戸の滑車が外れてしまったのです。
滑車はゴロゴロと転がり、生贄を食べさせる獣の入った檻の鍵を外してしまいました。
檻から飛び出した獣は、村の中を駆け回ります。
騒ぎに気づいた村人たちは、慌てて獣を追いかけますが、村中を逃げ回る獣は農具や壁を壊しまくりました。
しまいには、村で一番大切な祭壇を破壊。
「ああ、なんということだ。これでは儀式ができない……」
夜が明けて、村人は全員疲れ果て、儀式もできないまま朝になってしまいました。
若者は朝ご飯を食べて、「よく寝た~、いい村だったなあ」と、何も知らないまま村を去ったのでした。
めでたし、めでたし。




