黒い斑点
「うわっ——!」
「生きてきて
初めて味わう快感だ!」
「まさか…
体が
軽すぎる!」
ただ、
飲み込んだ。
飲み込み、
飲み込み、
また飲み込んだ。
心臓は
今にも破裂しそうになり、
視界は
ぼやけていった。
「おい、
早く
俺にもやれよ!」
「今日は
そこまでだ。」
「せっかく見つけた
神理安が
壊れる。」
厳かで、
重い声が
部屋に響いた。
「えー、
つまらないわ。」
使用人のような女が、
ため息混じりに言った。
「部屋へ行きましょう。」
「案内するわ。」
『寮』と紹介された場所は、
廊下の端にある
小さな部屋だった。
ベッドには
蜘蛛の巣が張り、
窓は
一つもなかった。
「夕食よ。」
「食べ終わったら、
ドアの外に
出しておきなさい。」
ボリュームたっぷりに見える
夕食だったが、
口に入れることは
できなかった。
何も
食べていないのに、
吐き気だけが
込み上げてくる。
「うえぇぇっ!」
口元から
白い唾が垂れ、
酸っぱい味が
喉に広がった。
鏡を覗き込むと、
顔と腕に
黒い染みが
浮かんでいた。
手で擦っても、
落ちなかった。
体に、
奇妙な斑点が
できていた。
『ここから
早く
出なきゃ……』
皆が眠る夜、
無我夢中で
廊下に出た。
窓は
一つもなく、
所々にある
巨大な扉も、
微動だにしなかった。
「そこの誰だ!」
人の気配が近づき、
慌てて
部屋へ戻った。
その夜、
恐ろしい悪夢に
苛まれ、
眠ることは
できなかった。
「ジョディ。」
「何年か経って、
ずいぶん
背が伸びたな。」
「もう、
この親父と
同じくらいじゃないか。」
「さあ、
今日も
私のために
頑張ってくれ。」
ここに来てから、
どれほどの時間が
経ったのか。
数えるのは、
とうに
やめていた。
次第に増えた斑点は、
全身を
覆い尽くし、
鏡を見ることも
なくなった。
『はい、
父上』
考えるのを、
やめた。
私の父は、
マガツという男だ。
かつて
家族と呼んでいた者たちが、
誰だったのか。
その記憶すら、
もう
霞んでいた。
胸の痛みは、
次第に
薄れていった。
今では、
ただ
痺れる程度だ。
「マガツ様、
お客様が
お見えです。」
「俺が
ジョディといる時は、
邪魔するなと
言ったはずだ。」
「申し訳ありません。」
「しかし、
あの方々が
どうしても
お会いしたいと……」
「息子よ。」
「出て行こうか。」
騒がしい音と共に、
扉が
開いた。
その向こうで、
目が合った。
家族のように見える、
人々。
母に、
父に、
そして——
メイに
似ていた。
『メイ……』
『あれ……?』




