二人の父
「ママ……」
声が出なかった。
もう背負って歩けないほど大きくなったメイと目が合った。
メイの目には涙がいっぱいに溜まっていた。
「ママ……あのね、怖いものがあるの……」
メイはすすり泣きながらそう言った。
その瞬間、父が私を鋭く睨みつけた。
「用があるなら、早く言ってください。
ちょうど今、忙しいんですから」
母は懐から一枚の絵を取り出し、静かに口を開いた。
「あ……もしかして、
こんなに赤くて、輪の模様がある目をした子を、
見たことはありませんか?」
「あなた……もう子供じゃないのに……」
「名前は、ジョディって言うんですけど……」
そう言おうとした瞬間、言葉が喉で詰まった。
「あなた、あの子を見て。
うちのジョディと、同じ目をしてるわ」
母は私を上から下まで見つめ、すぐに顔をしかめた。
「あなたまで勘違いするなんて。
あれが、どうして私たちのジョディなの?」
マガツが私を後ろへ引き寄せながら言った。
「ああ、その目は神里眼ですね。
神里眼を持つ人は、決して少なくありませんよ」
「ご覧の通り、こちらの息子も神里眼を持っています」
「ジョディ……
残念ですが、初めて聞く名前ですね」
「また、いつかお会いした時にでも、
ご説明しましょう」
父は意気消沈した様子で尋ねた。
「この辺りに、学校はありますか?」
マガツの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
「はい。
あちらの村に、小さな学校があります。
私たちがご案内しましょう」
「ああ……
それでは、ありがとうございます」
すると父は、手を振りながら言った。
「お忙しいところ申し訳ない。
私たちだけで、行ってみます」
いつの間にか、マガツは父のすぐ前に立っていた。
「いえ。
ぜひ、お手伝いさせてください」
先ほどまでの明るい声は消え、
低く重たい声が、恐ろしく感じられた。
「あ……
それでは、ありがたく……」
しばらくして、馬車が用意された。
御者と、御者助手が一人、乗り込んだ。
御者の腕には、白く淡く光るものが見えた。
一見すると、それは剣のようだった。
馬車は瞬く間に走り出し、
私とマガツは再び部屋へ戻った。
マガツの表情は、いつの間にか暗くなっていた。
しかし、それはもはや重要ではなかった。
私は、母と父とメイと一緒に暮らしていた。
マガツは、私の父ではない。
「ジョディ、今日はもう帰っていいぞ」
その夜、私は一睡もできなかった。
朝になり、覚悟を決めた。
――家族のもとへ戻る。
マガツの部屋の前に立った。
口は乾ききり、手には汗が止まらなかった。
「入ってこい」
「……やっぱり、お前か」
まるで、私が来ることを最初から知っていたかのような口ぶりだった。
「家族のもとに、戻りたいです」
勇気を振り絞って言ったが、声は小さかった。
一瞬の静寂が流れた後、マガツが口を開いた。
「いいだろう。
そうしろ」




