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ネジレン  作者: yoii
8/10

錯覚

 私を止めることもなく、

 動揺した様子すら見せなかった。


 彼の表情は、あまりにも淡々としていた。


 その落ち着いた声は、

 むしろ不快に感じられるほどだった。


「本当ですか?

 条件のようなものは……」


「一週間後だ」


 マガツが言葉を遮った。


「馬車と金は用意しておく」


「数時間ほど走って森を抜ければ、村に出るだろう」


 安堵感に、思わず小さな笑みが漏れた。


 私は嬉しさを隠しながら、素早く部屋を出た。


 マガツは最初から最後まで、

 一度も私の目を見ようとしなかった。


 一週間は、信じられないほど早く過ぎた。


「この野郎、勝手に休むな!」


 ――バシッ。


 掌が頬を叩いた。


 痛みが広がったが、何とも思わなかった。


「笑ってるじゃないか。

 嫌な奴め」


 ――明日になれば……ここから出られる。


 それ以外のことは、何も考えられなかった。


 その夜、一睡もできなかった。


 胸の高鳴りなのか、

 いつも見る悪夢のせいなのかは分からなかった。


 どうでもよかった。


 今日、私は家族のもとへ帰る。


「どこへ出ようというのだ!」


 門の前を、侍たちが塞いだ。


「開けろ」


「マガツ様の命令です」


 不満げな表情と共に、扉が開いた。


 目の前に、馬車が停まっていた。


 心臓が大きく脈打った。


 家族に会ったら、何と言えばいいのか。

 一瞬、迷いがよぎった。


 ――いや、そんなことは重要ではなかった。


 解放感が、すべての思考を押し流した。


「今、行くつもりか」


 背後から聞こえた声。


 毎日聞いているはずなのに、

 全身に鳥肌が立ち、体が固まった。


「はい……

 これから本当の家族に会いに行きます」


 笑顔は出なかったが、

 気まずい空気を誤魔化すように、無理に口元を上げた。


「……」


 マガツは、何も言わなかった。


「御者を呼んでいただけますか?

 私は馬の扱いが分からないので……」


 一瞬の静寂が流れ、

 マガツが小さく呟いた。


「家族だと……

 そんなものなら、とっくに会っているだろう」


 彼の言葉の意味が、理解できなかった。


 私は馬車の扉を開けようと、手を伸ばした。


 その瞬間――


 マガツが、笑い始めた。


 クスクスと、

 耳障りな笑い声だった。


 手が、異様に重かった。


 ――ガチャン。


「中に誰か、乗ってらっしゃい――」


 言葉が、途中で途切れた。


 冷たい。


 あまりにも、冷たかった。


 家族と呼ぶには、

 すでに冷めきっていた。


 背後で、笑い声が爆発した。


「ハハハハハ」


「まさか……

 お前を生かしてやると思ったか」


 マガツの声は、喜びに満ちていた。


「お前の能力は、あまりにも重要だ」


「だから、

 俺のものじゃないわけにはいかない」


 いつからいたのか分からない聖者たちが、

 四方を取り囲んでいた。


「他の奴らに渡すわけにはいかない」


「今さら、お前が俺を離れると言うなら……」


 彼は指先で、

 ゆっくりと私を指し示した。


「ジョディ……」


「違う。

 サイリカンを殺せ」

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